ハクビシンの畑・果樹被害の特徴|作物別の食べ方と時期
農林水産省の中型獣類マニュアル(令和6年3月版)によると、ハクビシンは雑食で、ぶどう、かき、トマトのように甘くて汁気の多い作物を好みます。体重が3〜4kg程度と軽いため、果樹の枝が折れることは少なく、枝先まで身軽に移動して食べます。ぶどうやトマトのように外皮が口に残るものは、皮だけを吐き出します。みかんやナシは枝先近くで実の尻のほうから食べるため、実の上の部分が枝に残ることがあります。
被害が出るのは、作物ごとの収穫期です。農水省の旧版マニュアル(平成20年版)が紹介する埼玉県の事例では、農作物の被害は6月から12月に多く、冬には生ごみをあさる個体も確認されたと書かれています。福島県は、イチゴについて、冬の間のハウス内で例年ハクビシンの被害が見られると案内しています。畑の被害は、作物が熟す時期と、餌を探して動く夜の行動が重なって起こります。
| 作物 | ハクビシンの食べ方の手がかり | 被害の時期 | 紛らわしい動物の例 |
|---|---|---|---|
| ぶどう | 袋の下側を引き裂くように破り、房の下に潰れた果皮を吐き出す | 収穫期 | アライグマは前肢で袋を開けて泥が付き、カラスは粒を摘み取って持ち去る |
| なし・みかん | 枝先で実を食べ、実の上部が枝に残る。樹の側にフンがある | 収穫期 | カラスは果皮にくちばしの大きさのV字の切り裂きが残る |
| イチジク | 吐き出した果皮が落ちていることが多く、歯形が残った例も報告されている | 収穫期 | ヒヨドリやカラスにも食べられ、判別が難しいことがある |
| トウモロコシ | 軸を登って皮を開き、粒を食べる。茎は斜めになっても倒れにくい | 収穫期 | タヌキは茎を倒して食べ散らかし、アライグマは全周をきれいに食べる |
| スイカ・メロン | 顔を入れて中身を食べるため、穴が大きくなる | 収穫期 | アライグマは直径5〜6cmの穴を開けて前肢でくり抜く |
| イチゴ | 実を食いちぎり、ヘタが残ることが多い | ハウスでは冬にも被害 | アナグマやヒヨドリも食べる |
参考:農林水産省|野生鳥獣被害防止マニュアル 中型獣類編 2-2 ハクビシン(PDF)
ハクビシンの畑対策に、ネットだけでは足りませんか?
ネットだけでは足りにくいとされています。農林水産省のマニュアルは、登ることを優先するハクビシンには物理柵の効果は期待できないとし、ネットと電気柵の組み合わせを紹介しています。
ネットだけでは止まりにくい理由|登る動物に必要な柵の考え方
農水省のマニュアルは、侵入防止柵の基本を「相手を知る」ことと位置づけ、動物の侵入行動を「掘る」「登る」「破く」に分けています。タヌキやアナグマのように掘る・破くを優先する動物には、裾を固定した高さ1m以上の物理柵が向きます。一方、登ることを優先するアライグマ、ハクビシン、テンには、物理柵の効果は期待できないとしています。ハクビシンは足裏の分厚い肉球を押し付けて柱を挟むように登るため、雨どいのような滑らかな柱も登れます。
金網やネットの物理柵が向かない理由
愛知県農業総合試験場の資料は、ハクビシンが6×10cmの長方形、8×8cmの正方形、直径9cmの円形のすき間を通り抜け、直径19〜134mmの円柱を垂直に登り、直径0.8mmのロープも綱渡りできた実験結果を紹介しています。このため、柵やネットによる物理的な侵入防止は容易ではなく、工夫が必要だとしています。旧版の農水省マニュアルも、イノシシ・シカ用の金網やトタン、遮光ネットをそのまま転用しても防止効果は低いと書いています。
同じ愛知県の資料は、超音波や光に対する忌避反応は示さなかった実験結果も載せ、センサーライトなどの効果は期待できないとしています。音・光・においの製品を試す前に、忌避剤の効果を確かめる見方を読んでおくと、記録の付け方を決めやすくなります。
電気柵だけの段張りにも弱点がある
地面から線を何段も張る一般的な段張り方式は、動物から見ると、電気柵線以外は通れる空間です。農水省は、中型動物には線の間隔を10cm以下(種によっては5cm)にしなければ障害にならないと説明しています。線が低い位置に並ぶため、草が触れて漏電しやすく、設置できる場所も限られます。福島県の技術情報は、ハクビシンなどの中型動物には、地面から10cm間隔で3段を張り、柵の内側にネットを設置する方法を案内しています。
ネットで面をつくり、電気柵線に触れさせる複合柵
複合柵は、ネットで「面」をつくって空間を減らし、動物を電気柵線のほうへ誘導する構造です。農水省は、登ることを優先する動物には柵の上部に、掘る・噛む動物には下部に、両方の動物が来る場合は両方に電気柵線を付けると説明しています。上部に通電線を置く構造は、草による漏電が起きにくい利点もあります。
電気柵とネットを組み合わせる方式の違い|楽落くん・白落くん・電落くん
埼玉県農業技術研究センターは、アライグマ、ハクビシンなどの中型動物向けに、複数の柵の作り方を公開しています。農水省のマニュアルでも、棚上設置方式、電落くん方式、楽落くん方式として紹介されています。名前が似ているので、構造と使いどころの違いを表にまとめます。
電気柵は、感電の痛みを覚えさせて近づけなくする仕組みです。埼玉県のマニュアルは、実験で、中型の獣は低い障害物は跳び越え、高い障害物は前肢をかけて乗り越えようとし、約35cmの高さが跳ぶか乗り越えるか迷う境目だったと説明しています。この迷いが、鼻先でにおいを嗅いだり触れたりする探査行動を引き出し、上部の通電線に触れさせる仕組みです。
| 方式 | 構造の特徴 | 向く場面 | 公開資料での扱い |
|---|---|---|---|
| 楽落くん | 高さ約40cmの樹脂ネットの上部に通電線を設置。人がまたげる低さ | 収穫期だけ囲む家庭菜園や小面積の畑。収穫後に片づけて移せる | 埼玉県は、被害の出る時期だけの設置でよく、片づけも楽だと紹介 |
| 白落くん | 直管パイプの支柱に防風ネットを張り、上端の近くに通電線を置く | 果樹園や畑の外周を、続けて囲む場合 | 旧版の農水省マニュアルが、高さ約90cmのネットを10〜15cm埋める仕様を紹介 |
| 電落くん | 白落くんの柵を高くしたもの。ニホンザルにも対応 | サルも出る地域 | 埼玉県が、白落くんと基本は同じと説明 |
| 棚上設置方式 | 栽培用の棚と防風ネットを組み合わせ、棚をアースにして上部に通電線 | ぶどう棚など、棚のある果樹 | 農水省のマニュアルが、登らせて感電させる技術として紹介 |
楽落くん型の設置の要点|高さ・間隔・すき間・通電
埼玉県の設置マニュアルVer.3.0(2021年3月改訂)の要点を、小さな畑向けに言い換えます。通電線は地面から約38cmの高さに置き、ネットとの間隔は5cmにそろえます。間隔が広いと、すき間にもぐりこまれます。ネットと通電線は結束バンドで留め、柵の角は支柱を増やして補強します。ネットには裏表があり、ロールの内側が柵の外側になる向きで張ります。
地面とネットのすき間は、潜られる原因になります。設置の前に畝のまわりを平らにならし、すき間は土寄せで埋めます。柵の内側に続く排水管や側溝は、5cm以上のすき間があると入られるおそれがあるため、あわせて点検します。柵と作物は50cm以上離します。作物が近いと、動物が中へ入ろうとする行動が強まるためです。電源装置は、足場にならないよう柵の内側に置きます。
効果を左右するのは、通電の続け方
同じマニュアルは、被害が出る前に設置し、設置した日から通電して、片づける日まで24時間通電するよう求めています。収穫後に通電を止めて放置すると、柵に慣れた動物を地域につくるおそれがあるためです。昼夜切り替えのスイッチは、明け方や夕方に通電が切れるため避けます。
- 通電線に草や作物のつる・葉が触れていないかを、こまめに見る
- 電池切れに注意し、定期的に交換する
- 台風や大雨のあとは、倒れた枝がネットや通電線に触れていないか確認する
設置費用の例と、資材を選ぶときの確認点
愛知県農業総合試験場の資料(2020年9月改訂)は、楽落くんを県内の果樹園で実証したところ、1mあたりの設置費用が500〜800円で、被害はほぼなくなったと記載しています。2026年10月時点で公開されている記載であり、資材の価格や畑の形、設置する長さで金額は変わります。同じ資料は、ネットにトリカルネット(目合い30mm以下)または防風ネットを使う図を載せています。
埼玉県のマニュアルは、平らな四角形の畑100mを囲む場合の資材の目安として、ネット50m巻が2巻、支柱が約60本、通電線100m、電気柵本体が1台と書いています。不整地や傾斜地は、2割ほど多めに用意します。家庭菜園では、外周の長さを測ってから、資材の量を計算し直します。
| 資材 | 公開資料にある目安 | 選ぶときの確認 |
|---|---|---|
| ネット | 市販の楽落ネット。愛知県の資料はトリカルネット(目合い30mm以下)か防風ネット | 登られても破れにくいか、地面との間にすき間ができないか |
| 支柱 | 径8〜10mmのグラスファイバーポールを、約2m間隔で挿す | 柵の隅は2本にして補強する |
| 通電線 | 直径0.9mmのもの。ネットとの間隔は5cm | 結束バンドで留め、たるみやずれを防ぐ |
| 電気柵本体 | 柵の長さに合う推奨距離のもの。柵の内側に置く | 電気用品安全法の適用など、次の節の決まりに合うか |
参考:愛知県農業総合試験場|鳥獣害対策スペシャル「知ってとくとく 中型獣対策 ハクビシンを中心に」(2020年9月改訂、PDF)
電気柵の安全上の決まり|家庭菜園でも守ること
農林水産省は、鳥獣被害防止のために設置された電気さくで死傷事案が起きたことを受け、感電を防ぐ措置を求めています。電気さくを設置した場所には、見やすい間隔で危険を知らせる表示をします。電源装置は、電気用品安全法の適用を受けるものか、出力電流が制限される装置を選びます。コンセントなど30ボルト以上の電源から電気をとり、人が容易に立ち入る場所に設置するときは、電路に漏電遮断器を付けます。電気を供給する電路には、容易に開閉できる場所に専用の開閉器も置きます。
大阪府の案内は、2015年に静岡県で起きた感電死亡事故の原因について、技術基準を満たす電源装置を使わず、適切な漏電遮断などの措置がなかったためと推察されると説明しています。同じ案内には、子どもでも見やすい位置と文字で危険表示をすること、公道に面して通行人が予想される場所では昼間の通電を控えることも載っています。一方、埼玉県のマニュアルは、効果のために24時間の通電を求めています。両方を満たすには、通行人が近づきにくい場所に柵を置くことが前提になるため、設置場所を先に決めます。楽落くんは人がまたげる低さなので、家族や近所にも柵の位置を伝えておきます。
- 危険表示を、子どもにも見える位置と間隔で付ける
- 電源装置の表示で、電気用品安全法の適用などを確認する
- 専用の開閉器を、すぐ操作できる場所に付ける。コンセントからとる場合は、漏電遮断器も付ける
- 道路や公園に面した側の設置位置を見直す
家庭菜園・果樹1本を守る現実的な選び方
東京都は、餌をなくす対策の例として、農地や家庭菜園をネット・電気柵などで防護すること、庭木の果実や放棄した作物を残さないことを挙げています。板橋区や船橋市のように、敷地内の果実は早めに収穫するか、ネットや網をかけると案内する自治体もあります。ただし、ネットをかぶせただけでは、登られたり、すき間から入られたりします。守る対象の大きさに合わせて方法を選びます。
旧版の農水省マニュアルが紹介する試験では、ぶどうの袋のうち、通常の紙袋と厚紙の袋は破られました。ポリプロピレンの袋と不織布の袋は破られませんでしたが、袋の外から実をもまれ、商品価値が失われました。バナナに20〜30cmの「かさ」をかける試験でも、いずれの大きさでも食べられています。袋やかさは単独の対策にせず、食べ頃の前の収穫と組み合わせる補助にとどめるのが現実的です。ハクビシンの食べ方をもっと細かく見たいときは、ハクビシンに庭の果実を食べられるときの確認手順も参考になります。
| 守りたいもの | 公開資料に沿った方法 | 先に確認すること |
|---|---|---|
| 小さな畝(トウモロコシ・イチゴ・スイカなど) | 被害が出る前に、収穫期だけ低い複合柵(楽落くん型)を張り、収穫後に片づける | 通電できる場所か。草刈りと電池の交換を続けられるか |
| ぶどう棚・果樹1〜2本 | 熟す前の収穫と落果の回収を優先する。柵で囲める本数なら、外周を囲む | 食べ頃を過ぎた房や実を、放置していないか |
| ビニールハウス・トンネル | 地面とのすき間、ビニールのたるみや破れ、天窓や換気口を点検して塞ぐ | 福島県は、5〜6cm程度のすき間でも侵入されるとしている |
| 収穫しきれない大きな柿・ビワなど | 手の届かない部分を縮伐して管理できる大きさにする。使わない木は伐採を考える | 隣地や電線に触れる枝は、所有者や管理者の範囲を確かめる |
| 柵を張っても被害が続く畑 | 柵より先に、近くの寝場所(屋根裏・物置・空き家)を疑う | 夜の足音、フン、侵入口の候補を記録しているか |
収穫残さ・落果の管理|柵と同時に進める餌の見直し
農水省のマニュアルは、傷ついた果実や形の悪い野菜を畑のすみに捨てる、使わない果樹を放置する、といった無意識の食べ物の放置が、餌場になっていると指摘しています。野生動物が身近になった今は、残さの管理までが栽培技術だと位置づけ、食べ物になるものを放置したまま被害だけを減らすことはできないとしています。
愛知県の資料は、イチゴの残渣捨て場で、1日に必要なカロリーをわずか13分弱で得たという調査結果を紹介し、残さを食べさせないことは非常に重要だと説明しています。収穫が終わった畝のつる、傷んだ果実、落ちた実は、見つけたときに片づけます。畑のすみや堆肥の表面に積むだけでは、餌場がそこに移るだけです。庭や畑の被害の全体像は、畑の害獣対策の手順で動物ごとに整理しています。
- 落ちた実と傷んだ果実は、見つけたときに回収して処分する
- 収穫後の畝に残った作物やつるは、早めに片づける
- 収穫しない果樹は、縮伐や伐採を考える
- 生ごみ、ペットフード、お供え物を屋外に置かない
被害が続くとき|市町村の農林担当への相談と、捕獲を自分で始めない理由
鳥獣被害防止特別措置法では、市町村が被害防止計画を作り、国は計画を作った市町村への支援を行う仕組みが示されています。農水省の資料には、市町村が柵や罠を整備する経費が、国の特別交付税の対象に含まれることも載っています。個人の家庭菜園が対象になるか、補助や資材の貸出があるかは市町村ごとに違うため、畑のある市町村の農林・鳥獣担当に問い合わせます。補助の例は、ハクビシンは市役所・区役所に頼めるかで調べ方をまとめています。
福島県は、侵入防止柵の設置方法について、近くの農林事務所の農業振興普及部や農業普及所に相談するよう案内しています。柵の相談は、市町村の窓口に加えて、県の農業の普及機関にも向けられます。
ハクビシンを捕まえることは、鳥獣保護管理法で、狩猟を除いて原則として禁止されています。被害があるときに、許可を受けて行います。仙台市のように、許可なく捕獲することは禁止と案内し、区役所の窓口へ相談するよう求める自治体もあります。柵と餌の管理を先に進め、それでも被害が続くときに、窓口で許可や箱わなの貸出の有無を尋ねます。ハクビシン駆除を自分でする範囲で、許可なしでできる作業と、頼むべき作業を分けて確認できます。捕獲を業者に頼むときに許可を誰が取るかの確かめ方は、ハクビシン駆除業者の選び方でまとめています。






