猿に狙われやすい作物と、被害が広がる仕組み

農林水産省の実践編マニュアルは、ニホンザルを学習能力が極めて高い雑食の動物と説明し、栄養価が高く効率よく食べられる甘いもの(カキ、カボチャ、スイカ、トウモロコシ、クリ、モモなど)を好むとしています。何を餌にするかは遺伝で決まっているわけではなく、生まれてから学習するため、味を覚えるほど被害の対象が広がると書かれています。

兵庫県森林動物研究センターのパンフレットは、猿が群れで来て、広い畑でも短時間で大きな被害を出すと説明します。作物のおいしい部分だけをかじって捨て、次々に新しい作物へ移るため、食べ残しが散らばるのも特徴です。公的資料には「この野菜なら安全」という一覧はなく、作物選びだけで守る考え方は示されていません。

猿の行動の特徴と、被害が出る時間帯

実践編によると、猿の活動は通常、日の出から日没までの明るい時間で、夜は行動しません。群れは10数頭から100頭ほどで、木登りとジャンプが得意です。新しいものや場所は警戒しますが、いったん慣れると大胆になります。群れの行動範囲は決まっているため、特定の場所で続く被害は加害群を特定できますが、離れザルによる被害はこの限りではないとされています。

  • 活動は日の出から日没まで。畑に来るのは日中
  • 群れは10数頭〜100頭。木登りとジャンプが得意
  • 新しいものは警戒するが、慣れると大胆になる
猿に狙われやすい作物と、被害が広がる仕組み:確認項目
区分資料が挙げる作物など読み方
好む傾向カキ、カボチャ、スイカ、トウモロコシ、クリ、モモ(甘くて栄養価の高いもの)果樹や果菜は特に狙われやすい。収穫期の保管と放任に注意する
学習で広がる例イネ、マメ類、イモ類、ネギ、キュウリ、ナス、ダイコン、トマト、イチゴ家庭菜園の定番の野菜も、味を覚えれば対象になる
食べ方の特徴おいしい部分だけをかじって捨てる食べ残しが散乱する。片付けないと餌場の記憶が残る

参考:農林水産省|【改訂版】野生鳥獣被害防止マニュアル イノシシ、シカ、サル(実践編)平成26年3月版(PDF)

読者の疑問

猿に食べられやすい野菜は何ですか?

比較ガイド

公的資料では、カキ、カボチャ、スイカ、トウモロコシ、クリ、モモなど甘くて栄養価の高いものを好むとされます。味を覚えるとイモ類、ダイコン、トマトなどにも広がるため、特定の野菜だけが安全とは言えません。

ネット・金網だけでは猿を防ぎにくい理由

農林水産省の総合対策編は、木に登れるクマ、サル、アライグマなどの中型獣類では、金網柵やワイヤーメッシュ柵だけでは侵入を防止できず、電気柵などを併用することが必須だとしています。登る動物には、壁で防ぐ柵だけでは足りないという整理です。同じ資料は、猿は身体能力が高く、侵入防止柵では防げないと諦めている人が多いとも書いたうえで、効果をあげている柵の例を紹介しています。

実践編は、よじ登りが得意な猿の被害がある場合は、壁で防ぐ物理柵と、学習効果で防ぐ心理柵(電気柵)を組み合わせた複合柵が有効としています。イノシシやシカ用の電気柵は、地面に足をついた動物に電気を流す仕組みのため、ネットに飛びつく猿には役に立たず、猿用のものを選ぶ必要があると説明しています。畑の周りに一般的な柵を張っただけでは、猿が相手では足りない場合があるということです。

参考:農林水産省|野生鳥獣被害防止マニュアル【総合対策編】令和5年3月版 第3章 鳥獣被害対策の3つの柱(PDF)

猿に対応した柵の考え方と、技術資料の所在

公的機関の資料に載っている猿向けの柵を、方式ごとに整理します。ここでの目的は作り方の説明ではなく、どの機関のどの資料に載っているかを知ることです。設置には電気の安全基準が絡むため、実際の導入は、資材の販売店、市町村、農協などに相談してください。兵庫県森林動物研究センターのサイトには、ニホンザルのページに獣種別のパンフレットと通電式支柱の紹介が置かれています。

通電式支柱の効果と注意点

兵庫県のパンフレットは、香美町小代地区で通電式支柱を設置した51圃場の所有者へのアンケートを紹介しています。被害が「解消」したと答えた人が76%、「減少」が20%、「変化なし」が4%で、全員が効果を実感したとまとめています。環境省のガイドラインは、イノシシ用のワイヤーメッシュがない場所では導入の壁が高く、積雪の多い地域では管理に注意が必要だと書いています。

家庭菜園に読み替えるときの考え方

公的資料は農地や集落全体の対策が中心で、小さな家庭菜園にそのまま当てはまるとは限りません。総合対策編は、資材選びよりも維持管理が重要で、管理できる資材を選ぶよう勧めています。実践編も、個人レベルの対応に加えて地域ぐるみの継続的な取り組みが必要としています。多獣種を防ぎたい場所では、シカの被害対策の柵の考え方と合わせて、兼用の構造を検討できます。

  • 点検と草刈りを続けられる方式を選ぶ(管理できるかで決める)
  • 自分の畑だけでなく、隣接する畑や自治会と範囲をそろえる
  • 電気を使う方式は、安全基準を満たす市販の機器を前提にする
猿に対応した柵の考え方と、技術資料の所在:確認項目
方式公的資料の説明資料の所在
ネット式の電気柵(猿用)猿はネットに飛びつくため、猿用を使う。高さ2m以上、飛び込み防止のため周囲の樹木や建物から5m以上離す。ネットの切断や漏電による電圧低下に注意農林水産省 実践編(2014年)
簡易猿害防止柵「猿落君」弾力のあるポールにネットを張り、越えようとすると手前にしなって登りにくい。侵入を完全には防げないが時間がかかり、追い払いとの併用が必要農林水産省 実践編(2014年)
通電式支柱「おじろ用心棒」兵庫県香美町が考案。ワイヤーメッシュと通電する支柱を組み合わせ、猿が登ると感電する。イノシシ・シカにも対応。積雪地は管理に注意環境省ガイドライン(令和6年度)、農林水産省 総合対策編、兵庫県森林動物研究センターのパンフレット
ワイヤーメッシュ柵+電気柵島根県の農林振興センターが開発した、低くしたワイヤーメッシュの上部に電気柵を付ける複合柵。被害が軽微な場所でイノシシと猿を抑制農林水産省 実践編(2014年)

参考:環境省|特定鳥獣保護・管理計画作成のためのガイドライン(ニホンザル編・令和6年度、PDF)

電気柵の安全基準|危険表示・電源装置・漏電遮断器

農林水産省は、鳥獣被害防止のために設置された電気さくに起因する死傷事案が発生したとして、感電防止の措置を求めています。電気柵は動物に触れさせる仕組みのため、人が触れる危険と隣り合わせです。家庭菜園で使う場合も同じ基準が当てはまり、基準を満たす機器と設置が前提になります。

通知の要点は、危険である旨を人が見やすいよう適当な間隔で表示すること、電気用品安全法の適用を受ける電気さく用の電源装置を使うこと、使用電圧30ボルト以上の電源から供給して人が容易に立ち入る場所に設置するときは電流動作型の漏電遮断器を設けること、専用の開閉器を設けることです。自作や、規格を確認できない電源の流用は避け、購入先と市町村に確認してください。

電気柵の安全基準|危険表示・電源装置・漏電遮断器:確認項目
項目農林水産省の通知の要点庭・菜園での確認
危険表示人が見やすいよう適当な間隔で、危険である旨を表示する子どもや訪問者にも読める文字と位置か
電源装置電気用品安全法の適用を受ける電気さく用電源装置を使う製品の表示で適合を確認する。自作や転用の装置は使わない
漏電遮断器30ボルト以上の電源から供給し、人が容易に立ち入る場所では電流動作型を設ける(定格感度電流15ミリアンペア以下、動作時間0.1秒以下)コンセントから電源を取る場合は、設置の可否を購入先や電気工事の専門家に確認する
専用の開閉器容易に開閉できる箇所に専用の開閉器を設ける異常時にすぐ切れる位置にあるか

参考:農林水産省|鳥獣による農作物等の被害の防止に係る電気さく施設における安全確保について

猿を寄せない|収穫残さ・放任果樹・お墓のお供え物を片付ける

兵庫県のパンフレットは、猿対策の柱の一つに、不要なものをなくすことを挙げています。野菜くずや生ごみを捨てない、野外でバーベキューをした残りは持ち帰る、山裾の畑で「猿用」と称して作る捨て作りはやめる、お墓参りのお供えは持ち帰る、利用しないカキやクリの木は切る、という内容です。どれも猿に餌場だと学習させないための行動です。

総合対策編は、放任果樹やひこばえを減らすことが野生鳥獣を誘引している原因を取り除くことになり、追い払いもしやすくなると説明します。実践編も、放置果樹や廃棄農産物を除去し、集落や農地まわりの藪を刈り払うなど、環境整備を必須としています。放任果樹は他の動物も呼ぶため、ハクビシンが庭の果実を食べるときの確認とも共通します。

家庭菜園でのチェック項目

チェックするのは、畑の中だけではありません。収穫後の残さ、畑の隅に積んだ野菜くず、庭のカキやクリ、お墓参りの供え物など、猿から見て食べられるものすべてが対象です。近所で放置されている果樹があると効果が薄れるため、自治会で声をかけ合うことも大切です。畑の食べ跡から動物を見分けたいときは、畑の害獣対策の確認手順も使えます。

  • 収穫後は残さを早く片付け、畑に放置しない
  • 野菜くずは畑の近くに捨てず、埋めるか持ち出す
  • 使わないカキ・クリは収穫するか伐採する
  • お墓参りのお供えは持ち帰る
  • 畑や家の周りの藪を刈り、見通しをよくする

参考:兵庫県森林動物研究センター|ニホンザルの被害防止(兵庫の野生鳥獣対策シリーズ2022、PDF)

猿の追い払いの基本と、個人で無理をしないこと

実践編は、追い払いを、農地や集落に出る猿を人がさまざまな手段で外へ追い出すことと説明し、基本を3点にまとめています。出没したら必ず追い払って農地が危険な場所だと学習させること、1頭でも手を抜かないこと、チームで行うことです。追い払いを途中でやめるなど不十分だと、人慣れが進むと書かれています。1〜2人では難しいため、集落全体での協力が必要とされています。

総合対策編は、個々の住民がばらばらに追い払っても効果が少なく、集落全体を一つの農地と考えて、猿を見たら必ず、誰もが、侵入場所に集まり、複数人で、集落から出るまで追い払う方法が効果的だとしています。三重県伊賀市の下阿波集落では、この方法を続けて、年間500万円ほどだった被害が70万円弱まで下がったと紹介されています。家庭菜園の持ち主が一人で挑むものではなく、地域の取り組みに加わる形が基本です。

出会ったときの行動

環境省のガイドラインは、猿に気づいたときの注意として、不用意に近づかない、餌を与えない、大声を出したり棒を振り回したりして興奮させない、追い払うときは一人でやらない、猿の目を見ない、を挙げています。威嚇されたら目をそらして後ずさりしてその場を離れ、走って逃げないこと、噛まれたり引っかかれたりしたらすぐ病院へ行くことも示されています。

  • 近づかない、餌を与えない、目を見ない
  • 大声や棒で興奮させない。追い払うときは一人でやらない
  • 威嚇されたら目をそらして後ずさりし、走って逃げない
  • 噛まれたり引っかかれたりしたら、すぐ病院へ行く

追い払いの道具と、住宅地での対応

環境省のガイドラインは、追い払いにロケット花火、電動エアーガン、パチンコなどの道具を使うと説明しています。農林水産省の総合対策編は、事故や怪我、火事に注意し、追い払う動物に傷害を与えない配慮が必要としています。猿を傷つけると捕獲等に当たる可能性があり、個人で道具を選んで使うことは勧められません。法律上の線引きは猿の駆除と追い払いの法律上の注意点に、住宅地で見かけたときは住宅地で猿を見かけたときの戸締まりと行動にまとめています。

参考:農林水産省|【改訂版】野生鳥獣被害防止マニュアル イノシシ、シカ、サル(実践編)平成26年3月版(PDF)

市町村の支援|柵の補助・追い払い用具・申請前の確認

柵の購入や追い払い用具は、市町村の事業を使えることがあります。ただし対象と手順は自治体ごとに違い、団体向けのものが多く、購入前の申請が条件の制度もあります。次の表は、2026年10月時点の公式ページの掲載内容の例で、すべての自治体に同じ制度があるわけではありません。個人の家庭菜園は対象外のこともあるため、自治会や近隣と一緒に相談するのが現実的です。

申請前に確認する点

補助の窓口に聞くときは、制度名よりも、自分の畑が対象になるかを具体的に尋ねます。対象者(個人か団体か)、対象の資材、申請の時期、設置後の管理の責任を聞いておくと、買ってから対象外と分かる失敗を避けられます。電気柵を含む場合は、電源装置の安全基準に適合した製品かも確認してください。点検や追い払いの講習会、出前講座の有無も、窓口で併せて尋ねてみてください。

  • 購入前の申請か、購入後でも申請できるか
  • 対象は個人か、自治会などの団体か
  • 対象の資材に、電源装置や追い払い用具が含まれるか
  • 設置後の点検・管理は誰が行うか
市町村の支援|柵の補助・追い払い用具・申請前の確認:確認項目
自治体(掲載ページの更新日)支援の内容条件・注意
滋賀県長浜市(2025年6月20日更新)自治会向けに、追い払い用のロケット花火等をお試しで配布。野生獣追払い用具整備事業で、花火や威嚇用電動ガン等の購入費の2分の1以内(限度額2万円)を補助対象は自治会で、申請者は自治会長。使用時の火災に十分注意するよう案内されている
滋賀県米原市(2026年4月1日更新)猿追い払い用のスリングショットの無料貸し出し(先着順、数に限りあり)申込は自治会または農業関係団体。保護メガネ等の準備や周囲の確認が案内され、事故は自己責任と明記されている
鳥取県鳥取市(2026年7月1日更新)電気柵・ワイヤーメッシュ柵・防鳥網などの購入補助(農地を防護する場合は3分の2など、条件で補助率が異なる)2戸以上の農業者の団体などが対象。補助事業の決定通知を受けてから購入し、購入後の申請はできない

参考:長浜市|鳥獣害に強い地域づくり支援事業(補助金、捕獲檻の貸し出し、追払い用花火の配布)