猿の被害に保険は使える?補償の対象は契約ごとに決まる

猿に屋根瓦をずらされた、網戸を破られた、車に傷を付けられた。こうした被害に保険が使えるかどうかは、「猿の被害だから」で決まるのではなく、加入している保険の種類と約款で決まります。日本損害保険協会が示す火災保険の補償内容の一覧には、火災、落雷、破裂・爆発、風災・ひょう災・雪災、水災、飛来・落下・衝突、水濡れ、騒じょう等による暴行・破壊、盗難が並びます。この一覧に、動物による被害という項目は書かれていません。

考え方の順番は三つです。まず、どの契約があるかを、証券や契約内容の通知で確認します。次に、その契約が補償する原因の一覧に、今回の被害が当てはまりそうかを読みます。最後に、読んでも判断できなければ、事故として保険会社か代理店へ連絡し、可否を聞きます。補償の対象になるかどうかを自分で決めつけず、保険会社の回答を待つ姿勢が、後のやり直しを減らします。

火災保険は、建物と家財を分けて契約する仕組みです。屋根や外壁は建物、室内に入られて汚された家具や家電は家財に関わるため、どちらを契約しているかで確認先が変わります。借家に住んでいる場合は家財のみを契約するため、建物の被害は貸主や管理会社に先に伝えます。流れは賃貸で害獣被害が起きたとき管理会社へ伝えることに整理しています。

参考:日本損害保険協会|火災保険

読者の疑問

猿に屋根や車を壊されたら、火災保険や車両保険は使えますか?

比較ガイド

契約の種類と約款で決まるため、一概には言えません。火災保険の建物・家財、車両保険のタイプを確認し、修理の前に保険会社か代理店へ事故として連絡して、可否を聞いてください。

家屋・車・けが・農作物で確認する契約

被害を四つに分けると、最初に見る契約が決まります。住まい・車・けが・農作物の順に、確認する契約を説明し、最後に表で、保険会社や窓口へ聞くことをまとめます。補償されるかどうかは契約と約款で決まるため、表の「最初に確認する契約」は候補であり、補償を約束するものではありません。

住まいの被害(屋根瓦・網戸・外壁・家財)

日本損害保険協会は、火災保険では建物と家財を分けて契約することと、家財を契約するとき高額な貴金属や美術品を保険会社に知らせていないと保険金が支払われない場合があることを説明しています。契約書類の「建物」「家財」の欄を見て、どちらにどの補償が付いているかを確認します。

協会は、住宅の修理で「保険金が使える」と勧誘する業者とのトラブルが起きているとして、業者と修理の契約を結ぶ前に、契約している保険会社か代理店へ相談するよう案内しています。猿に壊された屋根を直したいときも、先に保険会社へ連絡してから修理業者を決める順番にします。雨漏りなど急ぐ場合は、応急処置の内容と写真を残して伝えます。

車の被害(傷・ガラス・ミラー)

車の被害は、任意の自動車保険の車両保険が候補です。日本損害保険協会は、車両保険を、偶然な事故により自動車が損害を受けた場合に保険金が支払われるものと説明し、一般的なタイプと、補償範囲を限定して保険料を抑えたタイプがあること、補償内容は各社の商品で異なることを示しています。猿が付けた傷が偶然な事故として扱われるか、加入しているタイプが対象かは、契約内容と保険会社の判断です。

等級の仕組みも各社で多様化していると協会は説明しているため、保険を使った場合に翌年以降の保険料がどうなるかも、連絡のときにあわせて聞いておくと判断しやすくなります。

けが(かまれた・ひっかかれた・逃げて転んだ)

人のけがは、傷害保険や、勤務先・学校・共済を通じて加入している保険が候補です。日本損害保険協会は、傷害保険を、ケガにより死亡したときや入院・通院したときに保険金が支払われるものと説明し、普通傷害保険や家族傷害保険など、対象となる人と補償の範囲が種類によって違うことを示しています。野生動物によるけがが対象になるかは契約ごとに異なるため、保険会社に確認します。通院の領収書や診断書が必要になることがあるので、受診のときに捨てずに保管します。

農作物・農業用ハウスの被害

畑や果樹の被害は、公的な農業保険が候補です。農林水産省の農業共済のページは、農作物共済、果樹共済、畑作物共済、園芸施設共済の対象事故に、風水害や火災、病虫害と並んで鳥獣害を挙げています。ただし、対象の作物や施設は共済の種類ごとに決まっており、すべての野菜や果物が対象とは限りません。加入しているかどうか、対象の品目に当たるかは、地域の農業共済組合に確認します。

家屋・車・けが・農作物で確認する契約:確認項目
被害の種類最初に確認する契約保険会社・窓口へ聞くこと
屋根瓦・雨どい・外壁の破損(持ち家)火災保険(建物)動物による破損が補償の対象か。自己負担額(免責)の有無。修理の前に連絡する手順。
網戸・窓・室内の家具や家電の被害火災保険(家財)家財の契約があるか。対象になる原因の範囲。被害品の写真と見積もりの出し方。
車の傷・ガラス・ミラーの破損自動車保険(車両保険)加入している車両保険のタイプ。偶然な事故として扱われるか。使った後の保険料への影響。
かまれた・ひっかかれた・逃げて転んだなどのけが傷害保険、勤務先や共済の保険対象になる事故の範囲。通院・入院の支払い条件。必要な書類。
畑・果樹・農業用ハウスの被害農業共済、収入保険対象の品目や施設に当たるか。被害を見つけたときの連絡の方法と期限。
賃貸住宅の被害貸主・管理会社の建物の保険、自分の家財の契約先に管理会社へ報告する。建物の被害の連絡窓口。家財の契約の有無。

参考:日本損害保険協会|自動車保険

保険会社へ連絡する前に整理する情報と記録

事故の連絡の受付は、加入している保険会社か保険代理店が担当します。日本損害保険協会のそんぽADRセンターは、損害保険の相談や、保険会社との間で解決しないときの苦情・紛争解決手続を受け付けていますが、保険の加入、契約内容や補償内容の変更、事故の連絡の受付は扱っておらず、保険会社か代理店への問い合わせを案内しています。最初に連絡する先は、証券に書かれた保険会社または代理店の窓口です。

連絡のときに伝える内容は、あとから説明しやすいように、先にメモにまとめます。猿の被害は一度で終わらないことがあり、日付がずれた記録は判断を難しくします。次の表の項目を、スマートフォンのメモと写真で残してください。猿を追いかけて撮影するなど、安全を損なう方法は避けます。書類と写真の残し方は害獣駆除の書類と写真、何を残すかも参考になります。

保険会社へ連絡する前に整理する情報と記録:確認項目
伝える・残す情報具体例記録のコツ
被害の日時と場所「10月2日の朝、2階の屋根の南側」気づいた日時と、見た日時を分けて書く。繰り返す場合は日付ごとに追記する。
被害の状況瓦のずれ、網戸の破れ、車の傷や足跡全体を先に、次に近くから撮る。大きさが分かる物を横に置く。
猿の目撃状況頭数、群れかどうか、時間帯、逃げた方向安全な距離から確認する。見ていなければ「未確認」と書く。
応急処置と費用ブルーシートで覆った、窓を閉めた領収書を保管する。修理の契約より先に保険会社へ伝える。
自治体への連絡連絡した日、窓口名、担当者名保険会社にも「自治体へ被害を伝えている」と添える。
契約の情報保険会社名、証券番号、契約者名証券や契約内容の通知のページを写真に撮っておく。

参考:日本損害保険協会|相談対応、苦情・紛争の解決(そんぽADRセンター)

野生動物の被害に公的な補償はあるか|国・農業保険・県の見舞金

結論として、住宅や車に受けた損害を個人へ補う国の制度は、今回確認した農林水産省や自治体の資料には見当たりませんでした。国の予算の案内は、被害を防ぐ側に向いています。見落としている制度がある可能性は残るため、住んでいる市区町村に、被害に使える支援があるかを一度尋ねておくと確実です。制度は対象ごとに分かれており、次の三つに整理できます。

国の予算は、被害を防ぐ対策への支援が中心

農林水産省の鳥獣被害防止総合対策交付金は、シカ、イノシシ、サル、クマ、鳥類などへの対応について、被害防止計画に基づく地域ぐるみの取り組みを支援します。侵入防止柵の設置、刈り払いなどの生息環境管理、捕獲活動の経費などが事業のイメージとして示されており、令和8年度予算額は99億円です。交付は都道府県を通じて地域協議会等に行われる流れで、被害を受けた個人の損失を埋める制度としては案内されていません。

農作物には、公的な農業保険がある

農林水産省は、収入保険と農業共済を農業保険と呼び、公的保険で保険料の一部を国が補助すると説明しています。農業共済では、農業者が支払う掛金の一定割合(原則50パーセント)を国が負担し、収入保険は青色申告を行っている農業者が加入でき、保険料には50パーセントの国庫補助があります。農業共済の対象事故には鳥獣害が含まれます。猿の被害による減収が収入保険でどう扱われるかは、加入先の農業共済組合に確認します。

人身被害には、一部の県が見舞金を設けている

秋田県は、野生鳥獣による人身被害に遭った県民に見舞金を給付しています(令和7年4月1日付の県の資料)。対象はツキノワグマとイノシシによる事故で、給付額は、人身被害が10万円、重度被害が20万円、死亡が30万円です。要件は、秋田県民であること、県内の森林地域外での事故であること、突発的な打撃やかみつきで30日以上の治療を要することなどで、サルは資料に書かれていません。こうした制度は県ごとに違うため、自分の県に同様の制度があるかは、県の鳥獣担当に問い合わせます。

参考:農林水産省|農業保険 農業共済(対象事故・国の補助)

自治体へ被害を伝える意味|出没情報・追い払い・捕獲

自治体へ被害を伝えても、損害が補償されるとは限りません。それでも伝える意味は、被害の実態が自治体に届くことにあります。仙台市は、野生鳥獣による被害を最小限にするには被害の状況と実態を正確に把握することが必要だとして、被害があったときや、被害を起こすおそれのある野生鳥獣を人家や農地の近くで見かけたときは、住んでいる区の担当窓口へ連絡するよう案内しています。

仙台市のニホンザル対策のページには、群れの出没情報を公開するサル群れ情報マップ、花火を使った追い上げ、山へ戻らない群れを対象にした箱わなや大型捕獲施設での捕獲が書かれています。追い上げと捕獲は、サルの出没状況や被害状況に応じて行うとされているため、あなたの連絡は、地域全体の対策の判断材料になります。

環境省が公開している平成28年度の研修資料(野生動物保護管理の専門会社の講義)も、市街地にサルが出没したら、出没日時、場所、頭数、個体の大きさ、被害内容を通報などから収集して地図に記録し、頭数や行動の特性によって対応の内容と緊急性が決まると説明しています。人身被害が出た、またはそのリスクが高いときは緊急捕獲の対応になるとされているため、危険を感じたときは自治体の担当窓口へ連絡します。出会ったときの行動や戸締まりは、猿の被害対策|住宅地で見かけたときの行動と戸締まりにまとめています。

参考:仙台市|ニホンザル対策について

再発を防ぐ対策と自治体の支援

保険が使えたとしても、同じ被害が繰り返されれば、修理の手間も保険の使い方も重くなります。仙台市は、被害防除は市民自らが行うことが原則とし、集落単位で行う方が有効だと案内しています。サルを集落に近づかせないために、かわいいからと餌を与えない、お墓の供え物は片付ける、畑に野菜くずやイモのつるを捨てない、庭木の柿などの果実を放置しない、生ごみを出しっぱなしにしない、といった点を挙げています。

自治体の支援は地域で異なります。仙台市は、農家が設置する防除柵に市の補助制度があると案内し、クマ・サル・イノシシへの対策は経済的負担が大きく一個人の手に負えない問題になっているとして、被害防除への支援を行うとしています。国の交付金も侵入防止柵の設置や管理の省力化を支援対象に挙げていますが、個人の住宅や物置の補強が対象になるかは、市区町村の制度によります。窓口で、対象者、対象の設備、申請の時期を確認してください。

再発を防ぐ対策と自治体の支援:確認項目
対策狙い窓口で聞くこと
果実・野菜くず・供え物・生ごみを屋外に残さないサルを引き寄せる餌をなくす収穫や片付けの時期、ごみの出し方のルール
家庭菜園を塀やフェンスで囲う畑や庭への立ち入りを防ぐ囲い方の例、対象になる補助の有無
ヤブの刈り払い隠れ場所をなくす地域の草刈りの取り組み、委託できる団体
群れの出没情報を確認する出没しやすい時間帯や場所を知る出没情報の公開方法(マップや配信)の有無
追い払いは行政・地域の取り組みに任せる人馴れを進めず、けがを避ける地域のパトロールや追い上げの予定

参考:仙台市|野生鳥獣による被害を防ぐために

けがをしたときの受診と連絡

猿にかまれたり、ひっかかれたりしたときは、傷口をできるだけ早く洗浄してください。厚生労働省のBウイルス病のページは、マカク属のサルにかまれたり引っかかれたりした際の予防として、傷口をできるだけ早く洗浄することを挙げています。このページは実験動物を扱う施設での感染を中心に説明しており、国内では2019年に2例の報告があり、これまでに報告された患者はすべて、研究者かサル飼育施設の従業者とされています。それでも、野生のサルによる傷は、程度にかかわらず医療機関に相談してください。

受診のときは、野生のサルによる傷であること、受傷の日時と場所を伝えます。症状の見立てや必要な処置は、診察した医師が判断します。けがの経緯は、保険会社への連絡や自治体への報告にも使うため、日時、場所、状況をメモに残してください。

出血が止まらない、頭や顔のけが、意識がはっきりしないなど緊急性が高いときは、ためらわず救急車を呼びます。サルが近くにいて危険が続いているときは、まず建物の中へ入り、自治体へ連絡します。連絡先は、受診する医療機関、加入している保険会社、被害を受けた地域の自治体の担当窓口の三つに分けて考えると整理できます。

参考:厚生労働省|Bウイルス病

イノシシ・シカの被害でも、確認の順番は同じ

農林水産省の交付金は、シカ、イノシシ、サル、クマ、鳥類などの被害防止を対象にしており、大型の野生動物の被害は、サルと同じ枠組みで支援や相談が進みます。保険の考え方も同じで、被害の種類に応じて契約を確認し、保険会社へ連絡し、自治体にも伝える順番です。秋田県の見舞金のように、制度の対象がイノシシやクマに限られ、サルやシカが含まれないこともあるため、動物の種類は正確に伝えてください。

庭にイノシシが来たときの対応は庭にイノシシが来たら。追い出そうとせず退路を空ける、住宅地で出会ったときの連絡の仕方は兵庫の住宅地でイノシシに出会ったら、シカは奈良公園周辺でシカと暮らすときで確認できます。

参考:農林水産省|鳥獣被害防止総合対策交付金 事業の概要(令和8年度予算PR版・PDF)