ハクビシンと感染症|公的機関が説明していること

東京都の外来種対策マニュアルは、アライグマとハクビシンは複数の人獣共通感染症を媒介する可能性があると言われていること、両種からペットに重い感染症を引き起こす病原体が検出されていることを説明しています。農林水産省の中型獣類マニュアルも、ハクビシンにはノミやダニが付いており、それらが媒介する病気や、動物自体や糞尿を経由して伝わる感染症があるため、過度な接近は注意が必要だと述べています。

東京都の参考資料は、アライグマ・ハクビシンについて、主な人獣共通感染症の一覧を示しています。この一覧は2種をまとめたもので、すべてがハクビシンで確認されているという意味ではありません。たとえばアライグマ回虫幼虫移行症は、アライグマに寄生する回虫が原因です。また、今回確認した公的資料には、国内でハクビシンから人に感染した件数や、リスクの大きさを数字で示した記載は見当たりませんでした。「可能性がある」という段階の情報として読み、過度に恐れず、触れない、近づかない、清掃は手袋を使うといった基本を守ります。

ハクビシンと感染症|公的機関が説明していること:確認項目
感染のしかた東京都の一覧に挙がる感染症の例読むときの補足
咬み傷・だ液狂犬病厚生労働省のハンドブックは、狂犬病は1957年を最後に、人・動物とも国内で感染した例がないと説明している
フンなどが手に付いて口から入るサルモネラ感染症、カンピロバクター感染症、エルシニア感染症食べ物を介する感染が主な病気でも、動物のフンが感染源になる場合があるという整理
皮膚との接触皮膚糸状菌症、疥癬皮膚の症状として現れる感染症
ダニ類日本紅斑熱、ツツガムシ病、SFTS(重症熱性血小板減少症候群)動物の体に付くダニが媒介する病気として挙げられている
水などの環境レプトスピラ症、E型肝炎尿などで汚れた水や、汚染された食べ物や水を介する感染

参考:東京都環境局|外来種対策マニュアル「アライグマ・ハクビシンが引き起こす問題」(PDF)

読者の疑問

ハクビシンは危ない動物ですか?

比較ガイド

板橋区は、むやみに近づかなければ危害はないと説明しています。ただし船橋市は、刺激を与えると襲ってくることがあるとしています。見かけても近づかず、触らず、餌を与えないことが基本です。

SARS(サーズ)との関係の経緯|ハクビシンが話題になった理由

ハクビシンとSARS(重症急性呼吸器症候群)の関係は、2003年に注目されました。厚生労働省は2003年5月、WHOが、SARSコロナウイルスに類似したウイルスが中国南部の野生動物から分離されたとする報告を公表したことを受け、ハクビシン、タヌキ、中国イタチアナグマ(中国産の野生動物)を取り扱う場合の注意喚起を、自治体に求めました。通知は、WHOが当該の野生動物がSARSの流行に関連したことは証明されていないとしている点と、今回の対応が予防的措置である点を、はっきり書いています。

通知が求めたことと、日本産への当てはめ

同じ通知は、WHOが公表した健康危険情報が、日本産の野生動物に直ちに当てはまるものではないとも書いています。取り扱う人には、体液や排泄物への直接の接触を避け、飼育環境の清潔に努め、清掃作業のあとは手洗いをするよう求めていました。

その後の整理|自然宿主はコウモリ

その後の整理について、公益社団法人東京都獣医師会の資料は、SARSコロナウイルスの自然宿主はキクガシラコウモリとされると説明しています。発生当初は、広東省で食用に売買されていたハクビシンから人に感染したことが原因と考えられていましたが、ハクビシンもウイルスに感染すると症状を示すことから、宿主を探した結果、コウモリが元の宿主とされました。同じ資料は、予防として、野生動物を捕獲したり食材にしたりしないことを挙げています。

家の周りのハクビシンとの関係

経緯を整理すると、SARSとハクビシンの話題は、海外で食用に売買されていた動物をめぐるものでした。日本国内の野生のハクビシンから人にSARSが広がったという記載は、今回確認した公的資料にはありません。一方で、野生動物の体液や排泄物に触れない、飼わない、食材にしないという基本は、厚生労働省の通知や獣医師会の資料でも示されています。

参考:厚生労働省|SARS対策について(SARS対策第19報)SARS類似コロナウイルスが分離された中国産の野生動物への対応について(2003年)

マダニ・ノミ・フン尿の衛生面

農水省のマニュアルは、ハクビシンがねぐらの中で排泄するため糞尿が堆積し、天井板が落ちる被害にまで発展した事例があると述べています。衛生面では、糞尿による汚染に加えて、ノミやダニが付いていること、ペットがハクビシンと長時間同じ生活空間にいないようにする必要があることを挙げています。

マダニ・ノミは、体や作業の服装を通して気をつける

国立健康危機管理研究機構(JIHS)は、マダニはシカ、イノシシ、野ウサギなどの野生動物が出没する環境や、民家の裏山、裏庭、畑、あぜ道に多く生息し、多くは3〜11月に活動が活発になると説明しています。マダニが媒介する感染症にはSFTSや日本紅斑熱があります。ハクビシンが出入りする庭や屋根裏の周りで作業するときも、肌の露出を減らす基本は同じです。

  • 作業のときは、長袖・長ズボン・手袋で肌の露出を少なくする
  • 作業後は上着を室内に持ち込まず、入浴のときに体を確認する
  • 吸血中のマダニは無理に取らず、皮膚科などで処置を受ける
  • 刺されたあとは数週間、体調の変化に注意し、発熱などがあれば受診する

フン尿は、素手で触らず、手袋とマスクで扱う

板橋区のリーフレットは、庭やベランダにされたフンは、手袋とマスクをして清掃し、消毒するよう案内しています。農水省の総合対策編は、野生鳥獣の排泄物や唾液、血液に触れたり、噛まれたり引っかかれたりして感染する「直接伝播」と、ダニ、ノミ、蚊などを介する「間接伝播」に分けて説明しています(捕獲に携わる人向けの章です)。感染は、発熱や嘔吐、下痢、倦怠感などの症状が出て初めて分かることがあり、事前の備えが大切だとされています。

ペットへの影響

東京都は、両種からペットに重い感染症を起こす病原体が検出されていると説明し、農水省も、ペットの生活空間にハクビシンが長時間とどまらないようにする必要があるとしています。庭にペットの食事を置いたままにしない、ペットフードを屋外に放置しない、という対策は、餌を絶つ対策とペットの感染予防の両方に役立ちます。

参考:農林水産省|野生鳥獣被害防止マニュアル 中型獣類編 2-2 ハクビシン(PDF)

噛まれた・引っかかれたときの受診の考え方

船橋市は、ハクビシンを見かけても、咬まれたり引っかかれたりすることによる怪我や感染症を避けるため、近づかないよう案内しています。同市は、ハクビシンは臆病な性格だが、刺激を与えると襲ってくることがあるとも説明しています。一方、板橋区は、外で見かけたときは攻撃せず、むやみに近づかなければ危害はないとしています。

万一、咬まれたり引っかかれたりして皮膚に傷ができたときは、自己判断で様子を見るのではなく、医療機関に相談します。厚生労働省の動物由来感染症ハンドブックは、動物由来感染症は初めは風邪やありふれた皮膚病に似た症状のことが多く、病気の発見が遅れがちなので、体に不調を感じたら早めに受診し、動物との接触状況も医師に伝えるよう案内しています。傷の処置や、必要な検査・予防の判断は、医師が行います。

動物由来感染症について相談したいときは、最寄りの保健所が問い合わせ先とされています(ハンドブック)。野生のハクビシンに咬まれた場合の窓口が自治体ごとに違う可能性があるため、保健所に電話をして、案内を受けます。

噛まれた・引っかかれたときの受診の考え方:確認項目
状況まずすること相談・受診の先伝えること
咬まれた、または引っかかれて皮膚が傷ついた動物から離れて安全を確保する。自分で処置を済ませたと判断しない医療機関野生のハクビシンらしい動物だったこと、日時と場所、傷の場所と状況
マダニが付いていた無理に取らない皮膚科などの医療機関野外や屋根裏での作業の有無、マダニを見つけた日
接触のあとに、発熱・倦怠感・嘔吐・下痢などが出た動物との接触状況を添えて、早めに受診する医療機関接触した日、動物の様子、症状が出た日
動物由来感染症について知りたい電話で相談する最寄りの保健所見かけた動物と、接触の有無
屋根裏のフン尿、においが気になる自分で触れず、位置を写真で記録する市区町村の担当課、専門業者場所、範囲、続いている期間

参考:厚生労働省|動物由来感染症ハンドブック2026(PDF)

近づかない・餌を与えない|日常の接し方

船橋市は、ハクビシンなどの野生動物に餌を与えると、人に慣れたり、住みついたりする可能性があるため、与えないよう案内しています。板橋区のリーフレットは、野生動物に餌を与えると、人の食べ物の味を覚えてねだるようになり、ときには餌欲しさに人に襲いかかってくることもあると説明しています。追い払うために近寄らず、写真のために追い詰めないことが、咬傷を避ける最初の対策です。

厚生労働省のハンドブックは、野生動物は病気について不明なことも多いため、一般家庭での飼育は控えるよう案内しています。見かけたときは距離を取り、餌になるものを片づけます。庭や屋根裏の対策は、ハクビシンを屋根裏から追い出す方法や、ハクビシン駆除を自分でする範囲で順番を確認できます。見分けに迷うときは、ハクビシンとアライグマ、どう違う?も参考になります。

  • 見かけても近づかない、触らない
  • 餌やペットフードを屋外に置かない
  • 写真は、離れた位置から安全に撮れる範囲にとどめる
  • 子どもやペットを、近づけない

参考:船橋市|ハクビシンについて知りたい(2025年11月25日更新)

屋根裏のフン清掃を頼む範囲|自分でする範囲と任せる範囲

屋根裏や天井裏のフン尿は、量が多く、堆積していることがあります。農水省のマニュアルは、堆積した糞尿で天井板が落ちた事例にも触れています。板橋区のリーフレットは、箱わなの事業について、糞尿の撤去や清掃、侵入口を塞ぐ施工、雑菌の消毒処理が必要な場合は、有償であり、自分で専門業者に依頼するよう案内しています。ためフンの清掃や封鎖を業者に頼んだ場合の料金の内訳は、ハクビシン駆除の費用・相場で整理しています。

庭やベランダなど屋外の少量のフンと、屋根裏の広い範囲のフンでは、作業の性質が違います。次の表は、公的資料の記載を踏まえた線引きの例です。内容は目安で、屋根裏の状態や住まいの構造によって変わるため、自治体の窓口や事業者の説明を確認してください。清掃・封鎖の範囲で業者を比べる方法は、ハクビシン駆除業者の選び方にまとめています。

見積もりでは、フンの撤去、消毒、断熱材の交換、侵入口の封鎖を別々の項目にして書いてもらうと、何にいくらかかるかが見えます。手順は害獣のフン処理と消毒、見積書の読み方は見積書が「駆除一式」だけのときで確認できます。

屋根裏のフン清掃を頼む範囲|自分でする範囲と任せる範囲:確認項目
場所・状況自分で行うことの目安任せることを考える範囲根拠
庭・ベランダの少量のフン手袋とマスクで拾い、消毒する。素手では触らない量が多い、範囲が広い、同じ場所にたまり続ける場合板橋区のリーフレット
軒下・雨どい・外壁のまわり高い場所へ上がらず、地上から位置を写真で記録する脚立や屋根の上での作業が必要な場所当記事の整理(作業の安全面)
屋根裏・天井裏にたまったフン尿自分で入って片づけず、写真で記録する撤去、清掃、消毒、断熱材の交換、侵入口の封鎖板橋区(専門業者へ依頼)、農水省(堆積した糞尿)
ダニやノミが気になる作業のときは、肌の露出を減らし、素手で触らない駆除や室内の消毒など、範囲が広い作業農水省、JIHS

参考:板橋区|アライグマ・ハクビシンでお困りの方へ(リーフレット、PDF)

受診や相談の前に残す記録|日時・場所・動物の特徴

咬まれた、引っかかれた、屋根裏でフンを見つけたといったとき、あとから状況を説明できるように、日時、場所、動物の見た目、接触した部位、その後の体調を書き留めます。農水省のマニュアルは、ハクビシンの特徴として、黒い頭部に鼻筋が白いことと、頭から胴体と同程度の長い尾を挙げています。見た目の手がかりが分かると、医療機関や保健所、自治体の窓口に伝えやすくなります。

動物の写真は、離れた位置から安全に撮れる範囲にとどめます。追いかけて撮る必要はありません。同じ内容を、医療機関、保健所、窓口に、順に伝えられるよう、一枚にまとめておきます。

  • いつ、どこで、どんな動物と接触したか(顔の白いすじ、尾の長さなど)
  • 咬まれた・引っかかれた場所と、傷の状態
  • その後の体調の変化(発熱、倦怠感、嘔吐、下痢など)と、出始めた日
  • 屋根裏や庭で、フンやダニを見つけた場所の写真

参考:農林水産省|野生鳥獣被害防止マニュアル 中型獣類編 2-2 ハクビシン(PDF)