「食べない野菜」と言い切れない理由|資料による違いと餌の量

先に結論を言うと、害獣が食べない野菜があると言い切った資料は、今回確認した範囲にはありませんでした。「被害を受けにくい」「被害が少なかった」という書き方で、条件つきの結果が示されています。理由を3つに分けて見ます。

サルは学習で食べる作物を広げる

農林水産省の実践編マニュアル(平成26年3月)は、サルの食物は遺伝的に決まっているわけではなく、生後に学習するものだと説明しています。学習によって、イネ、マメ類、イモ類、ネギ、キュウリ、ナス、ダイコン、トマト、イチゴなど多くの農作物の味を覚えていくため、被害対象作物は広がっていくとされています。最初は食べなかった作物でも、集落で食べられた経験が重なれば、被害の対象に加わることがあります。

シカは季節によって食べる物が変わる

埼玉県の秩父農林振興センターは、ニホンジカはアセビ等の特定のものを除くほとんどの植物種を食べる草食獣で、あらゆる農作物が被害の対象になると説明しています。京都大学などの研究グループは、森林に生息するシカが、夏から秋には好む落葉広葉樹を食べ、冬から春には好まない常緑樹や草本植物を食べる割合が増えることを、糞のDNAから明らかにしました。農作物の話ではありませんが、季節によって食べる物が変わり、好まない植物も食べる例として参考になります。

資料ごとに結果が違う例

熊本県の現地試験では、トウガラシにシカが葉を食べる被害が出ました。一方、島根県の資料は、嗜好性の低い作物としてトウガラシやシソを挙げています。島根県のサルを扱う発表資料には、無臭ニンニクの被害の写真も載っています。千葉県のサツマイモの現地調査では、全体の被害は軽微で、圃場の周辺に別の餌環境があることが推察されています。動物、地域、品種、周囲の餌の量が違えば、同じ作物でも結果が変わるため、この後の表の作物は「その資料の条件で被害が少なかった」と読んでください。

参考:農林水産省|改訂版 野生鳥獣被害防止マニュアル イノシシ・シカ・サル 実践編(平成26年3月、PDF)

読者の疑問

サルが食べない野菜はありますか?

比較ガイド

食べないと言い切れる野菜は、今回確認した資料にはありませんでした。島根県の資料はトウガラシやシソを嗜好性が低い作物とし、大津市のチラシは辛味や苦味の強い作物は好まないとしますが、農林水産省は、サルが学習によって食べる作物を広げていくと説明しています。

動物別・出典別に見る「被害を受けにくい」とされた作物の表

公的機関の資料で、被害が少なかった作物を具体的に挙げているものを、動物別・出典別に並べました。条件が書かれている資料は条件も添え、同じ資料で被害があった作物も載せています。主な3つの資料の内容を先に補足し、最後に一覧の表にまとめます。

熊本県の現地試験|シカ・イノシシ

熊本県農林水産部の農業研究成果情報(2024年6月)は、南阿蘇村のシカ・イノシシが出没する現地ほ場で、2019年と2020年の2か年、同じほ場内に品目を並べて栽培し、食害の程度を比べています。ニガウリ、ネギ、アカシソ、バジルは、シカ・イノシシによる食害が全く認められませんでした。ゴマ、ニンニク、サラダゴボウは、シカの葉の食害がごく稀にあるものの問題なく、イノシシの被害は認められませんでした。ショウガはシカの葉の食害がなく、イノシシがわらマルチを掘り起こす被害があり、ミミズが目的と考えられるとされています。

一方、カンショは収穫皆無、キクイモは出没するほ場では不適とされ、トウガラシ、オクラ、ダイズはシカが葉を食害しました。トレイルカメラでは、シカが月に1〜32頭、イノシシが月に1〜14頭確認されています。

滋賀県の研究|イノシシ

農研機構のサイトに掲載された滋賀県農業技術振興センター湖北分場の研究紹介は、イノシシが興味を示さない作物を調べ、園芸作物ではシソ、ゴボウ、ミント、白ネギの4品目、雑穀類では水稲品種「シシクワズ」と二条大麦のようにボウの長い品目だったと報告しています。シソを法面に植えた実験では、シソ付近への出没が激減し、シソを越えて農地へ移動することはなく、「シシクワズ」を1筆すべてに作付けすると被害をほとんど受けなかったとあります。これらを使って里の餌場としての価値を下げられる可能性がある、という書き方で、作物を植えるだけで被害がなくなるとは書かれていません。

島根県・大津市の資料|サル

島根県中山間地域研究センターの資料は、被害を受けやすい農作物を畑の中央で栽培し、嗜好性の低いトウガラシやシソなどを畑の周囲に植えると、動物への目隠し効果が期待できると説明しています。同センターの発表資料には、集落でサルの被害が減った対策として、被害を受けにくい畑づくり(ニラ、ピーマン、トウガラシの栽培)が回答に挙がっています。大津市のサル対策のチラシは、辛味や苦味の強い農作物は好まないとし、サルによる被害が少ないとされる作物を畑の周りや柵のそばに植えると「嫌がらせ」の効果があると紹介しています。

動物別・出典別に見る「被害を受けにくい」とされた作物の表:確認項目
動物資料と条件被害が少なかったと書かれた作物同じ資料で被害・注意が書かれた点
シカ・イノシシ熊本県農林水産部(2024年6月)。南阿蘇村の現地ほ場で、2019〜2020年の2か年、同一ほ場内に品目を並べて栽培ニガウリ、ネギ、アカシソ、バジル(食害なし)。ゴマ、ニンニク、サラダゴボウ(シカの食害はごく稀、イノシシの被害は認められず)カンショ・キクイモは不適。トウガラシ、オクラ、ダイズはシカが葉を食害。ショウガはイノシシが掘り起こす被害
イノシシ滋賀県農業技術振興センター湖北分場の研究紹介(農研機構掲載)シソ、ゴボウ、ミント、白ネギ。雑穀類は水稲「シシクワズ」と二条大麦里の餌場の価値を下げる可能性として書かれ、柵の代わりとは書かれていない
動物を特定しない島根県中山間地域研究センターの営農管理の資料嗜好性の低いトウガラシ、シソ(畑の周囲に植える)被害を受けやすい作物を畑の中央で栽培する配置と、セットで書かれている
サル島根県の発表資料(集落の回答)、大津市のチラシニラ、ピーマン、トウガラシ(島根県の集落の回答)。辛味や苦味の強い作物は好まない(大津市)島根県の発表資料に無臭ニンニクの被害の写真がある。大津市は、主に果樹、野菜、水稲、大豆、イモ類が食害されるとする
ヌートリア農林水産省の中型獣類のマニュアルピーマンやネギ類など独特のにおいがあるものは、比較的被害に遭いにくい畑地ではさまざまな作物が被害を受ける。水田では田植え直後の苗が被害にあう
シカ(全般)埼玉県秩父農林振興センター被害を受けにくい作物は挙げられていないアセビ等の特定のものを除くほとんどの植物を食べ、あらゆる農作物が対象

参考:熊本県農林水産部|農業研究成果情報 No.1066 ニンニクは獣害を受けにくい品目で準高冷地には「福地ホワイト六片」が適する(2024年6月、PDF)

サル・シカ・イノシシ・中型獣で違う好み

被害を受けやすい作物は動物ごとに違うため、自分の畑に来る動物を絞ることが先です。食べ跡や足跡での見分け方は畑の害獣対策にまとめています。次の表は、各資料に書かれた被害作物や好みの例です。

ハクビシンとアライグマの見分けはハクビシンとアライグマの違いに、庭の果実の被害はハクビシンに庭の果実を食べられるときにあります。農林水産省の中型獣類のマニュアルには、アライグマ・ハクビシンの項で、被害を受けにくい作物を挙げた記載は確認できませんでした。

サル・シカ・イノシシ・中型獣で違う好み:確認項目
動物資料に書かれた被害作物・好み資料
サル島根県は、春はニンジン、ダイコン、タマネギ、ジャガイモ、シイタケ、夏はキュウリ、ナス、トマト、スイカ、カボチャ、トウモロコシ、秋はイネ、ダイズ、ダイコン、カキ、クリ、シイタケを主な被害作物に挙げる。農林水産省は、カキ、カボチャ、スイカ、トウモロコシ、クリ、モモなど甘くて栄養価の高いものを好むとする島根県中山間地域研究センター、農林水産省
シカほとんどの植物を食べ、あらゆる農作物が対象(埼玉県)。熊本県の試験では、カンショ、トウガラシ、オクラ、ダイズの葉が食害された埼玉県秩父農林振興センター、熊本県農林水産部
イノシシ熊本県の試験でカンショの根を食害。埼玉県は、サツマイモが収穫直前に食べられ、被害は収穫直前の一番おいしい時に集中すると説明し、竹林ではタケノコが食い荒らされることもあるとする熊本県農林水産部、埼玉県秩父農林振興センター
ハクビシン甘くて汁気の多いぶどう、かき、トマトなどを好み、とうもろこしも被害に遭いやすい農林水産省 中型獣類のマニュアル
アライグマぶどうなど袋掛けする作物と、すいかの被害が例示されている。すいかは穴を開けて中身だけを食べる農林水産省 中型獣類のマニュアル

参考:島根県中山間地域研究センター|ニホンザル(鳥獣対策パンフレット、PDF)

苗・実の時期など成長段階で変わる被害

同じ作物でも、育つ段階によって被害の出方が変わります。収穫直前だけを守ればよい作物もあれば、苗の時期から守る必要がある作物もあります。埼玉県秩父農林振興センターの資料は、シカについて、収穫直前の農作物だけでなく、発芽直後の芽や生育中の葉まで、全生育ステージが食害を受けると説明しています。ここでは、資料の記載を3つ見ておきます。

サツマイモ|成熟に合わせて被害が増える

千葉県農林総合研究センターの令和7年度の試験研究実績は、サツマイモは収穫前の被害が多いとされる一方、塊根が成熟していない時期でも被害に遭うリスクがあると述べています。現地ほ場では、収穫直前の10月下旬から収穫を終える11月下旬にかけて、イノシシの痕跡と撮影された延べ頭数が増え、塊根の成熟に合わせて被害リスクが高まることが示唆されたと報告しています。作付け前の3〜4月にも侵入が確認され、電気柵を設けた栽培期間中は侵入行動が減少しました。

水稲|柔らかい苗の時期に集中

滋賀県農業技術振興センターの成果情報(農研機構掲載)は、シカによる水稲の食害は、移植から分げつ期の茎葉が柔らかい時期に集中すると報告し、移植から中干しまでの期間に水深7cmの深水管理を行うと被害を軽減できるとしています。野菜ではなく水稲の例ですが、柔らかい苗の時期に被害が集中するという点は参考になります。熊本県の試験でも、オクラ、トウガラシ、ダイズは早期にシカが葉を食害しています。

コンニャク|イモと生子で違った例

埼玉県の資料は、コンニャクのイモは「えぐい」ため、イノシシも生では食べないとする一方、生子は食べられたと紹介しています。同じ作物でも、イモの種類や成長の段階で被害が違った例です。

参考:千葉県|令和7年度 農業部会・森林部会 試験研究実績(農林総合研究センター、PDF)

植える場所と配置の工夫|被害を受けやすい作物は柵の内側と中央へ

島根県中山間地域研究センターの資料は、丈夫な防護柵で囲っても、作物のレイアウトによっては柵の効果が十分に発揮されないと述べ、配置の工夫を紹介しています。被害を受けやすい農作物は畑の中央で栽培し、嗜好性の低いトウガラシやシソなどを畑の周囲に植えると、動物への目隠し効果が期待できます。スイカやカボチャのように、伸びたつるが柵の外へ広がって実をつけ、野生動物を誘引する作物は、パイプなどで作った立体的な棚にネットを張って誘引する立体栽培にすると、コンパクトに栽培できます。

植え付けの配置は、近隣の作物や地形で結果が変わります。いきなり畑全体を変えるのではなく、熊本県の試験のように、同じ畝や区画に複数の作物を並べて育て、食べられた作物と時期を記録して、翌年の配置を決める方法が考えられます。

植える場所と配置の工夫|被害を受けやすい作物は柵の内側と中央へ:確認項目
配置の工夫資料の記載自分の畑での確認
被害を受けやすい作物は畑の中央、嗜好性の低い作物は周囲動物への目隠し効果が期待できる(島根県)周囲に植えた作物が実際に食べられていないか、収穫期まで記録する
作物を柵から離して植えるサルが手を伸ばしても届かないよう、農作物は柵から離して植えつける(大津市)つるや枝が、柵の外へ出ていないか確認する
つる性の作物は立体栽培にするつるが柵の外へ広がって実をつけ、動物を誘引することがある(島根県)支柱とネットの強度が、実の重さに耐えるか確認する
柵を樹木や建物から離すサルは柵が樹木や建物の側にあるとジャンプして飛び越えるため、5メートル以上離して設置する(大津市)柵の外側の木の枝や物置の位置を確認する
法面や畑の縁にシソを植えるシソを法面に植えた実験で、シソ付近への出没が激減した(滋賀県の研究)シソの帯があっても、柵と併用する

参考:島根県中山間地域研究センター|営農管理で鳥獣被害を防ぎやすくする(鳥獣対策パンフレット、PDF)

被害を受けにくい作物でも必要な柵と残さの管理

被害を受けにくい作物を植えても、畑そのものが動物にとって餌場になっていれば、被害は続きます。柵と環境管理は、作物選びとは別に必要です。

柵による侵入防止が基本

埼玉県秩父農林振興センターは、畑で栽培している農作物を一度でも食べた野生獣は、簡単に餌が手に入る場所として畑を認識し、無防備な畑は餌付けをするのと同じ結果になると説明しています。シカ対策で最も効果的なのは柵による物理的な侵入防止で、音や臭いによる対策は、刺激が単純に繰り返されるため慣れが生じて効果が薄くなるとされています。柵の種類や高さの目安は、畑の害獣対策にまとめています。

収穫残さとひこばえを残さない

島根県の発表資料は、集落にある餌を、野生動物から見て「食べたら人が怒る餌」と「食べても人が怒らない餌」に分けています。放棄された果樹園の新芽、花、果実、投棄されたくず果、法面の牧草、ひこばえ、山際の柿の木などは後者にあたり、集落や農地がサルの餌場になる原因になります。収穫しない作物や野菜くず、収穫後のひこばえを、畑や周囲に残さないことが、作物選びと同じくらい大切です。忌避資材の効果の確かめ方は害獣の忌避剤だけで解決する?にあります。

参考:埼玉県秩父農林振興センター|鳥獣の生態と被害対策(PDF)

地域の相談先|普及指導の窓口と市町村の農政担当

どの作物が自分の地域で被害を受けにくいかは、地域の動物と栽培条件で変わるため、地域の窓口に聞くのが確実です。農林水産省は、鳥獣被害防止特措法にもとづき、現場に最も近い行政機関である市町村が中心となって実施する野生鳥獣の被害防止の総合的な取組を支援しています。畑のある市町村の農政担当(鳥獣被害対策の担当課)が、最初の相談先になります。

県の農業研究機関や普及部門は、獣害対策の技術情報を公開しています。熊本県の農業研究センター、島根県の中山間地域研究センター、埼玉県の秩父農林振興センターが、今回の資料の例です。窓口の名称は県ごとに違います。相談するときは、畑の位置と広さ、育てている作物、被害の日時と食べ跡の写真、これまでに行った対策を持っていくと話が進みます。全国の農作物被害額の獣種別の順位と推移は、日本の害獣ランキングで確認できます。

参考:農林水産省|鳥獣被害対策コーナー