熊の出没時に行われる駆除は3種類|狩猟・許可捕獲・緊急銃猟の違い
熊の駆除と一口に言っても、法律上の入り口は一つではありません。環境省は、鳥獣保護管理法では狩猟として行う場合を除いて野生鳥獣の捕獲を原則として禁止し、被害防止などの目的で環境大臣や都道府県知事の許可を受けた場合に限って捕獲できると案内しています。市街地や住宅地で人に危険が及ぶ場面を想定して令和7年に加わったのが、市町村長が実施する緊急銃猟です。次の表で、判断する人と場面の違いを並べます。
| 仕組み | 判断・許可する人 | 主な場面 | 手続きの要点 |
|---|---|---|---|
| 狩猟 | 狩猟免許と年度ごとの登録を受けた個人 | 狩猟期間に、法定の猟法で狩猟鳥獣を捕獲する | 免許の取得と、毎年度の猟期前の登録が必要 |
| 許可捕獲(箱わななど) | 都道府県知事等(権限の一部が市町村長に移された地域もある) | 被害防止や個体数調整など、法で定める目的 | 申請が必要。許可された期間・区域・方法の範囲で行う |
| 緊急銃猟 | 市町村長 | 人の日常生活圏に熊やイノシシが出没し、緊急に対処が必要な場面 | 許可申請は不要。4つの条件を満たすと市町村が実施できる |
熊が出没したら、誰が駆除を判断するのですか?
人の日常生活圏で緊急銃猟をするかどうかは、市町村長が4つの条件を確認して判断します。農地や山あいでの許可捕獲は、都道府県知事等の許可に基づいて行われ、判断する人が異なります。
市街地での銃猟は原則禁止|緊急銃猟制度ができる前の制限と対応
熊が住宅地に入っても、猟銃を使った捕獲が簡単に行えなかったのは、鳥獣保護管理法に銃猟を制限する規定があるためです。従来の制限、応急的な対応、緊急銃猟の始まりの順に確認します。
法第38条が禁じている銃猟
鳥獣保護管理法の第38条は、日出前と日没後の銃猟、住居が集合している地域や広場、駅などの多数の人が集まる場所での銃猟、弾丸が届くおそれのある人や建物、乗物に向かっての銃猟を禁止しています。住宅地や駅などの近くでは、熊が目の前にいても、通常の銃猟は認められていませんでした。
制度ができる前の応急的な対応
環境省のガイドラインによると、これまでは危険が現実に迫って特に急を要する場面で、警察官職務執行法第4条に基づく警察官の命令を受けて対応したり、結果として刑法の緊急避難にあたる場合に違法性がなくなったりする形で、応急的に銃猟が行われてきました。にらみ合いが続く膠着状態では、より予防的で迅速な対応が必要だとして、令和7年法律第28号による改正で緊急銃猟が設けられています。
緊急銃猟の始まりと対象
環境省が示す改正法の概要には、施行日が令和7年9月1日と記載されています。同省の資料でも、令和7年9月から運用が始まったと説明されています。対象は、人の生命や身体に危害を及ぼすおそれが大きいものとして政令で定められた、ヒグマ、ツキノワグマ、イノシシです。
緊急銃猟制度の概要|実施主体・4つの要件・実施状況
緊急銃猟を実施する権限を持つのは市町村長です。環境省のガイドラインは、現場の指揮や安全確保から損失の補償までを市町村の事務と位置づけ、担当職員への専決や権限の委任を平時から決めておくことが望ましいとしています。銃を撃つ行為は、市町村職員か、市町村が委託した捕獲者が行います。
法第34条の2は、下の表の4つの条件を市町村長が満たしていると認めた場合に限り、緊急銃猟ができると定めています。ガイドラインは、4つめの『住民に弾丸が到達するおそれがない』かどうかは、現場で判断することになると説明しています。
委託を受けて撃つ捕獲者には、装薬銃なら第一種銃猟免許、過去1年以内に2回以上の射撃、過去3年以内に同種の銃器で熊、イノシシまたはニホンジカの捕獲等をした経験といった要件があります。発砲のタイミングは捕獲者の専門性に委ねられますが、責任は市町村が負い、捕獲者に応諾義務はなく、協力を求められても断れます。
対象は、ヒグマ、ツキノワグマ、イノシシです。ガイドラインは、イノシシの幼獣は銃猟以外の方法でも対応できると考えられるとしています。環境省が把握する事例に限って公表された実施状況では、発砲まで至った事例は令和7年度が60件(令和8年3月27日更新の資料)、令和8年度が31件(令和8年10月1日更新の資料)で、大半はツキノワグマでした。東北や北陸、関東だけでなく、京都府、奈良県、三重県、東京都でも実施されています。
ただし、熊が出たら必ず緊急銃猟をするわけではありません。ガイドラインは、現場の状況を見ながら追い払いなどを含む複数の手段から選ぶこと、緊急銃猟に安易に頼らず、平時から出没を防ぐ取り組みを進めることを求めています。イノシシが住宅地に出たときの行動は、兵庫の住宅地でイノシシに出会ったら|安全確保と目撃情報の伝え方で確認できます。
| 条件 | 意味(環境省資料の説明) |
|---|---|
| 人の日常生活圏への侵入 | 熊やイノシシが住居、広場、生活用道路、商業施設、農地、電車や自動車などに入っている、または入るおそれが大きい |
| 緊急の必要 | 人の生命や身体への危害を防ぐための措置を、緊急に講ずる必要がある |
| 銃猟以外では困難 | 追い払いや箱わななど、銃猟以外の方法では的確かつ迅速な捕獲が難しい |
| 弾丸が届くおそれがない | 通行の禁止・制限や避難などの措置で、人に弾丸が到達するおそれその他の危害のおそれがない |
緊急銃猟の流れ|誰が判断し、誰が実施し、住民は何をするか
市街地に熊が出没したときの対応は、1つの部署だけで行うものではありません。ガイドラインの役割分担表には、射手、射手の補助、実施の判断と現場指揮、通行制限、住民への避難の呼びかけ、記録、場所の管理者との調整、広報、原状回復の9つの役割が並び、危機管理の担当など、鳥獣担当以外の職員が動員された例も紹介されています。次の表は、通報から損失補償までの流れを、住民の側から並べ直したものです。段階の名前は当サイトで付け、順番と内容はガイドラインに沿っています。
| 段階 | 主に動く人 | 住民に関わること |
|---|---|---|
| 1 通報・状況確認 | 目撃者、市町村、警察 | 目撃した日時、場所、熊が向かった方向、けがの有無などを伝える |
| 2 注意喚起 | 市町村 | 広報車、個別訪問、防災無線やメール、ホームページ、SNSなどで知らされる。内容を確認して行動する |
| 3 方針の判断 | 市町村、捕獲関係者、警察 | 条件を満たす見込みが十分でなければ、追い払いや箱わなによる対応に切り替わる |
| 4 応援要請(必要時) | 市町村長から都道府県知事へ | 職員の応援派遣などを求める段階で、住民に求められる行動は特にない |
| 5 安全確保の措置 | 市町村長(現場の指揮は職員)、警察 | 通行禁止・制限の区域に入らない。避難指示に従い、屋外避難または屋内避難をする |
| 6 条件の確認と委託 | 市町村 | 現場で『弾丸が届くおそれがないか』を確認し、職員への指示または捕獲者への委託が行われる |
| 7 銃猟 | 捕獲者 | 区域の外か、指示された屋内にとどまる。見物や撮影のために近づかない |
| 8 確認・解除・原状回復 | 市町村 | 捕獲の完了と安全の確認ののち、通行制限と避難が解除される。解除の連絡があるまで区域に戻らない |
| 9 損失補償 | 市町村長 | 物損があれば、市町村長に補償を請求できる |
住民に求められる行動|通行制限・避難・屋内待機のポイント
環境省の住民向けパンフレットは、緊急銃猟の実施地域にいる人に、通行禁止・制限の厳守と、屋外避難または屋内避難をお願いする場合があり、その場合は市町村職員の指示に従うよう求めています。屋外避難は緊急銃猟を行う場所の周囲から離れること、屋内避難は窓から離れるか窓のない廊下に避難することと説明されています。平常時の備えは、クマ出没への対策|家の周りの誘引物の点検と遭遇時の行動を確認にまとめています。
通行禁止・制限は、見物人や報道関係者にも及ぶ
通行の禁止・制限は、法第34条の4に基づいて市町村長が行う措置で、その場所に住んでいる人だけでなく、通行している人も対象です。ガイドラインは、報道機関や様子を見に来た第三者が区域に入ったために、人手が割かれたり、実施が中止になったりした事例があると書いています。違反した人は、三月以下の拘禁刑または三十万円以下の罰金に処される場合があります(法第84条の2)。
屋内に避難するときの考え方
ガイドラインは、跳弾などで窓が割れてけがをするおそれや、壁の材質によっては弾丸が貫通するおそれがあるため、屋内避難では窓から離れる、窓のない廊下に移動する、身を守る姿勢をとることが重要だと説明しています。射線の方向に家屋があるときは、建物から退避して安全な場所へ避難することも検討されます。移動できない病院や介護施設の利用者は、カーテンを閉めて窓ガラスの飛散に注意するとされています。
個別訪問や呼びかけへの協力
住居から出ないよう求めたり、2階へ移動するよう求めたりする場面では、令和8年2月までに環境省が把握した事例のほとんどで、自治体と警察が個別訪問で説明したと、ガイドラインは報告しています。避難の必要性や跳弾の説明、高齢者への説明に時間がかかった例もあるため、訪問を受けたら職員の説明を聞き、指示された行動をとってください。
- 市町村の広報車、防災無線、ホームページ、SNSなどで、通行制限の場所と期間を確認する
- 指定された区域には入らず、見に行ったり撮影したりしない
- 屋内では窓から離れ、窓のない廊下など安全な場所へ移動する
- 解除の連絡があるまで、区域内に戻らない
緊急銃猟で損害が出たとき|補償の請求先と環境省資料の考え方
弾丸が逸れたり、跳ね返ったり、貫通したりして建物や乗物などを傷つける可能性は、安全確保の措置をとっても完全には排除できません。このため法第34条の6は、緊急銃猟の実施や、他人の土地への立入り・障害物の除去のために損失を受けた人に、市町村長が通常生ずべき損失を補償すると定めています。委託を受けた捕獲者ではなく、実施者である市町村長が補償します。
補償を受けるには、市町村長に請求します。市町村長は、請求の理由や金額の内訳などの書類を受け取って審査し、補償の要否と金額を決めて通知します。金額に不服がある場合は、通知を受けた日から6か月以内に、市町村を被告とする訴えで増額を請求できると、法に定められています。環境省は、市町村があらかじめ保険に加入しておくことが望ましいとしています。
| 損失の種類 | 補償の考え方(環境省資料) | 書類の例 |
|---|---|---|
| 着弾で壊れた建物・乗物など | 通常生ずべき損失として、市町村長が補償する | 修理見積書、損害箇所のわかる写真 |
| 損壊で営業が休止・阻害された損失 | 損壊がなければ得られた利益が対象になりうる(算出式の例は収益減少額×利益率) | 日次・月次の売上資料、直近の決算資料、復旧工事期間のわかる資料 |
| 立入りや障害物の除去による損失 | 他人の土地への立入りや、射線上の支障枝の除去で生じた損失も対象 | 修理見積書、損害箇所の写真や動画 |
| 熊の出没そのものによる営業困難 | 緊急銃猟と関係しない損失は対象外(スーパーに出没して営業が困難になった例が示されている) | 対象外のため該当なし |
| 万一の人身事故 | 安全確保の措置を前提とするため想定されていない。起きたときは国家賠償法に基づく対応が想定される | 個別に市町村へ確認 |
許可捕獲・箱わなによる捕獲との違いと、個人が捕獲・駆除できない理由
環境省の箱わなに関するレポートは、熊を箱わなで捕獲するには、鳥獣保護管理法に基づく自治体の捕獲許可を得ているか、指定管理鳥獣捕獲等事業として実施する必要があるとし、市街地に出没した場合の捕獲は想定の外だと明記しています。緊急銃猟の条件を満たさないと判断された場合は、追い払いや箱わなによる対応に切り替わり、捕獲後の運搬や止めさしの方法も確保しておく必要があるとガイドラインは書いています。次の表で2つの仕組みを比べ、そのあと個人が捕獲できない理由を確認します。
| 比べる点 | 緊急銃猟 | 許可捕獲・箱わな |
|---|---|---|
| 判断する人 | 市町村長 | 都道府県知事等の許可を受けた捕獲(市町村長に権限が移された地域もある) |
| 主な場面 | 人の日常生活圏への出没で、緊急に対処が必要なとき | 被害防止や個体数調整などの目的で、許可された区域・期間・方法の範囲 |
| 方法と手続き | 銃猟(麻酔銃を含む)。許可申請は不要 | わななど。許可の内容に従う |
| 準備の時間 | 通報を受けて、現場で短時間に条件を確認する | 申請と許可のあとに設置する |
- 鳥獣保護管理法は、許可を受けた場合や狩猟者登録を受けた場合を除き、野生鳥獣の捕獲を原則として禁止している
- 違反して捕獲すると、一年以下の拘禁刑または百万円以下の罰金に処される場合がある(法第83条)
- 緊急銃猟も、免許や射撃経験などの要件を満たした人が、市町村長の指揮と責任のもとで行うもので、住民が代わりに行うものではない
国のクマ被害対策パッケージとロードマップの要点|政府は何を進めているか
内閣官房のページによると、クマ被害対策等に関する関係閣僚会議は、令和7年10月30日の第1回から令和8年7月31日の第5回まで開かれています。会議決定として、令和7年11月14日に『クマ被害対策パッケージ』、令和8年3月27日に『クマ被害対策ロードマップ』が示されました。要点は次の表のとおりです。
| 資料 | 決定日 | 主な内容 |
|---|---|---|
| クマ被害対策パッケージ | 令和7年11月14日 | 人の生活圏から熊を排除し、周辺地域での捕獲強化で個体数の削減・管理を進める方針。緊急的な対応(緊急銃猟のノウハウ周知、専門家派遣など)、短期の取組(春期捕獲、緩衝帯や柵の整備、誘引物の撤去、電気柵による防護強化など)、中期の取組(専門人材の育成など)に整理され、交付金や特別交付税による支援も含まれる |
| クマ被害対策ロードマップ | 令和8年3月27日 | 2030年度までの工程表。恒常的な生息域の自治体で緊急時の対応体制を確保すること、推定個体数と捕獲目標数を明確にすること、ゾーニング管理計画を策定することを目標とする |
| ロードマップの数値目標(2030年度) | 同上 | 熊の捕獲作業に従事する自治体職員2,500名、はこわな10,000基、クマ撃退スプレー20,000本。令和8年2〜3月の照会結果は、職員784名、はこわな5,527基、スプレー7,093本(熊が生息する37都道府県への照会を集計。熊が生息する市町村は849) |
自分の地域の対応体制を調べるには|出没情報と窓口の探し方
ロードマップは、対応体制が確保されている状態を、熊の追い払いや捕獲を実施する人材が確保され、出没に備えた訓練を済ませているか、出没時のマニュアルを整備している状態と説明しています。目標は、恒常的な生息域の自治体すべてでこの状態にすることです。お住まいの市町村が、マニュアルや連絡先を公式ページで公開しているかは、体制を知る手がかりになります。北海道のヒグマは、北海道ヒグマ管理計画(第2期)の2025年から2034年の総捕獲目標数12,540頭が、ロードマップに暫定的な目標として記載されています。
出没情報や通報先は、都道府県と市町村ごとに公開されています。熊の出没マップを都道府県別に探す|公式の出没情報と通知サービス一覧と、熊の出没情報を関西で確認する|2府4県の公式ページと通報先の一覧に、公式ページへの入口をまとめています。イノシシの捕獲や相談の窓口の考え方は、イノシシ駆除は市役所に依頼できる?相談窓口と対応してもらえる範囲で確認できます。




