賃貸の害獣駆除費用は誰が払う?民法の修繕義務から考える
民法606条1項は、賃貸人は賃貸物の使用と収益に必要な修繕をする義務を負うと定めています。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由で修繕が必要になったときは、この義務を負いません。国土交通省の相談対応事例集(令和4年3月の再改訂版)も、借主は原則として修繕義務を負わず、修繕義務は貸主にあると整理しています。
害獣が入った原因が屋根や外壁のすき間、老朽化した設備のように建物側にあるなら、その補修は修繕の問題として貸主に求めるのが出発点です。一方で、動物の追い出しや捕獲、清掃といった作業の費用を誰が持つかについては、今回確認した条文と事例集には直接の定めがありませんでした。以降は、修繕の考え方を当てはめた整理として読んでください。内容は2026年10月3日時点で確認した条文と資料に基づきます。
民法と事例集で確認できること
確認できたのは、貸主の修繕義務(606条)、借主の通知義務(615条)、借主が自分で修繕できる場合(607条の2)、必要費の償還請求(608条)、使えない部分に応じた賃料の減額(611条)です。事例集は、これらを具体的な相談事例に当てはめて説明しています。
- 貸主は、使用と収益に必要な修繕をする義務を負う(借主の責めによる場合を除く)
- 借主は、修繕が必要になったら遅滞なく貸主へ通知する
- 貸主が相当の期間内に直さない、または急迫の事情があるとき、借主が修繕できる
今回の資料で確認できなかったこと
害獣の駆除費用に限った公的な負担基準や、駆除業者の費用が民法607条の2の「修繕」に当たるかを示した資料は、確認した範囲にはありませんでした。判断は契約書の内容と被害の原因、管理会社や貸主との話し合いで決まるため、一律の結論を断定せず、確認の順番を整理します。
参考:e-Gov法令検索|民法(賃貸借の規定:第606条・第607条の2・第608条・第611条・第615条)
賃貸でネズミやコウモリが出たら、駆除費用は大家が払いますか?
一律には決まりません。原因が建物のすき間や老朽化なら貸主側の修繕として求めやすく、入居者の使い方が原因なら入居者側を含めて話し合います。まず管理会社へ連絡し、原因の調査から相談してください。
原因別に見る賃貸の害獣駆除費用の分かれ目
ネズミ、コウモリ、アライグマなど動物の種類にかかわらず、負担の話し合いは、原因が建物側にあるか、入居者の使い方に関係するか、まだ分からないかで進め方が変わります。下の表は、民法606条と事例集の考え方を害獣被害に当てはめた当サイトの整理で、公的機関が害獣向けに示した基準ではありません。実際の判断は、調査で分かった原因と契約内容によります。
| 原因の見立て | 負担の考え方の目安 | 話し合いで出す材料 |
|---|---|---|
| 建物側(外壁・屋根のすき間、老朽化、共用部分) | 侵入口の補修は貸主の修繕として求める。駆除作業の費用は、管理会社と個別に確認する | 侵入口の位置の写真、調査報告書、天井裏や共用部分の状態 |
| 入居者の使い方が関係する可能性(食品・ごみの管理、無断の加工など) | 貸主側が、借主の責めに帰すべき事由として費用を求める余地がある。通常の生活の範囲かどうかが争点になる | 日々の保管状況、入居時からの建物の状態、連絡した日付 |
| 原因がまだ分からない | 調査の費用や進め方を、先に管理会社へ相談する。結論を急がず、調査結果を共有する | 被害の日時・場所の記録、見積書の内訳、他の部屋の状況 |
入居者の負担になり得るケースと、ならない考え方
民法606条1項のただし書にある「賃借人の責めに帰すべき事由」が、入居者負担を考える入口です。国土交通省の原状回復ガイドラインは、退去時の原状回復について、借主の故意・過失、善管注意義務違反、通常の使用を超える使用による損耗や毀損の復旧を借主負担とし、経年変化や通常の使用による損耗の修繕費用は賃料に含まれると整理しています。
事例集には、結露とカビの相談事例があります。通常の住み方であれば借主に修繕の義務はないとしつつ、結露が出ているのに貸主へ通知せず手入れも怠った場合は通常の使用による損傷を超えると判断され得ると説明しています。害獣被害の事例ではありませんが、気づいた時点で早く通知する意味を示す例です。
貸主側から使い方を問われやすい場面の例
次の例は、貸主や管理会社から使い方を問われる可能性がある場面です。該当すれば入居者の負担になるという意味ではなく、通常の生活の範囲かどうかが話し合いの論点になる、という例示です。
- 貸主の承諾なく、壁や外壁に穴を開けるなど建物に手を加えた
- 被害に気づいてからも、管理会社へ長く連絡しなかった
- 調査や補修のための立入りを、正当な理由なく断り続けた
賃貸の契約書・特約で確認する箇所
管理会社に連絡する前に、契約書の修繕に関する条項と特約を読み直しておくと、話が早く進みます。国土交通省の賃貸住宅標準契約書には、借主が自分の費用で行える軽微な修繕を別表に定める形があります。電球や蛍光灯の取り替えのように、貸主への通知なしに借主が負担して行えるものとして、事例集が紹介しています。
「修繕は借主が行う」という特約がある場合、判例は、貸主の修繕義務を免除したにとどまり、借主に修繕義務を課すものではないと示しているとされています。また、建物の主要構造部分に関わる大修繕には、この特約は無効と解されています。特約があっても、建物の主要構造部分に関わる大きな修繕まで入居者負担になるわけではありません。
| 契約書の箇所 | 見るポイント | 確認する理由 |
|---|---|---|
| 修繕の条項・別表 | 貸主が行う修繕の範囲と、借主が自分の費用で行える軽微な修繕の例 | 借主負担にできる範囲が書かれているため |
| 特約欄 | 「修繕は借主負担」「害虫・害獣に関する費用」などの記載の有無 | 特約の内容と、特約が及ぶ範囲を確認するため |
| 管理会社・連絡先 | 管理会社の名称、電話、緊急時の窓口 | 貸主の代わりに受け付ける窓口を特定するため |
| 立入りに関する条項 | 貸主や委託業者が部屋に入る場合の通知と承諾の扱い | 調査・補修のための立入りに備えるため |
アパート・マンションで管理会社へ連絡する順番と残す記録
国民生活センターは、賃貸住宅で害虫が出たときの事例を紹介し、賃貸住宅ならば事業者へ依頼する前に管理会社や大家に相談するのも一法と助言しています。害獣でも同じ順番が現実的です。まず日時・場所・状況を整理し、写真があれば添えて管理会社へ伝えます。連絡文の作り方は、賃貸の害獣被害を管理会社へ報告する連絡文の書き方で、賃貸住宅向けの手順は賃貸で害獣被害が起きたとき業者を呼ぶ前に伝えることでまとめています。
連絡後は、返答の日付、担当者名、調査の日程、費用についての回答をメモやメールで残します。調査で部屋に入る場合の立会いは賃貸の訪問調査に立ち会うときの入室範囲の決め方を、集合住宅の共用部分が絡む場合は集合住宅のネズミで管理会社へ伝える情報を参考にしてください。電話で話した内容も、後でメールに書き起こして送ると記録になります。
- 被害の日時、場所、音や痕跡の様子を写真とメモで残す
- 管理会社への連絡日と、返答の内容を日付つきで残す
- 見積書は内訳つきで受け取り、管理会社にも見せられる形にする
- 口頭で決まった費用の扱いは、メールで確認の文面を送っておく
管理会社に連絡せず業者を呼んだ場合、費用は請求できるか
借主が修繕を行う場合について、民法607条の2は、借主が修繕の必要を貸主へ通知したか貸主が知っていたのに貸主が相当の期間内に修繕しないとき、または急迫の事情があるときに限って、借主が修繕できると定めています。貸主が負担すべき必要費を借主が支出した場合は、608条1項により直ちに償還を請求できます。
ただし事例集は、相当の期間や急迫の事情の中身が具体化されておらず、貸主と借主の認識に差が出ることを想定されると説明しています。必要のない修繕や過度の修繕をした場合は費用負担の問題が生じ、貸主から損害賠償を請求される可能性もあるとしています。破損個所、状況、必要性、緊急性を貸主へ通知して相談することが大切だとされています。駆除業者の費用が修繕費として認められるかは、事前の承諾の有無や内容に左右されるため、承諾を得てから手配する方が確実です。
国民生活センターが2025年3月に紹介した事例には、賃貸アパートでゴキブリが出た際に大家へ連絡せず、ネットで見つけた格安表示の業者を呼んで約20万円を請求されたものがあります。広告の金額と請求がかけ離れたときの考え方は、見積もりの内訳の見方と「○○円から」の広告で最初に聞くことも参考になります。
住めない状態が続くとき:家賃の減額・退去・引っ越し費用の相談
民法611条1項は、賃借物の一部が使えなくなり、それが借主の責めによらないときは、使えなくなった部分の割合に応じて賃料が減額されると定めています。残った部分だけでは借りた目的を達せないときは、同条2項により契約の解除ができます。事例集は、借主は基本的に家賃を支払う必要があり、生活上の不便が著しい場合に限って、使えない期間の家賃が減額される可能性があると説明しています。
居住自体はできる不便にとどまる場合は、当然には賃料の支払義務を免れないとされています。修繕のために全く居住できないときは、引っ越し費用や修繕期間中の居住費を貸主へ請求できると考えられる、というのが事例集の整理です。ただし、生活に支障がある程度については貸主と十分に相談するよう書かれています。家賃を自己判断で止めると滞納になるおそれがあるため、減額の希望は書面で相談してください。
話し合いがつかないとき:賃貸トラブルの相談先
当事者間の交渉で解決が難しいとき、国土交通省の事例集は、まず消費生活センターや地方公共団体の相談窓口への相談を挙げ、そのうえで裁判外紛争解決手続(ADR)や裁判を考える流れを示しています。消費生活センターが分からないときは、消費者ホットライン188で最寄りの窓口を案内してもらえます。
| 相談先 | 向いている内容 | 準備するもの |
|---|---|---|
| 消費生活センター(188) | 管理会社や業者とのやり取り、請求のトラブルの助言やあっせん | 契約書、連絡の記録、見積書や請求書 |
| 地方公共団体の相談窓口 | 賃貸住宅の相談・苦情、紛争解決制度の案内 | 契約書、被害の写真、時系列のメモ |
| ADR・民事調停 | 当事者間で合意がまとまらない費用負担の調整 | 相手方との交渉の経過、主張をまとめた書面 |
| 少額訴訟(簡易裁判所) | 60万円以下の金銭の支払いをめぐる争い | 証拠書類、領収書、見積書 |





