住宅地に出る猿の行動と被害の原因|ハナレザルと群れの違い
環境省がまとめたニホンザル編のガイドラインは、群れではなく単独や数頭で市街地に出る猿の大半が、群れを離れたオス、いわゆるハナレザルだと説明しています。メスの出没もありますが少なく、子を背負っている、犬や猫に親しげに近づく、狭い範囲で長く目撃されるといった場合にメスの可能性が高まるとされています。このガイドラインは自治体の担当者向けの資料ですが、状況をつかむ手がかりになります。
大阪府の案内ページによると、オスは4〜6歳ごろに生まれ育った群れを離れて別の群れへ移る習性があり、その途中で市街地へ迷い込むことがあります(環境省のガイドラインは、群れを離れる年齢を概ね5〜8歳としています)。同ページは、市街地に猿が出る理由は山の餌が足りないからではないと述べ、餌を与えられたり農作物の味を覚えたりして人に慣れると、出没を繰り返すようになると説明しています。
ハナレザルが出たとき
環境省のガイドラインでは、オスは交尾期でない4〜9月に出没しやすく、出没が一過性で自然に見られなくなる例もあるとされています。神奈川県も、ハナレザルが通常は猿のいない市街地を歩いた事例では、広い範囲を移動したのち自然に目撃されなくなったと案内しています。被害がなければ出没自体は問題でないこともある一方、人身被害が出た場合は緊急の対応が求められるとされています。
群れが集落に来るとき
群れは季節ごとに餌のある場所を求めて移動するため、被害の出る場所も季節で変わることがあります。ガイドラインは、放置すると人馴れが進み、住宅地や人家に入るなどの生活環境被害に広がって対応が難しくなるため、出没し始めた初期の対応が大切だと述べています。
被害が深刻になる共通の原因は、餌と人馴れ
共通する原因は、人の生活圏に食べ物があり、猿がそれに慣れてしまうことです。農林水産省の実践編マニュアルは、一匹だから、かわいそうだからと甘やかすことが、人を怖がらない猿を生むと指摘しています。
| 比べる点 | ハナレザル(単独〜数頭) | 群れ |
|---|---|---|
| 出没の傾向 | オスは4〜9月に出没しやすく、一過性で見られなくなることもある(環境省) | 季節ごとに餌のある場所へ移動し、被害の出る場所も季節で変わることがある |
| 起きやすい被害 | 庭先への出没、威嚇、人家への侵入。人馴れした個体では人身被害の恐れ | 農作物の被害が中心。放置すると住宅地や人家への侵入など生活環境被害に広がる |
| 行政の基本的な対応 | 情報収集と注意喚起、追い払いが基本。人身被害や威嚇などリスクが高いときは緊急の捕獲 | 餌になる物の除去、侵入防止柵、組織的な追い払いなど、集落ぐるみの対策 |
| 住民にできること | 近づかない、餌を与えない、戸締まり、目撃情報を役所へ伝える | 放任果樹や生ごみの管理を地域で揃え、見かけた情報を共有する |
参考:環境省|特定鳥獣保護・管理計画作成のためのガイドライン(ニホンザル編・令和6年度、PDF)
猿が家の中に入ってしまったときは、どうすればよいですか。
追い回したり大声を出したりせず、人とペットを安全な場所へ移して、市町村か110番へ連絡します。身の危険を感じる場合は、さいたま市の案内のとおり110番に通報します。
猿に出会ったときの行動|自治体の公式案内に共通する点
猿に出会ったときの注意は、自治体の案内でほぼ重なります。さいたま市は、市内に出た猿やシカは移動中のことが多く、人が構わなければ数時間でどこかへ行ってしまうと説明しています。一方、至近距離で出会ったり逃げ道がなかったりすると、人のちょっとした動きにも過剰に反応するため、できるだけ構わず見過ごしてほしいとしています。
下の表は、大阪府、神奈川県、茨城県、さいたま市、環境省ガイドラインの案内を行動ごとに並べたものです。更新日の表示は、大阪府が2009年8月1日、神奈川県が2025年1月1日、さいたま市が2026年6月23日、茨城県が2026年9月2日で、古い案内でも中心の内容は新しい案内と変わりません。
| 行動 | 案内されている内容 | 確認した公式案内 |
|---|---|---|
| 近づかない・追わない | 写真を撮ろうと近づいたり、追い回したりしない。猿が興奮して向かってくることがある | 神奈川県、大阪府、環境省ガイドライン |
| 目を合わせない | 目を合わせたり、見つめたりしない | 大阪府、神奈川県、さいたま市、環境省ガイドライン |
| 食べ物を見せない・与えない | 餌を与えると人に慣れ、居着きや攻撃の原因になる | 大阪府、神奈川県、茨城県、さいたま市 |
| 大声・走る・棒を振る行動をしない | 猿を興奮させると危害を加えることがある。威嚇されたら目をそらして後ずさりし、走って逃げない | 茨城県、環境省ガイドライン |
| 立ち去り方 | ゆっくり立ち去り、背中を見せない。逃げるときの転倒事故にも注意 | 神奈川県、大阪府 |
| 家を守る | 窓やドアを施錠し、窓を開けたままにしない | 茨城県、神奈川県、さいたま市 |
| 身の危険・けが | 身の危険を感じたら110番。咬まれたり引っかかれたりしたらすぐ病院へ | さいたま市、環境省ガイドライン |
| 目撃情報の提供 | お近くの市町村または警察へ伝える | 茨城県、さいたま市 |
家に入らせない戸締まりと、屋外の食べ物・供え物・ごみの管理
茨城県は、猿が家のドアや窓から入ってくるおそれがあるため施錠するよう案内し、餌になるものとして庭先の果実、ペットフード、生ごみを挙げて、屋外に放置しないよう求めています。神奈川県の案内でも、家に入られないよう窓を開けたままにしないことが挙げられています。
農林水産省の実践編マニュアルは、軒下の干し柿や干し芋のように人家の周りで餌になりそうな食べ物は、野生動物の手が届かないように管理することや、墓の供え物は参拝後に持ち帰ることを例に挙げています。収穫されない果樹は、地域で合意して管理や伐採をすることも示されています。次の表は、これらの案内を家庭の場面に当てはめた見直し表です。
| 場面 | 起こりやすいこと | 見直す内容 |
|---|---|---|
| 窓・ドア・勝手口・ベランダの戸 | 開けたままの出入り口から室内に入られる恐れ | 在宅中も施錠を習慣にする。網戸だけにして離れない |
| 軒下やベランダの干し物 | 干し柿、干し芋などの食べ物が目立つ | 手が届かない管理にする。網に入れて干す例が農林水産省のマニュアルにある |
| 庭の果樹・家庭菜園 | 取り残した果実や野菜が餌になる | 早めに収穫する。取りきれない果樹は管理や伐採を近隣と相談する |
| ペットの餌・ペットフード | 屋外に置いた餌が猿を引き寄せる | 屋外に放置せず、食べ残しは下げる(茨城県の案内) |
| 生ごみ・野菜くず | 庭先に置いた生ごみやくず野菜が餌になる | 庭先に放置せず、ふた付きの容器で保管する |
| 墓・屋外の供え物 | 果物や菓子が餌になる | 参拝が終わったら持ち帰る |
- 今日できること:窓・ドアの施錠、屋外のペットフードと生ごみの片付け
- 今週できること:果樹や菜園の取り残しの収穫、干し物の置き場の見直し
- 近隣と相談すること:収穫されない果樹の管理、集積所や供え物の扱い
子ども・ペットの安全|近づけない・外に出さない・集団で動く
猿が出没している間の安全で、公式案内に具体的な行動が書かれているのは、主に子どもについてです。犬や猫などペットについては、今回確認した案内に猿への具体的な対処の記載がなく、確認できた範囲と当記事の整理を分けて書きます。
子どもの安全
大阪府の案内は、興味本位で撮影しようと近づいたり、からかったりする行動が猿を刺激して事故につながるとして、お子さんの行動に特に注意するよう求めています。環境省のガイドラインには、猿が繰り返し出没しているときの注意として、児童は集団で登下校すること、不要な外出を控えること、餌になりそうなものを屋外に置かず戸締まりを励行することが挙げられています。
- 見たら近づかない、目を見ない、食べ物を見せないの3点を、家庭で先に共有する
- 繰り返し出ている間は、集団での登下校と不要な外出の見直しを学校や地域に相談する
- 咬まれたり引っかかれたりしたら、すぐに病院へ行く(環境省のガイドライン)
犬や猫などペットの安全
ペットについては、屋外にペットフードを置かないこと(茨城県の案内)と、散歩中に猿を見たら近づかず、その場から離れることを、自分で取れる行動として挙げます。後者は公式案内に明記された手順ではなく、当記事の整理です。
- 屋外にペットフードや食べ残しを置かない
- 猿を見かけたら、ペットを抱えるか短くつないで近づけず、建物の中へ入る
屋根・雨どい・車の被害と、保険の約款で確認する箇所
環境省のガイドラインの加害レベル判定表では、生活環境被害が、宅地周辺で見かける段階から、庭先に来る・屋根に登る段階、器物を損壊し倉庫に入る段階、住居への侵入が繰り返される段階へと進む目安が示されています。行政が群れの被害を評価するための表ですが、屋根に登る、物を壊すといった出来事が被害の進み具合を測る項目になっていることが分かります。屋根に登られた、雨どいや車に傷がついたという被害は、日時と場所を記録して市町村へ伝えておく価値があります。
屋根のずれや雨どいの破損、車の傷を見つけたら、安全を確保したうえで、被害の全体が分かる写真と、近くで撮った写真を残します。修理を急ぐ前に、契約している保険の内容を確認しておくと、後の手続きで困りにくくなります。
補償されるかどうかは契約ごとに違い、ここで断定はできません。日本損害保険協会のページ(更新表示は2016年11月)は、火災保険には住宅総合保険と住宅火災保険があり、補償される事故の範囲が異なること、風災・ひょう災・雪災では一部自己負担額がある場合もあること、建物と家財は分けて契約することを案内しています。車の保険も、補償内容は各社の商品によって異なるとしています。
屋根の軒や瓦の周りの傷みは、猿の被害だけでなく別の動物の侵入口にもなりえます。地上から見える範囲の確認は、軒や屋根のすき間を地上から確認する手順が参考になります。賃貸住宅で、屋根や外壁の破損が建物の側にある場合は、自分で修理を手配する前に、賃貸で被害が起きたときの管理会社への伝え方を読み、貸主や管理会社へ連絡してください。
| 確認する箇所 | 見る場所・聞き方 | 理由(協会などの案内) |
|---|---|---|
| 契約の種類 | 保険証券で、住宅総合保険か住宅火災保険か、建物と家財のどちらを契約しているかを見る | 契約の種類で補償される事故の範囲が違う。建物と家財は分けて契約する |
| 補償される事故の範囲 | 約款の、保険金を支払う場合と支払わない場合にあたる欄で、動物による破損が含まれるかを保険会社や代理店に聞く | 補償内容は商品ごとに異なり、個別の可否は契約内容を見ないと分からない |
| 自己負担額 | 免責金額(自己負担額)がいくらに設定されているかを見る | 風災・ひょう災・雪災では、一部自己負担額がある場合もある |
| 車の保険 | 車両保険に入っているか、補償範囲を限定したタイプかを見る | 車両保険は偶然な事故による損害が対象で、補償内容は商品により異なる |
| 賃貸住まいの場合 | 自分の契約が家財のみか、屋根や外壁は貸主の建物かを確認する | 借家にお住まいの方は家財のみ契約する(協会の案内)。建物側の破損は管理会社へ連絡する |
| 事故の連絡 | 事故の連絡は、契約先の保険会社または代理店へ行う | 協会の相談窓口は、事故の連絡受付や契約内容の変更には対応しない |
猿の通報先|市町村と警察、伝える情報の整理
茨城県は、野生の猿を目撃した場合は近づかず、お近くの市町村または警察に通報するよう案内しています。さいたま市は、目撃情報は警察または市へ提供し、身の危険を感じたら110番に通報するとしています。窓口は自治体で異なるため、先にお住まいの市町村の公式ページで、猿の目撃情報や連絡先の案内があるかを探すと迷いません。
環境省のガイドラインは、行政が情報を集めるときの基本として、いつ、どこで、どのような猿が、どんな状況であったかを記録し、地図に整理することを挙げています。住民が連絡するときも、同じ項目を伝えると、役所が出没の範囲や傾向をつかみやすくなります。
- いつ:日付と、おおよその時刻、見えていた時間の長さ
- どこ:住所や目印になる建物、猿が向かった方向
- どのような猿か:頭数、大きさ、子を連れているか、首輪などの特徴
- どんな状況か:人に向かってきたか、屋根や庭にいたか、家に入ったか、食べ物を取ったか
- 被害と写真:屋根・雨どい・車の傷の位置。猿を撮る場合は近づかず、離れた位置から撮る
餌を与えない理由と、追い払いを自分一人でやらない理由
餌を与える行為は、猿を人に慣らし、市街地に居着かせる原因になると、神奈川県や大阪府が案内しています。農林水産省の実践編マニュアルは、不十分な追い払いで済ませると人馴れが進むと述べ、追い払いを集落ぐるみの対策として位置づけています。ご近所に餌やりや放置果樹があるときは、特定の家を責めず、自治体の案内を一緒に確認して、地域で管理を揃えるよう働きかけると進めやすくなります。
環境省のガイドラインは、追い払いの注意として、一人ではやらないこと、大声を上げたり棒を振り回したりして猿を興奮させないことを挙げています。また環境省は、鳥獣の捕獲や殺傷は、狩猟を除き原則として禁止され、被害がある場合などに、都道府県知事等の許可を受けて行うと案内しています。さいたま市も、動物をむやみに捕獲できないと説明しています。エアガンなどで傷つける追い払いは、反撃を受ける危険があるうえ、許可のない捕獲や殺傷にあたるおそれがあるため、勧められません。
地域ぐるみの獣害対策と個人宅の被害への対応は、窓口が分かれる場合があります。団体向けの出前講座を行う自治体の例は、福知山市の獣害相談の案内で確認できます。ごみ置き場で餌になるものが出ていないかは、ごみ置き場のネズミ対策の点検手順が使えます。カラスのごみ荒らしと見分けて相談したいときは、カラスの被害を相談するも参考になります。







