ネズミが関わる感染症にはどんなものがある?日本での報告

厚生労働省の動物由来感染症ハンドブック(2026年版)は、国内や海外で実際に発生している主な動物由来感染症の表に、ネズミを動物種の一つとして載せています。ペットのネズミ・ウサギの欄にはレプトスピラ症や鼠咬症などが、野生動物の欄にはそれらに加えて腎症候性出血熱などが並び、ハンタウイルス肺症候群には、国内で病原体が見つかっていないか長く見つかっていないことを示す印が付いています。ハンドブックは、日本は世界でも例外的に動物由来感染症が少ない国だとも説明しています。怖がりすぎるより、経路を知って避けることが目的です。

東京都のねずみ防除指針(平成17年2月発行)は、日本の家ネズミ類からの感染が報告された、あるいは危惧される病気を、ウイルス・リケッチア、細菌、真菌、原虫・蠕虫に分けて一覧にしています。レプトスピラ症、鼠咬症、サルモネラ症のほか、リンパ球性脈絡髄膜炎、発疹熱、広東住血線虫症なども挙がっています。危惧を含む整理のため、載っている病気のすべてが近年の国内で起きているわけではありません。次の表では、代表的なものの国内の状況を、公的資料の記載にそって確認します。

ネズミが関わる感染症にはどんなものがある?日本での報告:確認項目
病気主な感染の仕方国内の状況(公的資料の記載)
レプトスピラ症げっ歯類などの保菌動物の尿で汚れた水や土に、傷や粘膜が触れる。汚れた水や食物の摂取でもうつる沖縄の水辺のレジャー、豪雨や台風による洪水後、農作業での報告がある。感染症法の四類感染症(国立健康危機管理研究機構)
鼠咬症ネズミに咬まれる戦後の症例報告は少なく、1987年に新宿区で就寝中に咬まれた報告がある。咬まれても発症はまれ(東京都)
サルモネラ症汚染された食品の摂取や、保菌動物との接触国内でも代表的な食中毒の原因のひとつ(国立健康危機管理研究機構)。ネズミのフンが食材や調理器具を汚して起こると考えられている(東京都)
腎症候性出血熱げっ歯類の排泄物を含む粉じんの吸入、咬傷、汚染された食物の摂取日本では1998年以降、患者の発生は確認されていない(国立健康危機管理研究機構)
ペストネズミに寄生したノミに刺される国内で感染した例は、1926年の患者、1930年のネズミを最後にない(厚生労働省ハンドブック)

参考:厚生労働省|動物由来感染症ハンドブック2026(PDF)

読者の疑問

ネズミのフンや尿に触れただけで、感染しますか?

比較ガイド

触れただけで感染するとは限りませんが、手指から口や傷口に入る経路があるため、触れたあとは流水で手を洗います。東京都の指針は、フンや尿に直接触れて手指を介する経路と、水・土・食品を介する経路を挙げています。乾いたフンを掃いたり吸ったりしないことも大切です。

感染経路別の一覧|尿・フン・咬傷・寄生するダニ

ネズミから人への病原体の伝わり方は、東京都の指針の整理を借りると、ネズミの体や排泄物に触れて手指を介する場合、水・土・食品を介する場合、咬傷、寄生するダニやノミを介する場合に分けられます。日常の場面に置き換え、避ける行動と並べたのが次の表です。

尿・フン:レプトスピラ症とサルモネラ症

レプトスピラ症は、げっ歯類の腎臓に保菌された細菌が尿に出て、汚れた水や土を介して傷や粘膜から入る病気です。国立健康危機管理研究機構は、国内では沖縄の水辺のレジャー、豪雨や台風による洪水後、農作業での感染が各地で報告されているとしています。家の中でフンや尿を見つけたとき、日常で気をつけるのは、汚れた水、土、食品に傷や口が触れないことです。

サルモネラ症は、主に汚染された食品の摂取や、保菌動物との接触でうつります。東京都の指針は、ビルの飲食店などで、ネズミが生ごみや食肉から菌を持ち、フンに出た菌が食材や調理器具を汚染して食中毒が起こると考えられるとし、1936年に浜松市で大福餅から発病者2,201名、死者45名が出た事件を例に挙げています。一方、1998年の調査で保菌が確認された割合は、東京都区内のビルのクマネズミで1.5%、千葉県の魚市場のドブネズミで10%でした。

咬傷:鼠咬症は咬まれても発症がまれ

鼠咬症は、ネズミの口の中の細菌で起こる病気で、東京都の指針は、咬傷部の腫れ、発熱、発疹などの症状が出ると説明しています。同じ資料の質問集は、咬まれたから必ず発症するわけではなく、むしろ発症はまれとしています。厚生労働省のハンドブックには、ネズミ取りで捕まえたラットを処理している最中に咬まれて感染・発症した例や、就寝中に咬まれて感染した例が載っています。

ダニ・ノミ:イエダニの刺咬

ネズミの体にはイエダニやノミなどが寄生します。東京都の指針によると、イエダニはドブネズミ、クマネズミの両方に多数寄生し、ネズミの巣で大発生して、ネズミが巣からいなくなると血を求めて移動し、人を刺して激しいかゆみと皮疹を起こします。ノミを介する病気にはペストや発疹熱があります。ペストは1930年のネズミを最後に国内での感染例がなく(厚生労働省のハンドブック)、発疹熱も、同指針の作成時点で1960年代以降は国内で発生していないとされています。

感染経路別の一覧|尿・フン・咬傷・寄生するダニ:確認項目
経路関わる病気の例起こりやすい場面基本の対応
尿・フンで汚れた水・土・食品に触れる、口に入るレプトスピラ症、サルモネラ症、クリプトスポリジウム症(東京都の指針)ネズミが歩いた調理台、フンが付いた食品、汚れた水や土への接触食品はふた付き容器で保管し、調理台や食器は洗浄する。触れたら流水で手を洗う
乾いた排泄物を含むほこりを吸い込む腎症候性出血熱(国内では1998年以降確認されていない)乾いたフンを掃く、掃除機で吸う作業乾いたまま掃かない、吸わない。手袋を使い、換気して、湿らせて拭き取る
咬まれる鼠咬症捕獲したネズミの処理中、就寝中素手で触らない。咬まれたら傷を洗い、医療機関で相談する
寄生するダニ・ノミに刺されるイエダニによる皮膚炎。ノミが媒介するペストと発疹熱は、国内で長く発生していない(厚生労働省・東京都)ネズミを駆除したあと、巣や死骸から離れたダニが人を刺す死骸と巣を回収し、刺された症状は皮膚科で相談する

参考:東京都保健医療局|東京都ねずみ防除指針 第一部 3) 被害の実態(PDF)

ネズミに噛まれたとき・傷口が触れたときの洗浄と受診

ネズミに咬まれたとき、傷口にネズミの尿やフンが触れたときは、まず落ち着いて傷を洗い流します。厚生労働省のハンドブックは、動物や、その唾液・粘液に触れた手で、知らないうちに目や口、傷口を触ってしまうことがあるため、動物に触ったら流水で手洗いをするよう案内しています。咬傷については、狂犬病の恐れがある海外の例ですが、すぐに石けんときれいな水で傷口をよく洗い、速やかに医療機関で処置を受けるよう示しています。ネズミの咬傷に限った手当ての手順は今回確認した公的資料になかったため、傷を洗って受診し相談する、という一般的な流れで整理します。

受診のときは、いつ、どこで、どんなネズミに咬まれたか(家にいたネズミか、捕獲した個体か)を伝えます。ハンドブックも、動物由来感染症ははじめは風邪や皮膚病に似た症状のことが多く、発見が遅れがちだとして、医療機関では動物との接触状況を医師に伝えるよう案内しています。日本中毒情報センターの中毒110番は、イヌ、ネコ、ネズミによる咬傷(感染が問題となるもの)を受け付けていないため、咬傷の相談先は医療機関です。

捕まえたネズミを処理するときは、素手で触らず、咬まれない状態を作ってから行います。東京都のよくある質問集も、追い詰めたネズミに対応する場面で、素手で行うことは避けるよう注意しています。罠の種類ごとの扱いは、ネズミの罠の種類と選び方にまとめています。

  • 傷口を石けんと流水で洗う
  • 咬まれた日時、場所、ネズミの状況(家にいた個体か、捕獲した個体か)を記録する
  • 医療機関を受診し、ネズミに咬まれたことを伝える
  • 傷の腫れ、発熱、発疹など、体調が変わったら再度相談する
  • 捕獲したネズミの処理は、素手で触らずに行う

参考:厚生労働省|動物由来感染症ハンドブック2026(PDF)

ネズミのフンや尿を掃除するときの注意

ハンドブックは、糞尿が乾燥すると中の病原体が空気中を漂うことがあるとして、直接触れたり吸い込んだりしないよう気をつけ、早くこまめに処理するよう案内しています。米国CDCも、ネズミのフン、尿、巣材を掃いたり掃除機で吸ったりすると、ウイルスを含む細かい粒が空気中に入るおそれがあるとして、避けるよう示しています。乾いたフンをそのまま掃除機で吸うのは避けましょう。考え方は、ネズミのフンを掃除機で吸う前にも参考になります。

CDCは、手袋を使うこと、作業の前に戸や窓を開けて換気すること、消毒液を吹きかけて拭き取ることを示しています。濃度や使う量は製品の表示に従う必要があるため、ここでは具体的な数値は示しません。東京都のよくある質問集は、フンが落ちていた場所を神経質に消毒する必要はなく、消毒するなら消毒用アルコールで拭く程度でよい、ただし調理台や食器、調理器具など、食品を間接的に汚すおそれのある場所や器具は、よく洗浄・消毒する、と答えています。

手袋を外したあとは、石けんと流水で手を洗います。ネズミの死骸や巣材も同じ扱いで、CDCは、消毒液を吹きかけたうえで二重にしたビニール袋に入れ、ふた付きのごみ容器に捨てる流れを示しています。東京都の質問集は、死んだネズミを可燃物として出せる自治体が多いとして、管轄の窓口に出し方を確認するよう勧めています。

ネズミのフンや尿を掃除するときの注意:確認項目
場面避けること代わりの対応の例
調理台・食器・調理器具ネズミが触れた可能性があるのに、そのまま使う洗浄して消毒する。食品に触れる場所を優先する(東京都の質問集)
床・壁際の乾いたフン掃く、掃除機で吸う手袋を着け、換気し、消毒液などで湿らせて拭き取る(CDC)
天井裏・床下・断熱材の周辺素手で触る。広い範囲を自分で片付ける範囲が広いときは、清掃を含めて業者に相談する。写真と場所の記録を渡す
死骸・巣材素手で持つ手袋を着け、袋に入れ、自治体の出し方に従って捨てる(CDC・東京都)

参考:米国CDC|How to Clean Up After Rodents(ネズミ被害後の清掃)

イエダニによる刺咬とアレルギーの相談先

日本皮膚科学会のQ&Aは、ダニによる虫刺されの原因として、ネズミに寄生するイエダニによる被害が多いと説明しています。体長0.7mm前後と小さく、寝ている間に寝室へ入り、衣類の中に潜り込んで血を吸うため、刺される場面はほとんど見えません。顔や手足はほとんど刺さず、わき腹、下腹部、ふとももの内側などに、かゆみの強い赤いブツブツができるとされています。古い一戸建てで、床下や天井裏にネズミがいる家で被害が出やすいとも書かれています。

ネズミを駆除したあとに、イエダニに刺されるようになることがあります。東京都のよくある質問集は、死んだネズミや巣からイエダニが離れて人を襲うためで、死骸や巣をできるだけ探して速やかに撤去するよう勧めています。ダニ用の薬剤を室内に使う前に、発生源がネズミの巣にあるかを確かめる順番は、ダニに毎日刺されるときはイエダニも確認で整理しています。

ネズミが関わるアレルギーについて、今回確認した公的資料には、独立した解説が見つかりませんでした。咳や鼻水、皮膚のかゆみなどが家の中で続くときは、原因をネズミと決めつけず、医療機関で相談します。その際、天井裏や室内にネズミがいる可能性や、フンの掃除をした経緯を伝えると、原因を考える手がかりになる場合があります。皮膚の症状は皮膚科も窓口で、治療は医師の判断で進めます。

参考:日本皮膚科学会|皮膚科Q&A 虫刺され Q8 ダニに刺されたらどうなりますか?

体調に不安があるときの受診先・相談先

ハンドブックは、動物由来感染症は、はじめは風邪やインフルエンザ、ありふれた皮膚病に似た症状のことも多く、発見が遅れがちだと注意しています。小さな子ども、妊婦、高齢者は発病すると重症化しやすいため、早めに医療機関に相談するよう案内しています。ネズミとの接触に心当たりがあれば、診察のときに伝えます。診断と治療は医師が行います。

相談先は、困りごとで分けると迷いません。受診するかどうか迷うときは、まず医療機関か、お住まいの地域の保健所に問い合わせます。下表の連絡先は、2026年10月3日に公式ページで確認したものです。

体調に不安があるときの受診先・相談先:確認項目
困りごと相談先の例補足
咬まれた、傷口にネズミの尿やフンが触れた、体調が悪い医療機関ネズミとの接触の状況を伝える。中毒110番は、感染が問題となる咬傷は扱わない
感染症全般についての質問最寄りの保健所ハンドブックは、問い合わせは最寄りの保健所へと案内している
ネズミの駆除・侵入防止の相談市区町村や保健所の衛生担当、都道府県のペストコントロール協会の害虫相談所協会の電話相談は無料で、現場調査や施工は原則有料(日本ペストコントロール協会)
殺鼠剤など薬剤を誤って口にした日本中毒情報センター「中毒110番」:大阪072-727-2499、つくば029-852-9999(365日24時間、情報提供は無料)製品と容器を手元に置いて電話する。ペットは動物病院へ
刺された跡のかゆみ・発疹皮膚科ネズミやイエダニの心当たりがあれば伝える

参考:公益財団法人日本中毒情報センター|中毒110番・電話サービス(一般専用)

感染を防ぐための駆除と侵入防止

ハンドブックは、レプトスピラ症の予防として、汚染された可能性のある水や水辺に近づかないこと、必要なときは手袋やゴーグルを着けて水や土に直接触れないこと、ネズミの駆除や侵入防止などの対策で店舗内の土間などを清潔に保つことを挙げています。ネズミがいる限り、尿、フン、ダニの問題は続くため、感染症の面でも、根本は入れない、増やさない、いたら減らす、です。東京都の指針は、これを環境的防除(餌と巣材の管理、侵入口の封鎖)を基本に、必要に応じて捕獲や殺そ剤を組み合わせる考え方として整理しています。

家庭でできる入口は、食べ物、巣材、侵入口の三つです。食品とペットフードの保管、ごみ置き場の管理、配管周りのすき間の点検は、感染症の予防という目的でも同じです。保管の見直しはネズミ対策の食品保管、侵入口の見直しは防鼠金網ですき間を直す前にから進められます。

駆除に薬剤や罠を使うときは、死骸の回収と、そのあとのイエダニ対策までが一続きの作業です。岡山市のパンフレットは、駆除の後は死んでいるネズミを必ず回収し、散らばったフンを取り除いたあと、心配であればアルコールスプレーなどで消毒するよう案内しています。薬剤はネズミの殺鼠剤の種類と選び方で、製品区分と注意を整理しています。

参考:岡山市|家庭のねずみ対策パンフレット(7ページ:駆除後の注意と相談先)