イノシシが畑に来る理由|安全で食べ物がある場所を探している
農林水産省の総合対策編は、野生鳥獣の生存に欠かせない柱を『安全』と『食物』だと説明し、イノシシに限らず、安全で食べ物のある場所を求めていると書いています。今の農地や集落がその両方を満たしているなら、『危険』で『食べられない』場所だと学習させることが、対策の目的になります。イノシシは主に植物を中心とした雑食で、草の葉や根、種子が豊富な環境が集落の近くまで広がったことが、増加や分布の拡大に関係していると同マニュアルは説明しています。
被害の要因として、同マニュアルは、人が被害と思わない餌がある、柵で囲っているつもりでも正しく囲えていない、耕作放棄地や藪などの隠れ場所がある、という3点を挙げています。電気柵の下段が地上20cmの高さになっていなかったり、下部に空間があいていたりする例が多いとも指摘されています。
イノシシは年1回、平均4〜5頭を産みます。ウリ坊を1頭捕獲しても個体数は増えるため、捕獲だけでは効果が出にくく、侵入防止柵や環境整備を組み合わせた総合的な対策が他の鳥獣以上に必要だと、同マニュアルは述べています。
参考:農林水産省|野生鳥獣被害防止マニュアル【総合対策編】令和5年3月版 第2章 鳥獣被害対策の基本的な考え方(PDF)
イノシシは畑で何を食べますか?さつまいもも食べますか?
農研機構の鳥獣害痕跡図鑑の一覧では、さつまいも、落花生、かぼちゃ、トマト、水稲、かきなどで、イノシシが『食べる』に分類されています。農林水産省の実践編も、雑食でイモ類やタケノコ、イネの穂を食べると説明しています。
イノシシが食べるもの|家庭菜園の作物と、被害と思われない餌
農研機構の鳥獣害痕跡図鑑は、作物ごとにどの鳥獣が食べるかを一覧にしています。凡例には、『食べる』に収穫残さなど経済的損失のないものも含まれること、掲載のない作物が確実に被害に遭わないことを示すわけではないことが注記されています。2026年10月3日に確認した一覧から、イノシシが『食べる』に分類されている作物のうち、家庭菜園でよく育てられるものを次の表にまとめました。
一方、キャベツ、ほうれんそう、ブロッコリー、きゅうりなどは、同じ一覧のイノシシの欄に印がありません。これは『情報なし』の扱いで、被害がないという意味ではないため、葉物や果菜を育てている畑でも、柵や管理の考え方は同じです。食べ跡や足跡で加害した動物を見分ける手順は、畑の害獣対策|食べ跡や足跡で動物を見分けて柵と環境管理を選ぶ手順で整理しています。
農林水産省の実践編は、イノシシを雑食性で、人が食べるものはほぼ何でも食べ、イモやタケノコ、イネの穂、昆虫の幼虫も食べると説明しています。庭や畑が掘り返されたときの見方は、庭が掘られている。穴の分布と周辺の変化を相談資料にするで確認できます。
| 区分 | イノシシが『食べる』に分類されている作物(一覧表の例) |
|---|---|
| いも・根菜・豆類 | さつまいも、落花生、にんじん、れんこん、大豆 |
| 実を食べる野菜 | かぼちゃ、すいか、トマト、なす、とうもろこし、いちご |
| 穀類 | 水稲、大麦・小麦 |
| 果樹 | かき、ぶどう、りんご、日本なし、もも・すもも、イチジク、ブルーベリー、柑橘類、びわ |
| 山の幸 | たけのこ |
最初に行うイノシシ対策の環境管理|草刈り・収穫残さ・放任果樹の片付け
兵庫県森林動物研究センターは、獣害対策の基本を、集落や農地を野生動物にとって『良い餌場でなくす』こととし、餌をなくす、柵で囲む、居心地を悪くする、追い払う、捕獲するの5項目を挙げています。食べられて困る作物だけを守っていても、食べられても困らない餌があると、知らない間に野生動物を引き寄せてしまうと説明されています。
居心地を悪くする対策として、同センターは、耕作放棄地や藪を刈り払って見通しを良くし、遊び場や潜み場をなくすこと、山から農地への侵入経路を特定して草や藪を刈り払うことが効果的だと説明しています。広範囲の環境改善は大変なので、ポイントを押さえ、個人で難しい場合は集落ぐるみで環境整備の事業を導入することが考えられるとしています。
庭や菜園にイノシシが来たときの安全の確保と、去ったあとの片付けは、庭にイノシシが来たら。追い出そうとせず退路を空け、餌になる物を減らすで確認できます。
| 見直す場所 | 兵庫県森林動物研究センターの例示 | 畑・家庭菜園での確認 |
|---|---|---|
| 収穫残さ | ハクサイやキャベツの外葉、取り残しのダイコンなど | 外葉や取り残した作物を、畑に放置せず片付ける |
| 生ごみ・野菜くず | 土作りのために畑にまく生ごみなど | 野菜くずを、畑や菜園の周りに放置しない(大阪府も同様に案内) |
| 放任果樹 | 収穫せずに放っておいたカキやクリなど | 実を収穫するか処分し、地面に残さない |
| ひこばえ・青草 | 稲刈り後に生えるひこばえ、冬場に田んぼや畦に生える青草 | 稲刈り後の水田や畦の草が、餌になっていないか見る |
| 藪・耕作放棄地 | 野生動物の遊び場や潜み場になる | 畑の周りの藪を刈り払い、見通しをよくする |
柵の種類と向く場面の比較表|電気柵・ワイヤーメッシュ・金網・トタン
農林水産省の総合対策編は、柵を選ぶときは、対象の獣に有効であることに加えて、管理を続けられるかを考えて資材を選ぶよう勧めています。次の表は、同マニュアルと、平成26年3月の実践編、鳥取県の設置・点検マニュアルの記載をもとに、イノシシ対策に使われる柵の特徴を整理したものです。数値は出典ごとに書き分けています。
同マニュアルは、草の管理が難しい場所や舗装道の間近はワイヤーメッシュ柵、草の管理が容易で未舗装の場所は電気柵というように、場所で使い分けられると図で示しています。電気柵は、感電事故を防ぐための危険表示や電気柵用電源装置などの安全の確保が必要で、農林水産省が注意喚起をしています。
小さな畑でも注意点は同じです。兵庫県森林動物研究センターは、柵は1か所でも穴をあけられると無いのと同じになってしまうため、点検と維持管理の仕組みづくりが重要だと説明しています。ワイヤーメッシュ柵の寸法や設置手順はイノシシ柵をワイヤーメッシュで作る|高さ・固定・点検の公的な基準に、光や音で追い払う装置の評価はイノシシ対策のライトの効果は?音・テープ・唐辛子を公的資料で確認にまとめています。
| 柵の種類 | 特徴(公的資料の記載) | 向く場面 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 電気柵 | 電気ショックの痛みで学習させる。電線の間隔は20cm以下で、総合対策編は2段か3段で十分とする。実践編は最下段を地上20cm程度、鳥取県の例は地上20cmと40cmの2段 | 登る動物にも有効。設置が簡単で、個人の農地でも使われる(実践編) | 草が電線に触れると漏電する。電源装置、アース、電圧の管理が必要。しびれない電気柵は設置しない |
| ワイヤーメッシュ柵 | 溶接した金属線の網。高さと強度で入らせない。鳥取県の例は高さ1.0〜1.2m、鉄線5mm以上、目合い15cm以下 | 草の管理が難しい場所、舗装道の近く。曲げたり切ったりして、扉や段差を作りやすい | 地際の隙間から潜り込まれたり、持ち上げられたりする。登る動物には単独では不向き |
| 金網柵 | 金属線を編んだ柵。両端から引っ張る『緊張』が重要 | 比較的平坦な地形で、長い距離を囲む場合 | 緊張がないと緩んで隙間ができる。実践編はシカ向けで高さ2m以上、目合い15cm以下(イノシシ兼用は10cm以下)とする |
| トタン柵 | 作物を見せない目隠し効果をねらう | 作物を外から見せたくない場所 | 継ぎ目と地際の隙間から破られる。実践編は、1枚で足りなければ2枚接ぎで高さ1.2m程度、地際は密着させるとする |
| 複合柵 | ワイヤーメッシュなどの物理柵と電気柵を組み合わせて、効果を高める | 登る動物も来る場所、下部の補強が必要な場所 | 設置と管理の手間が増える。複数の獣種に対応する柵は、別々に設ける負担を減らせる |
設置後のイノシシ対策の点検|地際・扉・草の接触を見る
農林水産省の総合対策編は、侵入防止柵で最も重要なのは、資材選びやルート選びよりも、効果を継続的に引き出すための維持管理だと書いています。次の表は、鳥取県と兵庫県の資料から、見る場所と頻度の目安をまとめたものです。
兵庫県森林動物研究センターの集落柵点検パンフレットは、冬場は山中の餌が少なくなり、柵が破られる機会が増えるため、特に注意するよう書いています。補修が必要な箇所にカラーテープなどで目印をつけ、地図と記録用紙に残しておくと、あとから必要な資材の種類や量が判断しやすくなるとも説明されています。
点検では山や藪の中を歩くことがあります。同パンフレットは、春から秋はヒル、ダニ、ハチ、毒ヘビ、ウルシなどに備えた服装や足回りにすること、熊の生息地域では鈴やラジオなど音の出る物を身につけることを案内しています。
| 点検する場所 | 見るポイント | 頻度の目安(出典) |
|---|---|---|
| 柵の地際 | メッシュの下の地面が掘られていないか。潜り込まれた跡がないか | ワイヤーメッシュ柵は月1回以上、収穫前は月2回以上(鳥取県) |
| 支柱と結束 | 支柱とメッシュを結ぶ針金が外れていないか。折り曲げや倒れがないか | 同上(鳥取県) |
| 扉・柵の切れ目 | 扉が開けっ放しになっていないか。柵に切れ目がないか | 集落柵点検表の確認項目(兵庫県)。集落柵は少なくとも月に一度 |
| 電気柵の電圧と草 | 電圧が5キロボルト以上あるか。草や枝が電線に触れていないか | 週1〜2回、電圧チェッカーで確認(鳥取県) |
| 水稲の被害が出る前 | イノシシの水稲被害は乳熟期頃に出るため、8月中下旬頃(品種による)に補修を集中して行う | 農林水産省の総合対策編の例 |
個人でできるイノシシ対策と、集落・地域単位で行う対策
個人でできることと、地域でまとまって行うことは、分けて考えると整理しやすくなります。農林水産省の総合対策編は、個人ごとにコンパクトに囲むと目が行き届きやすく、対策の責任も自家で完結する利点があると認める一方、Aさんが柵を張れば隣のBさんの畑にイノシシが出て近隣農家が気まずくなった話もあるため、本来は近隣と連携して集落ぐるみで取り組むのが理想だとしています。
家庭菜園・小さな畑で個人が行うこと
個人で行えるのは、餌になるものを残さないこと、藪や草を刈って見通しを良くすること、畑や菜園を柵で囲って点検を続けることです。柵の位置は家や普段作業する場所から目の届く範囲にすると、破損に気づきやすくなります。実践編も、柵は目の届く位置に設置し、点検のための管理道を整えるよう案内しています。
- 収穫残さ、取り残した作物、野菜くずを畑の周りに放置しない
- 放任している果樹の実を収穫するか処分する
- 畑の周りの藪や草を刈り、柵の外側にも隠れ場所を作らない
- 柵の地際、扉、支柱を定期的に点検し、記録を残す
集落や近隣と一緒に行うこと
兵庫県森林動物研究センターは、個人でいくら頑張っても、周りが野生動物にとって良い餌場である限り対策には限界があると説明しています。住民学習会で基本を学び、集落内を点検し、対策案を立てて合意を図り、効果を検証して次に生かす流れが示され、集落診断や導入する事業は市町役場や県の機関の支援を受けられるとされています。
農研機構の研究成果情報は、千葉県の水稲圃場で6年間追跡し、簡易電気柵による被害の減少率は74%、平均的な被害を想定すると柵の総延長120m(1反の外周に近い長さ)で費用対効果が見合う計算になると報告しています。1反以下の区画で単独の簡易電気柵を設けるのは推奨されず、グループ柵などを検討すべきとされています。水稲での研究で、家庭菜園にそのまま当てはまるわけではありませんが、区画が小さいほど個別の柵は割に合いにくいという視点は参考になります。
市町村の相談窓口と資材補助の探し方|購入前の申請が必要な例
農林水産省の鳥獣被害防止総合対策交付金のパンフレット(令和8年4月版)は、交付金が市町村の作成する被害防止計画に基づく取組を支援する仕組みだとして、『まずは被害防止計画を策定する市町村に相談を』と案内しています。侵入防止柵の整備は、原則として受益農家が3戸以上であることが要件で、3戸未満でも支援できる場合があります。
農林水産省の被害防止計画のページからは、計画を作成している市町村の一覧や、公表されている計画を探せます。窓口は自治体によって異なるため、市町村の公式サイトで『鳥獣被害』『防護柵 補助』などを調べるのが近道です。次の表は、2026年10月3日に確認した公式ページの例です。
内容は年度や予算で変わりますが、今回確認した例は、いずれも購入や設置の前に相談や申請が必要でした。太宰府市の制度は太宰府市のイノシシ対策|家庭菜園のメッシュ柵に補助、購入前の交付決定が条件で詳しく整理しています。イノシシの駆除や相談の窓口の考え方は、イノシシ駆除は市役所に依頼できる?相談窓口と対応してもらえる範囲をご覧ください。
野生鳥獣の捕獲は、鳥獣保護管理法で原則として禁止されています。わなで捕獲するには、原則として捕獲の許可を得るか、狩猟免許と狩猟者登録を受けて狩猟として行う必要があります。被害が続くときも、個人でわなを仕掛けたり、餌に薬剤を混ぜたりせず、市町村の窓口に捕獲の相談をしてください。
| 公式ページの例 | 補助の内容 | 条件の要点 |
|---|---|---|
| 太宰府市(2026年4月1日更新) | メッシュ柵などの資材購入費の2分の1。上限は、設置対象地が200平方メートル未満で5万円、以上で10万円 | 家庭菜園を含む農地が対象。市の交付決定通知書の受領前に購入した資材は対象外。家屋や敷地を守る資材も対象外 |
| 鳥取市(2026年7月1日更新) | 電気柵、ワイヤーメッシュ柵、防鳥網などの資材購入費。補助率は区分により3分の2、2分の1、6分の5 | 2戸以上の農業者による団体などが対象。要望の取りまとめは毎年7月中旬から8月下旬頃で、購入後の事後申請はできない |
| 農林水産省の交付金(令和8年4月版) | 市町村の被害防止計画に基づく、侵入防止柵の整備などへの支援 | 受益農家は原則3戸以上。まず市町村に相談する |
畑や菜園の作業中にイノシシに出会わないための注意
畑や柵の見回りは、イノシシの活動する場所に入る作業でもあります。出会わないための工夫と、出会ってしまったときの行動を、大阪府と兵庫県の案内で確認します。農林水産省の総合対策編も、反撃される可能性が高い野生鳥獣は、安易に追い払いをすることは控えたほうがよいとしています。
出会わないための工夫
大阪府は、人間の存在を知らせる工夫として、音(鈴をつけるなど)で知らせること、夜などに外出するときは懐中電灯などの光で知らせることを案内しています。また、イノシシの子供(ウリ坊)でも餌を与えないこと、家庭菜園や田畑の周りに野菜くずなどを放置しないこと、ごみ出しのマナーを守ることも挙げています。
出会ってしまったときの行動
大阪府は、イノシシを見かけても刺激せず、近づいたり、棒などで追い回したり、石を投げたりしないよう求めています。近づいてきても、慌てずにゆっくり後ずさりして離れ、建物や車に入るなどして安全を確保します。犬を連れていると猟犬と間違えて襲ってくる場合があるため、向かってきたときは注意が必要とされています。兵庫県は、興奮しているとき、発情期(晩秋から冬)や分娩後で攻撃的になっているとき、至近距離で突然出会ったときに注意が必要だとしています。住宅地での行動は、兵庫の住宅地でイノシシに出会ったら|安全確保と目撃情報の伝え方でも確認できます。





