害獣・シロアリの被害が売却で問題になる場面
家の売却は、売却の準備、不動産会社の選定、買主への情報提供と交渉、契約と引渡しの順に進みます。東京都のガイドブックは、この各段階で、売主が物件の状況を事前に確認し、買主へ情報を伝え、売買契約のときに物件状況等報告書と設備表を作成して提供するよう案内しています。害獣やシロアリの被害は、この流れのどこでも話題になりえます。
たとえば、査定や内覧で天井裏や床下の状態を聞かれる場面、物件状況等報告書の記入、契約書の契約不適合責任の条項、引渡し後に買主が被害を見つけた場面です。被害そのものより、売主が知っていたか、いつ伝えたか、どんな記録があるかが、後の話し合いで大きな意味を持ちます。
| 場面 | 起きること | 売主が用意すること |
|---|---|---|
| 売却の準備・不動産会社の選定 | 売却する住宅を事前に確認し、建物状況調査の利用を検討する | 被害や工事の履歴の整理、書類の所在確認 |
| 内覧・買主との交渉 | 買主から過去の被害や保証について質問される | 分かる範囲の事実と、書類の写し |
| 売買契約 | 物件状況等報告書と設備表を作成し、契約書の特約を確認する | 報告書の記入内容と契約書の整合の確認 |
| 引渡し後 | 買主が不具合を見つけた場合、契約不適合責任の問題になりうる | 契約書の通知期間・特約の確認、記録の保管 |
参考:東京都住宅政策本部|安心して既存住宅を売買するためのガイドブック(戸建住宅編)Ⅰ章 売買に当たっての確認事項(PDF)
家を売るとき、害獣やシロアリの被害は必ず告知しなければなりませんか?
告知の要否は、被害の内容や時期、契約の内容によって個別に判断されるため、この記事で結論は出せません。国土交通省は、売主しか知らない事項を告知書で買主に伝えることが望ましいとし、民法は、知りながら告げなかった事実は責任を負わない特約があっても免れられないと定めています。仲介会社に相談し、必要なら弁護士に確認してください。
契約不適合責任の考え方|民法の条文の範囲で
2020年4月に施行された改正民法では、売買の目的物が種類、品質、数量について契約の内容に適合しないとき、買主が売主に請求できる内容が整理されました。条文を読むと、何が不適合かは契約の内容を基準に決まることが分かります。物件状況等報告書は、契約関係書類に添付して買主に渡すのが一般的なので、そこに書いた内容も、契約の内容を考える材料になります。
売主が個人の場合、東京都のガイドブックは、契約不適合責任の期間を短くする特約なども有効で、契約書にどう書かれているかが重要だと説明しています。売主が宅地建物取引業者の場合は、宅建業法第40条により、引渡しの日から2年以上とする特約を除き、民法の通知期間より買主に不利な特約はできません。
個別のケースで、被害が契約の内容に適合するかどうか、特約が有効かどうかは、契約書の文言と事実関係で決まります。この記事は条文を紹介するもので、結論を出すものではありません。判断が必要なときは、不動産会社や弁護士に、書類を持って確認してください。
| 条文 | 内容(要約) | 売主として意識すること |
|---|---|---|
| 第562条 | 引き渡された物が契約の内容に適合しないとき、買主は修補などによる追完を請求できる | 契約書や報告書に何を書いたかが、適合かどうかを考える基準になる |
| 第563条 | 買主が追完を催告しても追完がないときは、不適合の程度に応じて代金の減額を請求できる | 追完や減額の場面を想定して、被害の程度を記録しておく |
| 第564条 | 損害賠償の請求と契約の解除も妨げられない | 追完や減額とは別に、損害賠償や解除の問題にもなりうる |
| 第566条 | 種類・品質の不適合は、買主が知った時から1年以内に売主へ通知しないと請求できなくなる。ただし、売主が引渡し時に知り、または重大な過失で知らなかったときは別 | 通知期間は特約で変わることがあるため、契約書で確認する |
| 第572条 | 責任を負わない特約をしても、知りながら告げなかった事実は免れられない | 知っている被害は、特約の有無にかかわらず伝える |
物件状況等報告書(告知書)の害獣・シロアリの項目
国土交通省は、宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方で、宅地や建物の過去の履歴や性状など、売主や所有者しか分からない事項について、協力が得られるときは告知書を提出してもらい買主に渡すことを、建物状況調査の活用と併せて積極的に行うことが望ましいとしています。記載事項の例には、増改築や修繕の履歴、建物の傾きや腐食などの存否または可能性の有無があり、売主が知り得る範囲で書き、売主の責任のもとで作成されたものと分かるようにするとされています。
この告知書の標準書式は、不動産流通関係の団体がそれぞれ定めており、名称も異なります。東京都のガイドブックは、物件状況等報告書を作るときに使える「物件チェックリスト」を示しており、建物に関するチェックリストの記入例には「シロアリの被害」の項目があります。床下(土台・床組)とその他の部位について、有・無・修繕済を選び、修繕時期や現状を書く形で、「予防工事の実施」には、有・無・不明のいずれかを選ぶ欄もあります。
害獣については、確認できた公的資料に、専用の項目はありませんでした。専用の欄がない書式では、その他や特記事項の欄に、被害の場所、時期、修繕や清掃の有無を書く方法があります。どう書くかは、使う書式と不動産会社の考え方で変わるため、仲介会社に相談します。
記入するときの考え方
東京都のガイドブックは、不具合の情報を売主から買主へ積極的に提供することがトラブルの予防として重要だと説明し、売主は、雨漏りやシロアリの被害、木部の腐食などについて、これまでの不具合と修繕の実施状況を告知するよう案内しています。書き方の基本は、事実を事実のとおりに書き、分からないことは分からないと書くことです。
- 知っている被害は、有無、時期、場所を、事実のとおりに書く
- 分からない項目は「不明」とし、推測で「無」としない
- 修繕や駆除をした場合は、時期と内容、書類の有無を添える
- 書いた内容が契約書や重要事項説明とずれていないか、仲介会社と確認する
| チェックリストの項目(東京都の記入例) | 選び方・書き方の例 | そろえておく記録 |
|---|---|---|
| シロアリの被害:床下(土台・床組) | 有・無・修繕済から選び、修繕時期と現状を記入 | 調査報告書、被害箇所の写真、修繕の記録 |
| シロアリの被害:その他の部位 | 有・無・修繕済から選び、場所を記入 | 点検の記録、修繕の見積書や完了報告 |
| 予防工事の実施 | 有・無・不明から選ぶ | 施工報告書、保証書 |
| 腐食(木部など) | 有・無・修繕済から選び、場所を記入 | 調査報告書、修繕の記録 |
| 害獣被害(専用欄がない場合) | その他・特記事項に、場所・時期・対応を記入 | 調査報告、封鎖工事や清掃の記録、経過の記録 |
伝えるときにそろえる記録|調査報告書・施工記録・保証書
国土交通省の安心R住宅調査報告書(参考様式)には、戸建て住宅に限って「防蟻に関する書類」の欄があり、シロアリ検査結果報告書と防蟻処理の記録の有無を、有・無・不明で書く形になっています。保険や保証の欄にも、シロアリに関する書類の項目があります。売却では、これらの書類が手元にあるかどうかが、そのまま買主への説明の材料になります。
シロアリの記録
調査報告書、施工報告書と施工範囲が分かる図面、見積書、保証書、点検の記録を探します。日本しろあり対策協会は、保証は施工した業者が行うもので、業者がなくなった場合は保証が無効になると説明しています。保証書があっても、有効かどうか、買主に引き継げるかは、発行した会社への確認が必要です。引き継ぎの考え方は、買主側の立場で書いた中古住宅のシロアリ履歴にまとめています。
害獣の記録
害獣については、公的な標準書式が見つからなかったため、記録を自分で整理します。調査報告書(侵入口や痕跡の写真)、封鎖工事の見積書と完了報告、保証書、清掃や消毒の記録、工事後の音・フン・においの経過の記録が候補です。完了報告の見方は工事完了報告の確認方法で、経過の記録のまとめ方は害獣駆除後の経過記録で整理しています。
| 記録 | 内容の例 | 買主・仲介会社に伝える点 |
|---|---|---|
| 調査報告書 | 調査日、範囲、被害の有無、確認できなかった場所 | 調査の範囲と限界も一緒に伝える |
| 施工報告書・見積書 | 工事日、施工範囲、工法の説明 | どの部分が施工済みで、どこが対象外か |
| 保証書 | 保証期間、対象、免責、発行会社 | 残り期間と、引き継ぎの可否を発行会社へ確認すること |
| 修繕・清掃の記録 | 傷んだ部材の交換、断熱材や清掃の内容 | 被害の修繕と、薬剤処理を区別して伝える |
| 経過の記録 | 工事後の音・フン・においの有無 | 現在の状況(被害がない、続いているなど) |
売却前に調査・駆除をするかの判断材料
売却前に調査や駆除をするかどうかに、決まったルールはありません。東京都のガイドブックは、建物状況調査(インスペクション)を、売主にとって引渡し後のトラブルを避け、競合物件との差別化につながるものとして紹介しています。この調査は、構造耐力上主要な部分の蟻害、腐朽・腐食や傾斜、雨水の浸入を防ぐ部分などを、原則として目視と非破壊で確認するもので、3時間程度かかるとされ、費用は調査実施者ごとに異なります。
宅地建物取引業法は、既存建物の売買や交換の媒介契約書に、建物状況調査を実施する者のあっせんに関する事項を記載するよう求めています。仲介を頼むと、制度の紹介やあっせんの確認があります。シロアリに絞った検査としては、日本しろあり対策協会の蟻害・腐朽検査制度があり、既存住宅を対象に、図面や補修履歴の確認、建物の変状の確認、床下や小屋組などの検査を経て、協会が定めた様式で報告されます。協会は、中古住宅の売買前に被害がないことを確かめたいときの利用例も挙げています。
調査や駆除をすると、工事前の状態は残りません。工事の前の写真や報告書も、あとで説明できるように残しておきます。調査報告書の写真の読み方はシロアリ調査の写真が参考になります。調査の費用や期間は事業者によって異なるため、複数の見積もりを取り、売却のスケジュールと合わせて判断してください。
| 状況 | 考え方 | 相談先 |
|---|---|---|
| 過去に被害や駆除の記録があるが、今の状態が分からない | 現況を確認する調査を検討し、結果を告知書や説明に反映する | 仲介会社、調査機関 |
| 羽アリや蟻道、床のきしみなど、被害の兆候を見たことがある | 駆除や修繕を先に行うか、現状のまま伝えて売るかを、価格や時期と合わせて検討する | 仲介会社、施工会社 |
| 被害の有無が全く分からない(点検口がない、床下に入れない) | 知っている範囲を伝え、調査で確認できる範囲と限界を確認する | 仲介会社、調査機関 |
| 駆除・修繕を終えている | 施工記録と保証書を伝え、保証の引き継ぎの可否を発行会社に確認する | 施工会社、仲介会社 |
仲介会社・弁護士など相談先と、聞くこと
宅地建物取引業法は、宅地建物取引業者が重要事項を説明するときに、既存建物については、建物状況調査を実施しているか、実施している場合はその結果の概要、設計図書や点検記録など維持保全の状況に関する書類の保存状況を説明するよう定めています(第35条)。また、取引の相手方の判断に重要な影響を及ぼす事項について、故意に事実を告げず、または不実のことを告げる行為も禁じています(第47条)。売主が把握している被害は、早めに仲介会社へ伝え、書き方を一緒に決めておくのが現実的です。
契約不適合責任の個別の判断や、特約の有効性、引渡し後に被害が見つかったときの対応は、弁護士に相談する分野です。住宅の取得やリフォームに関するトラブルは、住まいるダイヤル(住宅リフォーム・紛争処理支援センター)が、建築士の資格を持つ相談員による電話相談や専門家相談を行っています。日本しろあり対策協会も、駆除後に売却した建物で再発が見つかり契約を解除されたという質問に、契約のトラブルは同センターを紹介していると回答しています。
| 相談先 | 相談できること | 持っていく資料 |
|---|---|---|
| 仲介会社(宅建業者) | 告知書の書き方、重要事項説明との整合、建物状況調査のあっせん | 調査・施工の記録、保証書、契約書の案 |
| 弁護士 | 契約不適合責任の個別の判断、特約の有効性、トラブル時の対応 | 売買契約書、告知書、被害の記録 |
| 住まいるダイヤル | 住宅の取得・リフォームに関する電話相談や専門家相談 | 契約書、見積書、写真 |
| 施工会社・調査機関 | 被害や工事の内容、保証の有効性と引き継ぎ | 施工報告書、保証書 |
参考:e-Gov法令検索(デジタル庁)|宅地建物取引業法(第34条の2・第35条・第40条・第47条、2026年10月3日確認)
買主の立場で確認されること|売主が先に答えられる準備
買主は、物件状況等報告書と設備表、重要事項説明の内容が合っているかを確認し、契約書の契約不適合責任の通知期間や特約も読みます。シロアリについては、施工記録、保証の残り年数と引き継ぎの可否、調査の範囲を確認します。売主側が、これらの質問に書類で答えられるようにしておくと、交渉が進めやすくなります。
買主が何を確認するかの詳しい内容は、中古住宅のシロアリ履歴で整理しています。売主としては、同じ書類を先にそろえておくことが、告知と説明の土台になります。害獣の侵入口をふさいだ工事がある場合は、工事の範囲と保証の条件を分けて説明できるようにしてください。害獣駆除の保証書の見方も参考になります。
参考:東京都住宅政策本部|安心して既存住宅を売買するためのガイドブック(戸建住宅編)Ⅱ章 不動産取引と契約に際しての留意事項(PDF)





