解体工事でネズミが問題になる理由|近隣への移動と区の考え方
東京都の冊子『都民のためのねずみ防除読本』(平成24年4月発行)は、東京の住宅地でクマネズミの被害が増えた理由の一つとして、1990年代に繁華街の再開発工事が頻繁に行われるようになり、取り壊される建物やその周辺から逃げて近隣の住宅地に移動したためだと「言われています」と説明しています。解体の前後が、ネズミが近隣へ動く機会になりうるという見方が、自治体の資料にあります。
東京都の「ねずみ防除行政の指針」も、ネズミの拡散と生息域の拡大には、市街地の再開発や古い建物の取り壊しなどが関係していると述べ、港区が区独自の制度や解体工事に関する指針を活用してネズミ対策を進めている例を紹介しています。豊島区のページは、解体予定の建物にネズミが生息している場合に適切な対応を行わないと、解体に伴ってネズミが近隣に移動することも考えられるとし、建物にネズミがいなくても、工事の振動等で近隣のネズミが他に移動する可能性もあると説明しています。対応方法は地域の状況によっても異なると考えられるとして、施主にはまず保健所等への相談を求めています。
この記事はネズミを中心に扱います。ハクビシンやアライグマなど、許可が必要な動物が住みついている場合は、解体前に自分で捕獲せず、隣の空き家から害獣が来るときで整理した窓口に相談します。
参考:東京都福祉保健局|都民のためのねずみ防除読本(平成24年4月発行、PDF)
解体工事の前に、ネズミの駆除は必要ですか?
全国一律に義務づける法令は、今回確認した資料には見つかりませんでした。一方、東京都の千代田区、中央区、港区、荒川区、豊島区は、解体前の生息調査や駆除を、要綱や案内で求めたり、努めるよう定めたりしています。お住まいの市区町村の扱いは、保健所や建築・環境の担当課で確認してください。
解体前に確認する痕跡|フン・かじり跡・巣の記録
ネズミは夜間に活動するため姿は確認しにくく、東京都の冊子は、音、かじり跡、糞、足跡、体のこすり跡などのラットサインを手がかりに、活動場所を特定すると説明しています。足跡やこすり跡は、体から分泌される脂分と汚れが通り道に付いた、特有の黒光りした跡になります。日本ペストコントロール協会の調査仕様書の例も、ネズミの調査項目として、糞、尿によるシミ、足跡、囓り跡、こすり跡、鳴き声、侵入場所(穴)、営巣場所の有無を挙げています。痕跡の見方は壁際の黒い汚れとラットサインで確認できます。
天井裏や床下には入らない
東京都の冊子は、防そ修繕について、天井裏や高所などの危険な場所は専門業者に依頼したほうがよい場合もあると述べています。解体前の確認も、施主が見える範囲の記録にとどめ、天井裏や床下の調査は駆除業者に任せます。
触れる前に、写真と場所を残す
空き家や長く使っていなかった建物では、フンや巣材が積もっていることがあります。素手で触ったり、掃除機で吸ったりせず、写真と場所だけを残して駆除業者に渡します。片付けの考え方はネズミのフンを掃除機で吸う前ににあります。触れて体調に不安があるときは、自己判断せず、医療機関や保健所に相談してください。
| 確認する痕跡 | 見る場所 | 解体前の記録のしかた |
|---|---|---|
| フン | 床の隅、収納の奥、台所、屋外の基礎の周り | 大きさ、数、新しさが分かる写真を撮る。触らず、素手や掃除機で扱わない |
| かじり跡 | 柱、配線、ふすま、食品の袋、ダンボール | 場所と傷の大きさを写真で残す。配線の傷は電気設備の点検も検討する |
| 足跡・こすり跡 | 壁際、梁、配管の周り、天井の点検口の周囲 | 黒光りした帯状の跡の位置を、間取り図に印として書く |
| 巣・巣材 | 天井裏、押入れ、物置、家具の裏、細かく裂かれた紙や布の塊 | 見つけても動かさず、場所と写真だけを残して業者に渡す |
| 音・においの記録 | 夜間の天井や壁の中、屋外の側溝や植え込み | 日時と場所を、数日分メモする |
事前の調査・駆除を頼む時期と工程表への組み込み
千代田区の要綱は、解体工事に着手する前にネズミの生息調査を行うとともに、駆除等の衛生対策を講じたうえで着手するものとし、区の概要は、ネズミの生息が分かった時は解体工事前に駆除を行うと案内しています。港区の手続きのご案内は、解体工事着手前にネズミ等の生息調査をし、害獣・害虫の存在を確認した場合は、周辺環境に配慮して衛生対策を講じるよう求めています。中央区は、ネズミ・害虫の駆除を行ってから解体工事に着手するよう案内し、荒川区の要綱は、事前にネズミや害虫等の防除の衛生対策を講じたうえで着手するよう努めること、その内容を必要に応じて荒川区保健所に相談することを定めています。表現は少しずつ違いますが、調査と駆除を済ませてから着工する順序が共通しています。ネズミ駆除の調査から経過確認までの流れと期間が延びる条件は、ネズミ駆除にかかる日数で整理しています。
駆除には時間がかかります。東京都の「ねずみ防除行政の指針」は、業者を紹介する場面で、通常は複数回の施工が必要で、一般家屋で防そ施工まで行う場合の費用は安価ではないため、依頼する場合は納得のいくまで業者と話し合うよう説明する必要があると書いています。日本ペストコントロール協会の仕様書の例は、調査、水準の判定、防除、効果判定、効果が不十分な場合の再調査と再作業という流れです。この流れが解体の前に収まるよう、工程表に、調査日、駆除の期間、効果の確認日、解体の着工日を、近隣への標識の設置や説明の日程とあわせて置く形が考えられます。次の表は、要綱と仕様書の流れを工程の形に並べた例です。
| 順序 | 作業 | 主な担当 | 確認すること |
|---|---|---|---|
| 1 調査 | 建物と敷地のネズミ・害獣の生息調査 | 駆除業者(手配は施主または解体業者) | 調査の範囲、使う方法、報告書の形式 |
| 2 判定と計画 | 調査結果の判定と、駆除の計画づくり | 駆除業者と施主 | 駆除の期間、立ち入る日、薬剤を使う場合の事前連絡 |
| 3 駆除 | 生息が確認された場合の駆除 | 駆除業者 | 作業の日と回数、近隣への影響 |
| 4 効果の確認 | 新しい痕跡が出ないかの再確認 | 駆除業者 | 再確認の日と、不十分な場合の再作業の条件 |
| 5 近隣へのお知らせ | 調査結果と駆除の内容を、説明会や戸別説明で伝える | 施主または解体業者 | 説明の範囲と日程、保健所の相談先 |
| 6 着工 | 駆除と効果の確認後に解体へ着手する | 解体業者 | 着工日を、駆除の結果で調整できる契約か |
施主・解体業者・駆除業者の役割分担
千代田区の概要は、石綿の調査、ネズミの生息調査、標識の設置、住民説明および区への報告は、発注者等(解体工事に関する請負契約の発注者、元請業者、下請業者、または請負によらずに自らその工事をする者)が行うと案内しています。荒川区の要綱も、ネズミ等の衛生対策を講じる主体を発注者等としています。誰が駆除業者を手配して費用を負担するかは契約で決まるため、役割は見積もりの段階で書面にしておきます。駆除業者の見積書を作業ごとに分けてもらうときの項目は、ネズミ駆除の契約で確認したい作業範囲で整理しています。
駆除業者を選ぶときの質問は、害獣駆除業者の選び方にまとめています。次の表は、要綱と仕様書から当サイトが整理した役割分担の例で、実際の分担は契約と自治体の案内に従います。
| 立場 | 主な役割 | 決めておくこと |
|---|---|---|
| 施主(発注者) | 解体を発注し、事前の調査・駆除を工事の条件にする。保健所への相談と、近隣への説明の方針を決める | 調査・駆除の手配先と費用の負担、着工日を調整する条件 |
| 解体業者(元請・下請) | 工程の管理、標識の設置、近隣への説明、解体作業。調査と駆除の結果を工程に反映する | 駆除の完了を確認する前に着工しない旨と、結果の報告の受け方 |
| 駆除業者 | 生息調査、判定、駆除、効果の確認、報告書の作成。薬剤を使う場合は、種類と場所を事前に連絡する | 調査の範囲、駆除の回数、再作業の条件、再委託の有無 |
| 保健所・区市町村 | 相談の窓口。地域の状況に応じた対応方法の助言(豊島区は、施主はまず保健所等に相談としている) | 相談の時期と、要綱や案内の対象かどうか |
| 近隣住民 | 標識や説明会で内容を確認し、心配な点を施主に伝える。方法が分からなければ保健所に相談する | 連絡先と、説明を受けた日の記録 |
近隣へのお知らせで伝えること
千代田区の概要は、近隣への説明事項に、工期、解体方法、作業時間、安全対策、公害防止対策、車輛の通行経路、石綿の有無などと並べて、「ねずみの生息状況、駆除など」を挙げています。同区の要綱は、周知の事項として「ねずみの生息調査結果及び駆除等の衛生対策」と書いています。千代田区の対象は解体床面積80平方メートル以上の建築物で、説明の範囲は、木造は解体建物の敷地境界から10メートル、その他は敷地境界から建物の高さの範囲です。
標識の設置時期も区ごとに違い、港区と中央区は木造以外の解体を工事開始の30日前まで、木造を15日前まで、千代田区は要綱で工事開始の1月前まで(区の概要は「中1か月前まで」と案内)としています。説明会は、近隣が疑問を伝えられる機会でもあります。豊島区は、大規模な工事では事前に説明会があると考えられるため、この機会を通じて適切な対応を要請することが重要だと、近隣の方に案内しています。次の表は、お知らせに入れる項目の例です。
| お知らせの項目 | 書く内容の例 | 注意 |
|---|---|---|
| 工期と作業時間 | 解体の開始日、終了予定日、作業の曜日と時間 | 変更があれば速やかに知らせる(千代田区の要綱は、計画の変更を速やかに近隣住民と町会へ周知するよう定めている) |
| ネズミの調査結果 | 調査した日、調べた範囲、生息の有無と痕跡の種類 | 推測を書かず、確認した事実と、確認できなかった範囲を書く |
| 駆除などの対策 | 実施した駆除の時期、方法の概略、効果の確認 | 薬剤を使う場合の種類・場所・期間は、駆除業者の案内に従って周知する |
| 工事中の連絡先 | 現場責任者と、ネズミに関する問い合わせ先 | 保健所の窓口名も併記する |
| 近隣へのお願い | ごみの出し方など、近隣側でできる対策の紹介 | 責任の押し付けにならない書き方にする |
近隣住民として困ったときの相談先
豊島区のページは、近隣の方向けに、工事に伴うネズミの被害に遭う恐れがある場合は、施主に対して解体前に駆除対応をするよう話し、駆除方法が分からないときは保健所に相談するよう施主へ要請してほしいと案内しています。話し方としては、責める形ではなく、「解体前にネズミの調査と駆除の予定はありますか」と質問する形のほうが、相手が答えやすいと考えられます。
すでにネズミの被害が出ている場合の相談先は、保健所や区市町村のネズミ・衛生害虫の担当です。港区は、屋外のネズミが特定の工事の原因かどうかを究明することは難しいとしたうえで、家の中にネズミが住みつかないための助言なら可能で、希望すれば自宅へ訪問すると案内しています。区の対応・考え方には、食材や生ごみの管理、隠れ場所の撤去など、発生原因への対策を講じないと根本的な解決につながらないとも書かれています。板橋区は、隣家のネズミの相談では、現場調査でネズミを確認できないことが多いため、隣家が原因であることの根拠となる写真の用意を求めています。
自宅の対策は、東京都の冊子が挙げる、餌を与えない、巣材を与えない、住まいへの出入りを防ぐ、という3つの柱で進めます。具体的な手順は、ネズミ対策の食品保管にあります。
解体後の更地・残置物の管理
解体が終わっても、ネズミの問題がすぐに終わるとは限りません。港区の保健所は、屋外のネズミ対策は、食材や生ごみの管理、隠れ場所の撤去など、発生原因への対策が必要としています。東京都の冊子も、屋外が乱雑になっていると外にいるネズミを寄せつけ、特に家の壁沿いに物を置くとネズミの隠れ場所になると説明しています。更地や資材置き場でも、同じ考え方で、ごみ、残材、積み置きした資材、繁茂した草を放置しない管理が目安になります。
残置物をいつ撤去するかという手順は、今回確認した資料には書かれていませんでした。巣材になる紙や布が積み上がっている建物は、解体前の調査で駆除業者に見てもらい、片付けの順序を相談します。空き家を相続して片付ける場合は、相続した家に初めて入るときの害獣点検も参考になります。
解体後に近隣で新しいフンや音が増えた様子があれば、時期と場所を記録して保健所へ相談します。工事が原因かどうかの判断は難しいと港区が述べているため、記録は、自宅の対策と相談のために使います。





