アライグマが関わる感染症|公的資料に載っているもの
野生動物は、どんな病原体を持っているか、見ただけでは分かりません。厚生労働省は、野生動物には安易に触らず、家庭で飼うことも避けるよう呼びかけています。環境省の「アライグマ防除の手引き」は、人獣共通感染症の資料の中で、アライグマに関して特に注意が必要なものとして、狂犬病、レプトスピラ症、アライグマ回虫症、アライグマ糞線虫症、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の五つを紹介しています。
東京都環境局の資料は、アライグマとハクビシンの両方について、トキソプラズマ症、エキノコックス症、サルモネラ感染症、カンピロバクター感染症、疥癬、日本紅斑熱、ツツガムシ病なども挙げています。資料に病名が載っていることと、国内のアライグマで実際に確認されていることは別の話なので、次の節で分けて読みます。
感染のしかたは大きく二つに分けられる
手引きは、感染の経路を直接伝播と間接伝播に分けています。直接伝播は、咬まれる、引っかかれるといった接触のほか、動物の排泄物が付いた手で目・鼻・口・傷口に触れる場合です。間接伝播は、吸血する虫が病原体を運ぶ場合、汚染された食べ物を介する場合、尿や糞で汚れた土や水、乾いて粉じんになった糞を介する場合に分かれます。
- 直接:咬まれる、引っかかれる、傷口をなめられる
- 直接:排泄物が付いた手で、目・鼻・口・傷に触れる
- 間接:ノミやダニなど、吸血する虫が病原体を運ぶ
- 間接:尿や糞で汚れた土や水、乾いた糞の粉じんを介する
参考:環境省|アライグマ防除の手引き(地域から構築する効果的な防除、2025年改訂版)
アライグマは野生だと危険ですか?
野生のアライグマは、病原体の保有状況が分からない動物です。神戸市は、基本は臆病でも刺激したときや子連れのときは攻撃することがあると案内しています。近づかず、触らず、餌を与えないことが基本です。
アライグマの感染症|国内で確認されているものと海外の事例
感染症の一覧には、世界の報告や研究も含まれます。日本の野生のアライグマで確認されたもの、海外の事例、国内では患者発生の報告がないものを混ぜて読むと、必要以上に不安になったり、反対に軽く見たりしがちです。次の表は、環境省の手引き(2025年改訂版)と厚生労働省の動物由来感染症ハンドブック2026の記載を、国内の状況と海外の事例に分けて並べたものです。
手引きにある、野生個体での寄生例は確認されていないといった記述には調査時点があり、のちの調査で状況が変わることもあります。最新の状況は、保健所や自治体の担当窓口に確認してください。
| 感染症 | 主な感染のしかた | 国内の状況(公的資料の記載) | 海外の事例・補足 |
|---|---|---|---|
| 狂犬病 | 感染した動物の唾液。咬まれる、引っかかれる、傷口をなめられる | 日本では1957年以降、国内で感染した例がない。厚生労働省は、国内で病原体が長期間発見されていない感染症に分類 | 北米の「森林型」流行では、発生動物のうちアライグマの割合が最も高いと手引きが説明 |
| アライグマ回虫症 | 虫卵を含むアライグマのフンで汚れた土などを、口から取り込む | 野生のアライグマでの寄生は確認されていない(手引きは2002年10月までのデータ)。動物園の飼育個体では確認例がある。国内で患者発生の報告がない感染症に分類 | 米国では死亡例が報告されたと手引きが記載 |
| レプトスピラ症 | 感染動物の尿、尿で汚れた水や土から、皮膚の傷や粘膜を通して | 北海道・神奈川県・東京都で、野生化した個体から病原性のレプトスピラが見つかった。兵庫県では抗体検査から、かなり高い感染率とみられる | 手引きは、海外のアライグマでの事例には触れていない |
| アライグマ糞線虫症 | フンとともに出た幼虫が土や水にとどまり、皮膚から入る | 和歌山県の調査で、捕獲された個体の約3割で確認された事例がある | 人では皮膚の発疹や腸への寄生を起こすとされる |
| 重症熱性血小板減少症候群(SFTS) | 感染したマダニに咬まれる。感染した動物や人との濃厚接触でも | アライグマがマダニを運ぶ、またはフンにウイルスを出す可能性が指摘されている段階。動物での発生は西日本から広がっている | 2011年に中国で報告された新興感染症。日本では2012年に初めて患者が確認された |
- 手引きの五つのうち、国内の野生のアライグマで確認が報告されているのは、レプトスピラ症と糞線虫症
- 狂犬病は国内で長く発生がなく、アライグマ回虫症は国内の野生個体で確認されていない(手引き記載の時点)
- SFTSは、アライグマの役割が「可能性の指摘」にとどまる段階
マダニ・ノミなどの外部寄生虫|家の中のダニとは別物
吸血する虫を介した感染は、手引きが間接伝播の一つに挙げています。作業や調査の注意点としても、手引きは「ダニ等の寄生虫に気をつける」ことを求めています。板橋区のリーフレットは、アライグマやハクビシンが天井裏にフンや尿をすると、家屋が傷むだけでなく、ノミやダニなどが発生する可能性があり、疥癬や皮膚糸状菌症などの感染症にも注意が必要だと説明しています。
マダニは、家の中で増えるダニとは種類が違う
厚生労働省のQ&Aによると、食品に発生するコナダニや寝具に発生するヒョウヒダニなど、家庭内のダニとマダニは種類が異なります。マダニは固い外皮に覆われた大きめのダニで、成ダニの大きさは吸血前で3〜8mm、吸血後は10〜20mm程度です。主に森林や草地にすみ、郊外や市街地にもいます。室内のダニ対策だけでは、マダニへの備えにはなりません。ノミが出る経路は ノミの発生原因と、野良猫・害獣の確認 で整理しています。
アライグマとマダニの関係は「可能性の指摘」
手引きは、アライグマが媒介マダニの種類を運ぶ可能性や、糞便の中にSFTSウイルスを出す可能性を、研究を引いて指摘しています。これは可能性の指摘で、アライグマに触れなければマダニの心配がないという意味でも、触れたら感染するという意味でもありません。草むらや藪など、マダニの多い場所に入るときは、肌の露出を減らすことが大切だと、厚生労働省は案内しています。
マダニに刺されたかもしれないとき
厚生労働省は、吸血中のマダニを見つけても無理に引き抜かないよう求めています。口器の一部が皮膚に残って化膿したり、体液が逆流して病原体が入りやすくなったりするおそれがあるためです。皮膚科などの医療機関で、除去と洗浄をしてもらってください。
- 無理に引き抜かず、皮膚科などで処置してもらう
- 刺されたあと数週間は、体調の変化に注意する
- 発熱などが出たら受診し、マダニに刺されたことを医師に伝える
野生のアライグマが危険とされる理由|感染症だけではない
環境省の手引きによると、日本でアライグマが広がった背景には、1970年代後半にテレビアニメの影響でペットとして大量に輸入され、飼育が流行したことがあります。人に十分慣れていない野生動物のため、成長すると粗暴になる個体が多く、飼いきれずに捨てられたり、逃げ出したりして、各地で野外に定着しました。「野生のアライグマ」は、かわいらしい印象とは別の動物として扱う必要があります。
攻撃性については、自治体の説明に幅があります。神戸市は、夜行性で基本的に臆病なため、アライグマから攻撃してくることはほとんどないものの、むやみに近づいて刺激した場合や子連れの場合は攻撃してくることがあると案内しています。熊本市は、見た目は可愛らしいが獰猛な動物だとして、見かけても近づかないよう呼びかけ、板橋区はハクビシンに比べて気性が荒いとしています。共通しているのは、近づかない、触らないという対応です。
咬まれたり引っかかれたりしなくても、フンや尿、寄生しているダニやノミを介して病原体に接する場面があります。公的な案内が、見かけても手を出さず距離をとることを基本にしているのは、このためです。
子ども・ペットを近づけない、餌付けしない|家庭での接し方
神戸市は、アライグマには絶対に近寄らず、えさやりをしないよう案内しています。えさを与えると人慣れが進んで被害が広がり、感染症を媒介するおそれもあるためです。生ごみやペットの食べ残しを屋外に放置しない、落ちた果実を片付けるといった管理も、近づけないための対策です。外置きのペットフードは 外置きの餌とアライグマ で、食べ残しを減らす方法を整理しています。
子どもに伝えること
庭や公園で野生動物を見かけたとき、子どもが「かわいい」と近づいたり、餌をあげたりするのが一番の心配です。厚生労働省は、野生動物には安易に触らず、動物に触ったら流水で手を洗うよう呼びかけています。子どものアライグマのように見えても、近くに親がいることがあります。確認の手順は アライグマの親子を見かけたら にあるとおり、触らず、距離を保ちます。
- 見かけたら近づかず、大人に知らせる
- 触らない、餌をあげない
- 触ってしまったら、流水でしっかり手を洗う
ペットがいる家
東京都環境局の資料は、アライグマ・ハクビシンが媒介する主な感染症のうち、ペットへの感染の恐れがある病気として、ジステンパー、パルボウイルス感染症、アデノウイルス感染症を挙げています。ペットの餌を屋外に置かず、庭に出す時間を見直してください。ペットに付くマダニは、かかりつけの獣医師にダニ駆除薬を相談します。皮膚に食い込んでいるマダニは、無理に取らず、獣医師に除去してもらうのがよいと厚生労働省は説明しています。
咬まれた・引っかかれた・フンに触れたとき|受診の考え方
ここでは診断や治療ではなく、受診につなぐ考え方だけを整理します。手引きは、作業後に体調に異常が出たときや、咬まれたり引っかかれたりしたときには、アライグマに関する感染症の可能性を伝えて医療機関に相談するよう求めています。板橋区も、咬まれた場合は感染症になるおそれがあるため、できるだけ早く病院を受診するよう案内しています。
厚生労働省のハンドブックは、動物由来感染症は、初めは風邪やインフルエンザ、ありふれた皮膚病に似た症状のことも多く、発見が遅れがちだと説明しています。特に小さな子ども、妊婦、高齢者は重症化しやすいため、早めの受診を勧め、受診の際は動物との接触状況も医師に伝えるよう求めています。手引きは、感染症に詳しい医師や医療機関を、あらかじめ調べておくと緊急時に役立つとも述べています。
| 場面 | まず確認すること | 相談先の例 |
|---|---|---|
| 咬まれた・引っかかれた | いつ、どこで、どんな動物に咬まれたか(引っかかれたか)を覚えておく。傷の手当てや予防の判断は自分で決めず、医療機関で相談する | 医療機関。動物への対応は市区町村の担当窓口 |
| フン・尿に触れた | 触った手で顔や口に触れない。流水でよく洗い、その後の体調の変化に注意する。受診するときは、フンに触れたことを伝える | 体調に変化があれば医療機関。不安は保健所 |
| マダニに刺された | 無理に引き抜かない。皮膚科などで除去してもらい、数週間は体調の変化に注意する | 皮膚科などの医療機関 |
| 屋根裏の作業のあとに体調が悪い | 作業の内容(フンの片付け、虫の有無)を伝える。原因を自分で決めない | 医療機関 |
屋根裏のフン清掃を自分でしない方がよい理由
フンは、乾くと中の病原体が空気中を漂うことがあります。厚生労働省は、糞尿に直接触れたり、病原体を吸い込んだりしないよう、早めに処理することを勧めています。手引きも、間接伝播の一つとして、糞便が粉じんになって空気を介する経路を挙げています。屋根裏は暗くて狭く、フンの範囲が見えにくいため、動かしたときに粉じんを吸い込むおそれがあります。
屋外の少量なら
神戸市は、アライグマの糞尿を処理する際には、マスクとゴム手袋をし、作業後は手を洗うよう案内しています。これは庭など屋外で少量を見つけたときの考え方で、屋根裏全体の汚れとは分けて考えます。先に写真で場所を記録し、直接触れない方法で扱ってください。
屋根裏は任せる範囲
板橋区は、ふん尿の撤去、清掃、雑菌の消毒処理が必要な場合は、自己負担を判断のうえ、自分で専門業者へ依頼するよう案内しています。札幌市も、屋根裏のフンの清掃や消毒は民間の専門業者に相談するよう案内しています。範囲の取り方は 害獣のフン処理と消毒 で、フンの特徴は アライグマのフンの特徴 で確認できます。
アライグマを見かけたときの連絡先|自治体の窓口と保健所の使い分け
手引きによると、地方公共団体でアライグマの防除に関わるのは主に環境部局と農政部局で、感染症対策では保健衛生部局が関わります。東京都は、被害にあったときは、まず各区市町の環境部署や清掃部署に問い合わせるよう案内しています。名称は自治体で違うため、市区町村のホームページで「アライグマ」「有害鳥獣」「特定外来生物」などの語で探すと、窓口が見つかります。
連絡する前に、近づいて確かめる必要はありません。屋根裏の被害を相談するときの段取りは 屋根裏のアライグマ駆除の流れ にまとめています。確認した各自治体のページは2026年10月3日時点のもので、受付時間や事業の内容は変わることがあります。
| 状況 | 連絡先の例 | 伝えること |
|---|---|---|
| 庭や道路で見かけた(被害なし) | 市区町村の環境・農政担当。熊本市は環境政策課へ連絡するよう案内 | 日時、場所、様子。近づかず、可能なら写真や動画 |
| 屋根裏に入られた・天井から音がする | 市区町村の担当窓口。神戸市は鳥獣相談ダイヤル(受付8時〜21時、年中無休)、板橋区は環境政策課 | 音の時間帯、フンやシミの写真、建物の所有者か管理者か |
| 咬まれた・引っかかれた・体調が悪い | 医療機関。感染症の不安は保健所 | 接触した状況(動物、日時、傷、フンやダニの有無) |
| 飼っているペットが接触した | かかりつけの動物病院 | 接触の状況と、ペットの健康状態 |





