アライグマが日本に定着した経緯|ペットブームから野外へ

アライグマは北米から中米が原産で、日本に自然分布していた動物ではありません。国立環境研究所の侵入生物データベースによると、国内で最初の野生化は1962年、愛知県犬山市の動物園から集団で逃げ出した12頭に由来するとされています。環境省の手引きも、1962年に愛知県の動物園から逃げたと考えられる個体が野外で確認されたことを、最初の野生化事例としています。

その後、1970年代後半にテレビアニメが放映されて、かわいい動物というイメージが広がり、ペットとして大量に輸入されました。手引きによると、人に十分慣れていない野生動物のため、成長すると粗暴になる個体が多く、飼いきれずに捨てられたり、飼育施設から逃げたりして、各地の野外に定着しました。

国立環境研究所は、有害鳥獣として捕獲された個体を山奥に放す「奥山放獣」で分布が広がった可能性も指摘しています。この点が、後で説明する「捕獲した個体を放せない理由」につながります。増えた原因は動物の側にはなく、人が持ち込み、手放した結果だという点は押さえておきたい事実です。

アライグマが日本に定着した経緯|ペットブームから野外へ:確認項目
時期出来事資料
1962年愛知県の動物園から逃げた個体が野外で確認され、国内最初の野生化事例とされる環境省の手引き、国立環境研究所
1970年代後半テレビアニメの影響でペットとして大量に輸入され、幼獣の飼育が流行する環境省の手引き、国立環境研究所
飼育が難しくなった時期以降遺棄や飼育施設からの逃亡で、各地の野外に定着する環境省の手引き
2005年外来生物法の施行時に、いち早く特定外来生物に指定される環境省の手引き
2023年改正外来生物法の施行で、都道府県に被害防止の措置を講じる責務、市町村に努力義務が生じる環境省の手引き

参考:国立環境研究所|侵入生物データベース・アライグマ

読者の疑問

アライグマはなぜ日本にいるのですか?

比較ガイド

ペットとして大量に輸入された個体が、飼いきれずに捨てられたり、飼育施設から逃げたりして野生化しました。1962年に愛知県で最初の野生化事例が確認され、現在は沖縄県を除くすべての都道府県で生息が確認されています。

外来生物法で防除の対象になっている理由|生態系・農業・暮らしへの被害

外来生物法は、特定外来生物による生態系、人の生命や身体、農林水産業への被害を防ぐことを目的にしています。環境省の手引きは、アライグマを高い侵略性をもつ外来生物と位置づけ、生態系や農林水産業への被害を防ぐために、積極的な防除が必要だとしています。

生態系への影響

手引きは、北海道でニホンザリガニやエゾサンショウウオを捕食した例、アオサギの集団営巣地を放棄させた例を挙げています。本州ではニホンイシガメやカエル類などの両生類・爬虫類、フクロウの雛の捕食例も知られています。横浜市の公園では、捕獲を続けたところヤマアカガエルの卵塊数が増えた、という結果も示されています。

農作物への影響

アライグマは甘味があって汁の多い作物を好み、トウモロコシやスイカ、メロン、ブドウなどで被害が目立つとされています。農作物の被害額は全国で増えており、数字は統計の章で紹介します。

住まいや文化財への影響

屋根裏などに侵入して繁殖することがあり、糞尿による汚れが出ます。寺社などの柱に爪を立てて登り、屋根裏に入る被害もあります。人獣共通感染症の媒介者になるおそれもあり、公衆衛生の面でも対策が求められると手引きは述べています。侵入口の探し方は、アライグマは屋根裏にどこから入るかで整理しています。

参考:環境省|アライグマ防除の手引き(地域から構築する効果的な防除、2025年改訂版)

捕獲後に放せない・飼えない理由|外来生物法のしくみ

外来生物法は、特定外来生物の飼養等(飼養、栽培、保管、運搬)、輸入、譲渡し、野外への放出を原則として禁止しています。条文では、飼養等は第4条、譲渡し等は第8条、放出等は第9条に定められています。例外は、許可を受けた学術研究などの場合や、防除として行う捕獲等の場合などです。

このため、捕まえたアライグマを生きたまま車で運び、山や別の地域で放すことは認められていません。環境省のQ&Aも、見つけた特定外来生物を生きたまま許可なく運搬することはできないため、不用意に捕まえず、まず場所の管理者や行政機関に相談するよう案内しています。なお、捕まえた場所ですぐ放すなら問題ないとされていますが、それでは被害は止まりません。そもそも罠での捕獲には、許可や届出が必要になる場合があります。

飼うことも同様です。環境省のQ&Aは、特定外来生物を飼う目的は学術研究、展示、教育などに限られ、ペットとして新しく飼う許可は受けられないとしています。かわいそうだからと連れ帰る行為も、飼養等の禁止に当たるおそれがあり、罰則も条文に定められています。同じ特定外来生物のクリハラリスの扱いはタイワンリスの被害と対策で、個人が罠で捕獲するときの手続きはアライグマ駆除の法律と許可で整理しています。

捕獲後に放せない・飼えない理由|外来生物法のしくみ:確認項目
行為外来生物法での扱い例
飼う・保管する・運ぶ(飼養等)原則禁止(第4条)。許可を受けた学術研究など、防除として行う捕獲等は例外。違反は1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金(販売や頒布の目的の場合は3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金)保護したいと連れ帰る、車で別の場所へ運ぶ
人に譲る・引き取る(譲渡し等)原則禁止(第8条)。違反は1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金(販売や頒布の場合は3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金)知人に引き取ってもらう
野外に放す(放出等)原則禁止(第9条)。違反は3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金別の山や公園で放す
捕まえた場所ですぐ放す環境省のQ&Aでは、問題ないとされる捕まえてしまった場所でその場で放す

参考:e-Gov法令検索(デジタル庁)|特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律

処分方法について国の指針と手引きが示す考え方|手順は扱いません

この記事は、処分の方法や手順を説明するものではありません。処分は個人が行う作業ではなく、防除を行う自治体などが責任をもって体制を整えて行うものです。ここでは、国がどのような考え方を示しているかだけを整理します。

国の指針と手引きが求めること

環境省の「動物の殺処分方法に関する指針」は、一般原則として、動物の生理や習性を理解し、生命の尊厳性を尊重することを理念に、その動物に苦痛を与えない方法によるよう努めることを求めています。方法は、できる限り苦痛を与えない方法で意識を失わせ、心臓や肺の機能を止めるものとされています。

アライグマの手引きも、殺処分をする場合はこの指針に準じ、従事者の心理的負担の軽減や効率的な防除にも配慮しながら、できる限り苦痛を与えない適切な方法で行う必要があるとしています。捕獲個体は防除を行う主体の責任で処分し、個人的な持ち帰りや野外への放置は厳に慎むべきだとされています。

各地で行われている実施体制

手引きは、各地の体制として、獣医師などの専門家が行う例、都道府県の施設で行う例、自治体の職員や捕獲従事者が行う例、委託業者が行う例を紹介しています。多くの地域で二酸化炭素が使われていることや、担当者に心理的な負担が集中しやすいことにも触れています。

  • 動物の生理や習性を理解し、生命の尊厳性を尊重する(指針)
  • できる限り苦痛を与えない方法を用いる(指針、手引き)
  • 従事者の心理的な負担にも配慮する(手引き)
  • 個人的な持ち帰りや、野外への放置をしない(手引き)

参考:環境省|動物の殺処分方法に関する指針(平成7年総理府告示第40号、平成19年環境省告示第105号による改正後、PDF)

被害と捕獲数の公的統計|増え続けていても、防除が無意味なわけではない

農林水産省の集計では、令和6年度(2024年度)のアライグマによる農作物被害は全国で約6億9,300万円でした。野菜が約3億9,200万円、果樹が約2億1,300万円を占めます。環境省の手引きによると、アライグマの捕獲数は、1991年度には全国で9頭でしたが、2005年度に特定外来生物へ指定された後に急増し、2020年には9万6千頭を超えました。

それでも手引きは、2005年度以降も分布の拡大を抑えられておらず、捕獲数も農作物被害も増え続けてきたため、全国レベルでは被害を十分に制御できているとは言えないと総括しています。一方で、大分市のように早い段階で計画を作って定着を抑えている地域や、北海道新十津川町のように局所的に生息密度を下げた地域もあります。捕獲数は、被害額や分布の広がりとあわせて読む必要があります。

被害と捕獲数の公的統計|増え続けていても、防除が無意味なわけではない:確認項目
指標数値資料
アライグマによる農作物被害額(全国、令和6年度)約6億9,300万円農林水産省
同、作物区分別(令和6年度)野菜 約3億9,200万円、果樹 約2億1,300万円農林水産省
全国の捕獲数1991年度は9頭、2020年は9万6千頭超環境省の手引き(鳥獣関係統計)
生息が確認された地域(2024年の市町村調査)沖縄県を除くすべての都道府県環境省の手引き
外来生物法に基づく防除の実施(2024年11月時点)21都道府県、435市町村環境省の手引き

参考:農林水産省|野生鳥獣による農作物被害状況(令和6年度)参考1(PDF)

防除の目的は「増やさない・広げない」|早く対応するほど捕獲数は少なくて済む

外来生物法に基づくアライグマ防除の目的は、希少種を含む在来の生態系を守ることと、農林水産業の被害を防ぐことです。手引きは、日本にもともといない外来種については、被害を避けるだけでなく、損なわれた生態系を取り戻すため、究極的には国内からの完全排除を目標に計画的に進めるとしています。同時に、現状では直ちに完全排除を目指すのは現実的でなく、地域の実情に合った目標を立てるよう勧めています。

また、生息数が少ない侵入初期に見つけて徹底的に防除し、地域から排除することが、最も効率的で効果的だとされています。被害が小さいうちは声が上がりにくく、対策が後手に回りがちなので、未侵入の地域でも情報が早く集まる体制づくりが重要です。

手引きが示す方向は、数が増えてから大量に捕獲するより、少ないうちに対応することです。住民が餌を与えず、侵入口をふさぎ、見かけた情報を伝えることは、その入り口にあたります。かわいそうだと感じる気持ちを、これ以上増やさない行動に向けることもできます。

参考:環境省|アライグマ防除の手引き(地域から構築する効果的な防除、2025年改訂版)

住民にできること|餌を与えない・侵入させない・情報を伝える

神奈川県は、アライグマやその痕跡(爪あと、足あとなど)を見つけたときの対策として、餌になるものを除去する・減らす、家屋や畑に侵入されないようにする、捕獲する、の3つを挙げています。捕獲は市町村が主体で、住民に罠を貸し出すかどうかなどの対応は市町村によって違うため、まず住んでいる市町村に相談します。

県は、効果的な防除のために生息情報も集めています。環境省が運営する「いきものログ」で、目撃情報を投稿できるとしています。写真を撮るときは近づかず、場所と日時を残します。

参考:神奈川県|アライグマを見つけたら