コウモリと感染症|公的機関が示していること
厚生労働省の「動物由来感染症ハンドブック2026」は、動物から人にうつる病気を、ペット、家畜、野鳥、野生動物などの種類ごとに一覧にしています。野生動物の欄でコウモリに挙げられているのは、狂犬病、リッサウイルス感染症、ニパウイルス感染症、ヘンドラウイルス感染症の4つです。4つとも、日本で病原体が見つかっていないか、長い間見つかっていない感染症を示す印が付けられています。
同じハンドブックは、動物由来感染症のすべてが日本にあるわけではなく、日本は世界の中では例外的に動物由来感染症が少ない国だと説明しています。一方で世界には200種類以上の動物由来感染症があり、特に海外では、むやみに野生動物や飼い主不詳の動物に触れてはいけないと注意しています。国内の住宅での相談と、海外の流行地での話を分けて考えることが、この記事の出発点です。
参考:厚生労働省|動物由来感染症ハンドブック2026(PDF)
コウモリのフンから感染症にうつりますか?
確認した公的資料では、国内でコウモリを直接の原因として発症した事例は示されていません。海外では、フンを含む土壌などを吸い込むヒストプラスマ症が知られています。フンは乾いたまま掃かず、湿らせて防護して片付けます。
コウモリの病原菌を国内と海外で分けた一覧表
次の表は、国立健康危機管理研究機構(JIHS)の疾患解説、厚生労働省検疫所(FORTH)の海外渡航者向け解説、厚生労働省の狂犬病Q&Aを、2026年10月3日に開いて確認した内容です。コウモリが関わるとされる病気を、国内の状況と海外の状況に分けて並べました。日本の住宅に住み着くコウモリで起きていると公的資料が述べている病気の一覧ではなく、「コウモリが関わるとされる病気」と「その国内の状況」を並べた表です。
ニパウイルス感染症で資料が自然宿主として挙げているのは、オオコウモリです。東京都ペストコントロール協会が住宅の天井裏に住み着く種類として紹介しているのはアブラコウモリで、昆虫を餌にすると説明されています。「コウモリ」とひとくくりに語られても、病気ごとに、資料が名前を挙げている種類や地域は違います。表の「海外の状況」は流行地の出来事で、国内で同じ病気にかかる可能性を示すものではありません。
| 病名 | コウモリとの関わり(公的資料の記載) | 国内の状況 | 海外の状況 |
|---|---|---|---|
| 狂犬病 | 感染したイヌ、ネコ、コウモリなどの咬傷や引っかき傷で、唾液に含まれるウイルスが傷口から入る(JIHS) | 国内での感染例は1950年代を最後に報告がない(JIHSは1956年、厚生労働省のハンドブックは1957年と記載)。海外で動物に咬まれた輸入症例が報告されている | 世界で年間5万人以上が死亡(JIHS)。感染源の動物は、アジア・アフリカでは犬とネコが中心で、アメリカ・ヨーロッパや中南米ではコウモリも挙げられている(厚生労働省Q&A) |
| リッサウイルス感染症 | 狂犬病以外のリッサウイルス属のウイルス。主な感染経路は、感染したコウモリの咬傷(JIHS) | 国内のコウモリなどからの分離報告はなく、患者の報告もない(JIHS) | アフリカ、欧州、オーストラリア、アジアのコウモリ等から分離されている。ヒトでは欧州、アフリカ、オーストラリア、中央アジア、シベリアで散発的に発症例がある(JIHS) |
| ニパウイルス感染症 | 自然宿主はオオコウモリ。感染動物との接触や、感染動物の唾液・尿で汚染された食物の摂取でうつる(JIHS) | 日本国内では患者の報告はない(JIHS) | 1998〜1999年にマレーシアで初めて確認され、2001年以降はバングラデシュとインドでほぼ毎年患者が報告されている(JIHS) |
| ヘンドラウイルス感染症 | 厚生労働省のハンドブックで、野生動物のコウモリの欄に病名が載っている | ハンドブックは、日本で病原体が未発見か長期間発見されていない感染症の区分に入れている | 今回開いた資料では、海外の発生状況の詳しい記載は確認できなかった |
| ヒストプラスマ症 | 病原体の真菌を含む土壌や、コウモリ・鳥の糞を吸い込んで感染する(JIHS)。人から人へはうつらない(FORTH) | 国内の患者は流行地からの輸入例と考えられ、年間数例(JIHS) | 熱帯から亜熱帯が中心で、米国ミシシッピ川流域に多い。洞窟探検や土木工事での集団感染事例がある(JIHS)。南北アメリカ全体、中東、アジア、ヨーロッパ、アフリカの一部で発生(FORTH) |
国内で注意されていること|触らない・吸い込まない・手を洗う
前橋市は、コウモリについて、国内では直接の原因として発症した事例は現在のところないが、海外ではフンに含まれるカビ菌を吸い込んで病気に感染したケースが報告されている、と案内しています(令和4年3月作成のページ)。川越市は、野生動物の中には人と動物に共通する感染症の病原体を持つものがいるため、素手で触らないよう呼びかけています。
共通しているのは、「触らない」「吸い込まない」「触れたら洗う」の3点です。コウモリを捕まえたり追い回したりする必要はなく、捕獲には許可も要ります(コウモリ駆除の法律)。追い払いや封鎖を考えるときも、まず触らずに状況を確かめるところから始めます。
- コウモリやその死骸は素手で触らない。触れてしまったら、石けんで手を洗う
- フンや尿は乾いたまま掃かない。家庭用の掃除機で吸わない(次の節で確認します)
- 屋根裏や軒下の作業では、粉じんを吸い込まないように防護する
- 海外の洞窟や鉱山など、コウモリが住む場所に入る予定があるときは、渡航先の注意を事前に確認する
コウモリのフンとダニ|住まいで起きる衛生上の問題
東京都ペストコントロール協会は、アブラコウモリが住宅の天井裏に入ると、糞尿が堆積して臭いや汚れの原因になり、出入りに使うすき間から糞を落として敷地や建物を汚すと説明しています。堆積した糞が、カツオブシムシ類などの虫の発生源になる可能性にも触れています。公的な説明でも、住宅の被害として先に挙がるのは、臭い、汚れ、虫の発生です。
ケベック州政府(カナダ)のページは、コウモリのフンには、人の健康に影響することがある微細なカビが含まれる場合があり、乾くと粉のようになると説明しています。そのため、掃除では粉じんを舞い上げないことが最優先になります。前橋市が「フンに含まれるカビ菌」に触れているのも、この点です。
ダニについては、コウモリに付くダニが住宅で人を刺した事例や、そのダニが媒介する感染症を、今回開いた日本の公的資料の中では確認できませんでした。ダニに刺されたようなかゆみが続くときは、天井裏にネズミなど別の動物がいる場合もあるため、コウモリとネズミのフンは見分けられる?でフンの違いを確認し、状況を整理して医療機関や保健所に相談します。
コウモリのフン掃除|防護と消毒の手順とやってはいけないこと
掃除の前に、量と場所を見て、自分で片付けるか、専門業者に任せるかを分けます。ケベック州政府は、少量なら自分で掃除できるとし、大量にたまっている場合や手が届きにくい場所は、専門業者に任せるのがよいとしています。東京都ペストコントロール協会も、屋根裏に長く定着した場合は、糞の除去や消毒が必要になり、個人で対処するのは難しいことがあると説明しています。
ケベック州政府が挙げる禁止事項は3つです。フンを掃かない、家庭用の掃除機で吸わない、湿らせないまま取り除かない。粉じんが舞い、他の部屋に広がるのを防ぐためです。フンの特徴と掃除の考え方は、コウモリのフンの特徴と掃除方法にもまとめています。
少量のフンを自分で掃除するときの流れ
ケベック州政府が示す少量のフンの掃除は、ゴム手袋を着け、低い水圧の噴霧で湿らせてから、石けん水を含ませた布やモップで拭き取り、触れた面を消毒し、消毒できない汚れた断熱材などは袋に入れて口を閉じて捨て、手袋を外してから手を石けんと水でよく洗う、という順です。
消毒液の種類や薄め方は、このサイトでは示しません。使う製品の表示に従い、他の洗剤と混ぜないでください。掃除に使った布やモップは、捨てられるなら捨て、捨てられないなら洗って消毒する、とされています。
大量のフンや手が届かない場所のとき
大量の場合、同じ資料が挙げる防護具は増えます。高性能の防じんマスク、保護めがねやバイザー、使い捨てのつなぎ、使い捨ての靴カバーかゴム長靴、使い捨てのゴム手袋です。さらに、換気や暖房の送風を止めて給排気口の網をふさぐ、汚染区域をシートで囲って他の部屋に粉じんが出ないようにする、といった封じ込めも求めています。
ここまで必要になる量や場所なら、自分で片付ける範囲を超えているかどうかを先に考え、専門業者への依頼を検討する目安になります。
| 段階 | やること | 資料の記載 |
|---|---|---|
| 掃除の前 | 汚染した場所に家族やペットを近づけない。防護具をそろえ、量と場所を写真に残す | 汚染区域への立ち入りを止める(ケベック州政府) |
| 掃除の最中 | 湿らせてから取り除く。掃く、家庭用の掃除機で吸う、乾いたまま取ることは避ける | 3つの禁止事項(ケベック州政府) |
| 掃除のあと | 手袋を外して捨て、手を石けんと水で洗う。使った布やモップは捨てるか、洗って消毒する | 手袋と用具の扱い(ケベック州政府) |
| 専門業者に任せる | 大量にたまっている、高所や手が届かない、屋根裏に長く定着している | 専門業者は糞の除去、消臭、殺虫殺菌を行うと紹介(東京都ペストコントロール協会) |
コウモリに触れた・咬まれた・体調が悪いときの相談先
厚生労働省のハンドブックは、動物由来感染症にかかっても、はじめは風邪やインフルエンザ、ありふれた皮膚病などに似た症状のことが多く、発見が遅れがちだと説明しています。特に小さな子ども、妊婦、高齢者は重症化しやすいため、早めに医療機関に相談するよう呼びかけています。受診するときは、動物との接触状況も医師に伝えます。お問い合わせは最寄りの保健所へ、とも案内されています。
診断や治療は医師が行います。このサイトでは、症状から病名を判断したり、市販薬を勧めたりはしません。次の表は、状況ごとに公的資料が示している行動と、相談先を整理したものです。
| 状況 | 公的資料が示す行動 | 相談先 |
|---|---|---|
| 国内でコウモリに咬まれた、引っかかれた | 傷口を石けんと水でよく洗い、できるだけ早く受診する(FORTHは、哺乳動物に咬まれたら早く病院を受診し、狂犬病のおそれがある動物なら石けんと水で洗うと案内)。国内のコウモリについて一律の手順を示す資料は今回確認できなかったため、状況を医師に伝える | 医療機関、最寄りの保健所 |
| 海外の流行地でコウモリなどに接触した | FORTHは、WHOの基準でコウモリとの接触を最も高い危険度の区分に挙げる。厚生労働省Q&Aは、すぐ傷口を石けんと水で洗い、現地の医療機関で傷の手当てとワクチン接種を受け、帰国時に検疫所へ申し出るよう案内 | 現地の医療機関、帰国時は検疫所 |
| 洞窟や鉱山などでフンのほこりを吸い込み、発熱や乾いた咳が出た | FORTHは、ヒストプラスマ症で発熱、頭痛、悪寒、疲労感、乾いた咳などが出ること、免疫に障害のある人は重症化しやすいことを説明。行った場所と作業の内容を伝える | 医療機関 |
| 国内でフンの掃除や屋根裏の作業のあとに体調が悪い | 作業の日時、場所、防護具の有無を医師に伝える(ハンドブックは、動物との接触状況を伝えるよう案内) | 医療機関、不安は最寄りの保健所 |
コウモリの住み着きを解消するための対策|フンをためない順番
感染症への不安の多くは、住み着きが長引いてフンがたまることから生まれます。浜松市は、コウモリは捕獲が困難な上に捕獲には許可が必要なため、侵入口を封鎖して対処するよう案内しています。糞が落ちている場所が侵入口の手がかりで、1cm程度のすき間があれば出入りできる、とされています。東京都ペストコントロール協会は、6mmほどのわずかな隙間からも出入りできると説明しています。
封鎖は、コウモリが家にいない時間帯に行い、家の中に取り残さないようにします。浜松市は、まだ飛べない幼獣のいる6〜8月と、冬眠前後の時期を避けるよう案内しています。閉じ込めると死骸が臭気や害虫の発生源になるためです。また、浜松市は原則として捕獲や駆除を行っておらず、自分で対応が難しい場合は有料の専門業者への相談を案内しています。
手順の全体はコウモリ駆除を自分でする方法、屋根裏に入っている場合は屋根裏のコウモリで確認できます。侵入口と出入りの時間帯は、日没後に家の外から見える範囲だけで記録します。



