「害獣が最近増えた」を確かめる公的データは5種類

「最近、害獣を見かけることが増えた」という感覚を確かめるには、個体数、分布、捕獲数、被害額、自治体の出没情報を分けて見ます。個体数は統計手法による推定値、分布は調査年ごとの「いる・いない」の広がり、捕獲数や被害額は人の活動や報告の影響も受けます。1つの数字だけで「増えた」「減った」と決めないことが大切です。

環境省は、ニホンジカとイノシシの全国的な動向を把握するため、統計手法を使った個体数の推定を平成25年度から行っています。下の表に、データの種類ごとの読み方をまとめます。

「害獣が最近増えた」を確かめる公的データは5種類:確認項目
データの種類分かること分からないこと・限界主な公表元
個体数の推定(シカ・イノシシ)全国の頭数の規模と動向(中央値と90%信用区間)市町村や自宅周辺の頭数。捕獲数などの集計が翌年度になるため、推定には時間差がある環境省
分布調査・分布図いる地域が広がったか。調査年の比較(1978年度と近年など)地図の広がりは頭数そのものではない。調査の方法や年が違う環境省、国立環境研究所
捕獲数・狩猟免許所持者数捕獲の規模と、担い手の人数・年齢構成捕獲数が増えても、個体数が増えたとは限らない(捕獲強化の結果でもある)環境省
農作物の被害額作物被害の年ごとの増減と、獣種別の内訳住宅の被害は含まれない。作物の価格や報告の影響を受ける農林水産省
自治体の出没・目撃情報街中や住宅地での出没件数、月別の傾向自治体ごとに集め方が違い、県同士や市町村同士を単純には比べられない都道府県・市町村

参考:環境省|全国のニホンジカ及びイノシシの個体数推定等の結果について(2026年4月23日報道発表、令和5年度末時点)

読者の疑問

害獣は本当に増えているのですか?

比較ガイド

環境省は、シカの分布域が1978〜2018年度で約2.74倍、イノシシが1978〜2020年度の調査で約1.9倍に広がり、個体数も高い水準としています。イノシシは減少傾向とされるため、獣種と地域で分けて確認します。

シカ・イノシシの個体数推定|令和5年度末の推定値と読み方

環境省が2026年4月23日に発表した、令和5年度末時点のニホンジカとイノシシの個体数推定の結果を整理します。中央値は、推定した値を大きさ順に並べたときの中央の値で、90%信用区間は、推定の幅を表します。

シカ:全国で約303万頭、本州以南で約230万頭

令和5年度末のニホンジカは、全国(北海道と本州以南)で中央値約303万頭(90%信用区間は約156万〜589万頭)、本州以南で約230万頭(同約120万〜443万頭)と推定されました。環境省は、依然として高い水準にあるため、引き続き捕獲強化を進めると説明しています。北海道を含めた全国での推定は、この回から行われています。

環境省と農林水産省は、平成25年にニホンジカとイノシシの個体数を10年後(令和5年度)までに半減させる目標を掲げました。しかし、令和4年度までの調査で個体数が高い水準にあり、令和5年度の達成が難しい状況になったため、令和5年9月に半減目標の期限を令和10年度まで延長しています。

イノシシ:約122万頭。減少傾向だが高い水準

イノシシは、令和5年度末で中央値約122万頭(90%信用区間は約72万〜206万頭)と推定されました。同じ発表の添付資料(資料2)は、イノシシの個体数は減少傾向にあるものの高い水準にあるため、捕獲強化を進める必要があるとしています。

推定値の読み方|発表ごとの数字を並べて増減を判断しない

前年(2024年4月)の発表では、令和4年度末の本州以南のニホンジカは約246万頭(90%信用区間は約216万〜305万頭)、イノシシは約78万頭(約58万〜105万頭)でした。今回の令和5年度末の発表(本州以南のシカ約230万頭、イノシシ約122万頭)と数字だけを並べると、シカは減り、イノシシは増えたように見えますが、今回の資料はイノシシについて減少傾向と説明しています。

推定は新しいデータで更新され、今回から北海道も含めて推定されています。信用区間の幅も発表ごとに違います。発表ごとの数字を単純に並べて増減を判断せず、環境省が示す動向の説明とあわせて読んでください。

参考:環境省|全国のニホンジカ及びイノシシの個体数推定等の結果について(2026年4月23日報道発表、令和5年度末時点)

分布の変化|シカは約2.74倍、イノシシは約1.9倍に広がった

分布の広がりは、環境省の2つのガイドラインと、シカの密度分布図で確認できます。調査の年や方法が獣種で違うため、シカ、イノシシ、密度の順に見ていきます。

ニホンジカ:分布区画数は40年で2.74倍

ニホンジカの分布は、環境省のガイドライン(2026年3月)に整理されています。全国的な分布調査は、1978年度の第2回自然環境保全基礎調査と2003年度の第6回調査で行われ、その後、2014年度と2020年度にも分布域が更新されました。1978年度から2018年度までの分布区画数(5kmメッシュ単位)は174%増え、40年間で2.74倍になっています。2014年度の調査で分布していなかったのは茨城県のみでしたが、2020年度の調査では茨城県でも新たに確認されました。東北地方の青森県や秋田県、北陸地方、中国地方、佐賀県でも分布が広がったとされています。

イノシシ:約1.9倍に広がり、積雪地域や島しょ部でも確認

イノシシについては、環境省のガイドライン改定版(2021年3月)が、1978年度の調査から2020年度の調査の間で分布域が約1.9倍に広がり、2014年度の調査から2020年度の調査でも約1.1倍に広がったと書いています。これまで分布の空白地帯とされていた積雪地域や島しょ部でも、生息が確認されるようになりました。

シカの密度分布図|密度の高い地域と増えている地域

環境省は2024年3月、本州以南のシカの密度分布図(令和4年度当初)を公表し、全国的に生息域は拡大している一方で、生息密度にはむらがあると説明しました。密度が高いと推定されたのは、北上高地、房総半島、八ヶ岳から南アルプスにかけて、近畿北部、紀伊山地、四国東部、九州北部や西部などで、平成26年度と比べると、東北地方や九州地方の多くの地域で密度が増える傾向でした。地図の探し方は害獣マップの探し方の記事で整理しています。

参考:環境省|第二種特定鳥獣管理計画作成のためのガイドライン(ニホンジカ編)改定第2版(2026年3月・PDF)

捕獲数の推移|シカ・イノシシとも1990年度から大きく増えた

環境省の統計によるシカとイノシシの捕獲数(狩猟と許可捕獲などの合計)は、1990年度のシカ約4.2万頭、イノシシ約7.0万頭から、2010年度にはシカ約36万頭、イノシシ約48万頭へ増え、令和6年度の速報値はシカ約73.9万頭、イノシシ約64.3万頭でした。捕獲数が増えたことは、個体数が増えた可能性と、捕獲を強化した結果の両方を含むため、捕獲数だけでは増減の根拠になりません。

2020年度までの数字は環境省の捕獲数の表(令和2年度分は速報値)、令和4〜6年度は別の速報値の表によるもので、「その他」には被害防止や数の調整を目的とした許可捕獲が含まれます。数字は十の位で四捨五入されています。最新の数字は環境省の公表で確認してください。

捕獲数の推移|シカ・イノシシとも1990年度から大きく増えた:確認項目
年度ニホンジカの捕獲数(頭)イノシシの捕獲数(頭)備考
1990年度約42,000約70,200狩猟と許可捕獲などの合計
2000年度約137,400約148,300同上
2010年度約363,100約477,000同上
2020年度約674,800約678,900速報値
令和4年度716,800590,100速報値
令和5年度722,700522,000速報値
令和6年度738,700643,000速報値(令和7年9月25日現在)

参考:環境省|ニホンジカ・イノシシ捕獲頭数速報値(令和6年度・PDF)

狩猟免許所持者の年齢構成|銃猟が減り、わな猟が増えた

狩猟の担い手は、環境省の統計で、1975年度に517,800人だった狩猟免許所持者は大きく減り、2010年度は190,200人、2021年度は213,400人でした。60歳以上の割合は、1975年度の約9%から2010年度に約64%となり、2021年度は約56%です。第1種銃猟は1975年度の493,700人から2021年度の84,400人に減った一方、わな猟は2010年度の64,300人から2021年度の119,500人に増えています。

環境省のニホンジカ編ガイドラインは、狩猟者登録証の交付数が1990年に25万人を超えていたものの2010年に15万人を下回り、2013年度頃から横ばいになったと整理しています。下の表の60歳以上の割合は、各年度の60歳以上の人数を合計で割ってこの記事で計算したもので、人数は十の位で四捨五入された値です。

わな猟は2007年に網猟免許と分けて区分されたため、それ以前のわな猟の人数は表にありません。環境省のPDFに載っている免許所持者数は2021年度分までです。

狩猟免許所持者の年齢構成|銃猟が減り、わな猟が増えた:確認項目
年度免許所持者の合計(人)うち60歳以上(人)60歳以上の割合第1種銃猟(人)わな猟(人)
1975年度517,80045,700約9%493,700区分前
1990年度289,50059,100約20%258,100区分前
2000年度210,20081,000約39%170,500区分前
2010年度190,200121,700約64%116,50064,300
2021年度213,400119,100約56%84,400119,500

参考:環境省|年代別狩猟免許所持者数(PDF)

アライグマ・ハクビシンなど住宅地に出る動物の分布拡大

住宅地や街中で見かけることが増えたと感じやすい動物には、外来種のアライグマ、ハクビシン、キョンがいます。環境省のアライグマ防除の手引き(2025年改訂版)は、アライグマが1962年に国内で初めて野生化が確認されて以来、各地で定着が報告され、すでに沖縄県を除く全国に定着しつつあるとしています。2017年と2023年の市町村の分布を比べると、東北や中国、九州南部などで分布が広がり、2024年にまとめた市町村アンケートでは、沖縄県を除くすべての都道府県で生息が確認されました。

同じ手引きは、分布の拡大、生息数の増加、被害の増加に歯止めがかかっていない一方、積極的な取組で被害や生息数が減った地域もあるとしています。国立環境研究所のデータベースでは、ハクビシンは日本列島のほぼ全域に分布するとされています。千葉県は、キョンが県中南部の17市町で繁殖が確認され、住宅地付近にも出没して、花壇や家庭菜園で採食する姿が目撃されていると案内しています。

参考:環境省|アライグマ防除の手引き(地域から構築する効果的な防除、2025年改訂版)

農作物の被害額の推移|獣種によって増減が分かれる

農林水産省の統計では、全国の野生鳥獣による農作物被害金額は、平成22年度の239億円から令和3年度・4年度の約155億円まで減り、令和6年度に188億円となりました。獣種別に見ると、増減の向きが分かれます。

シカは平成22年度の7,750百万円から令和元年度の5,305百万円まで減ったあと増え、令和6年度は7,851百万円と平成22年度とほぼ同じ水準でした。イノシシとサルは、平成22年度より少ない水準です。アライグマとハクビシンは、平成22年度と令和6年度を比べると増えています。被害額は農作物の被害の報告による金額で、動物の頭数を示す数字ではなく、住宅や庭の被害は含まれません。

農作物の被害額の推移|獣種によって増減が分かれる:確認項目
獣種平成22年度(百万円)令和2年度(百万円)令和6年度(百万円)
シカ7,7505,6427,851
イノシシ6,7994,5654,456
サル1,854856770
アライグマ352414693
ハクビシン377434478
全体(鳥獣計)23,94916,12118,753

参考:農林水産省|野生鳥獣による農作物被害状況の推移(参考3・PDF)

公的機関が挙げる増加・出没の要因|狩猟者の減少、耕作放棄地、暖冬など

なぜ増えたのかについて、この記事は独自の理由を加えず、公的機関の資料が挙げている要因を並べます。環境省のニホンジカ編ガイドラインは、少子高齢化と人口減少で鳥獣管理の担い手の高齢化や人手不足が進み、2010年頃までに狩猟者が大幅に減ったこと、放棄された農地や管理されなくなった里山林が大型獣にとって好ましい生息環境になっていることを、1990年代以降のシカの著しい増加と生息域の拡大の背景として書いています。

同じガイドラインは、1980年代以降に個体数が増えた経緯として、保護政策が暖冬の継続などの影響も加わって効果を発揮したと説明しています。また、農林水産省の被害防止マニュアルも、離農による耕作放棄地が新たな鳥獣被害の温床になるとしています。これらは公的機関が示す要因で、地域ごとに当てはまる程度は違います。自分の地域の理由は、市町村や県の資料で確認してください。

  • 狩猟者の減少と高齢化(環境省のニホンジカ編ガイドライン)
  • 放棄された農地や管理されなくなった里山林が、大型獣の好ましい生息環境になっていること(同上)
  • 最近の暖冬が、特に東日本でシカの死亡率を下げ、個体数の増加傾向を強めていること(同上)
  • 耕作放棄地や過疎化が、鳥獣の人里への出没を容易にすること(同上。農林水産省の総合対策編にも、耕作放棄地が新たな被害の温床になるとの記載がある)
  • 外来動物では、飼育個体の逸出や放逐で野生化したこと(アライグマは1970年代後半の飼育ブームが背景とされる。国立環境研究所)

参考:農林水産省|野生鳥獣被害防止マニュアル【総合対策編】令和5年3月版 第1章 鳥獣被害の現状(PDF)

住宅地・街中で見かけたときの行動と、家の周りの誘引物の点検

街中や住宅地で野生動物を見かけたときは、まず安全の確保と記録、次に家の周りの点検の順に進めます。以下は、公的機関の案内にある行動をまとめたものです。

見かけたときの行動と相談先

街中で野生動物を見かけたときは、大阪府の案内にあるとおり、近寄らない、目を合わせない、食べ物を見せない・与えないことを基本にします。逃げるときは動物を刺激せず、目を合わせずにゆっくり後ずさりします。近づいたりからかったりすると事故につながるため、子どもにも近づかないよう伝えてください。見かけた日時と場所は、市町村の鳥獣担当窓口へ連絡します。イノシシは市役所への依頼の可否と相談窓口、ハクビシンは市役所・区役所の対応で扱っています。

野生の鳥獣は、狩猟の場合を除いて原則として捕獲や殺傷が禁止されており、被害があるときも許可が必要です。アライグマなどの特定外来生物は、生きたままの運搬や飼養、野外へ放つことが外来生物法で原則禁止されています。自分で捕まえて動かさず、窓口に確認してください。屋根裏から音がするなど住宅への侵入が疑われるときは、害獣の侵入経路を部位別に確認する表で、地上や室内から見える範囲を確認します。

家の周りの誘引物を点検する|餌・ごみ・果実

農林水産省の被害防止マニュアル(総合対策編)は、ヒコバエや放任果樹などを減らすことが、野生鳥獣を誘引している原因の除去になり、対策の効果を高めるとしています。大阪府も、餌付けをしない、家庭菜園や田畑の周りに野菜くずを放置しない、ごみは収集日の朝に指定の場所へ出し、袋の口を結んでネットをかけると案内しています。ごみは人にとって不要でも、野生動物には栄養豊富な餌になり、知らないうちに餌付けになる場合があります。庭の果樹はハクビシンに果実を食べられたときの手順も参考にしてください。

  • 庭や畑の取り残しの果実、落ちた果実、放任果樹
  • 家庭菜園の周りに放置した野菜くず
  • ごみの出し方(収集日の朝に出す、袋の口を結ぶ、ネットをかける)
  • 動物に食べ物を与える行為(餌付け)や、食べられる状態の食べ物の屋外放置

参考:大阪府|市街地周辺における野生動物の出没情報