飼養衛生管理基準とは|畜種別の基準の構成
家畜伝染病予防法は、農林水産大臣が、家畜の飼養に係る衛生管理の方法について家畜の所有者が遵守すべき基準を定めるとしています(第12条の3)。この基準が飼養衛生管理基準で、基準が定められた家畜の所有者は、基準に従って衛生管理を行わなければなりません。施行規則第21条が別表第2に畜種ごとの基準を置いており、牛・水牛・鹿・めん羊・山羊、豚・いのしし、鶏・あひる・うずらなどの家きん、馬、非商用家畜に分かれています。
各畜種の基準は、家畜防疫に関する基本的事項、衛生管理区域への病原体の侵入防止、衛生管理区域内における汚染拡大防止、衛生管理区域外への拡散防止という四つの区分で構成されています。野生動物やねずみに関わる項目は、主に侵入防止と汚染拡大防止の区分にまとまっています。農林水産省は、2025年9月29日の公布で全畜種の基準が改訂され、新たに非商用家畜の基準が設けられたと案内しています。
所有者に求められること
所有者は、衛生管理区域を設定し、飼養衛生管理マニュアルを作って従事者や外部事業者に周知します。基準3は、野生動物の衛生管理区域内への侵入防止を、マニュアルに定める事項に挙げています。毎年の定期報告の提出期限は、農林水産省の案内で、牛・豚・馬などが4月15日、鶏などの家きんが6月15日です。
都道府県の指導と家畜保健衛生所
都道府県知事は、基準に沿った衛生管理が行われるよう必要があるときに、改善すべき事項を示して指導・助言を行い、従わない場合は勧告や命令ができます(法第12条の5、第12条の6)。基準の解釈や点検の進め方は、まず家畜保健衛生所へ相談する形になります。
参考:農林水産省|飼養衛生管理基準について(令和8年1月14日更新の表示を確認)
畜舎のネズミ対策は、飼養衛生管理基準で義務になっていますか?
牛・豚・家きんの基準には、ねずみ・はえ等の害虫の駆除のため、殺そ剤や殺虫剤の散布、粘着シートの設置などの措置を講じる項目があります。馬の基準には同名の項目がなく、給餌設備への混入防止と整理整頓の項目があります。
野生動物・ねずみ・害虫に関する項目を畜種別に並べる
下の表は、2026年10月3日にe-Gov法令検索で確認した家畜伝染病予防法施行規則別表第2から、野生動物・ねずみ・害虫に関わる項目を畜種別に並べたものです。数字は各畜種の基準の項目番号で、改訂のたびに変わるため、実際の対応は最新の条文と、都道府県が示す指導の内容で確認してください。
表で目につくのは、畜種で求められる設備が違う点です。野鳥などの侵入を防ぐ防鳥ネットは豚と家きんの基準に、野生いのししの防護柵は豚の基準にあります。牛と馬の基準には防鳥ネットや防護柵の項目がなく、ねずみ・害虫の駆除の項目も馬にはありません。一方、給餌設備と飼料保管場所に野生動物の排せつ物を混ぜない措置と、隠れ場所をなくす整理整頓は、牛・豚・家きん・馬のすべてに定められています。
非商用家畜の基準
非商用家畜の基準では、畜舎に野生動物が侵入しないよう開口部に防鳥ネットその他の必要な措置を講じ、はえや蚊などの害虫の侵入防止に努めて、必要に応じて駆除することが定められています。飼養の目的が学術、教育、愛玩、展示などでも、定期報告の対象になると農林水産省は案内しています。
大臣指定地域で追加される措置
豚熱や高病原性鳥インフルエンザなどの発生リスクが高まっているとして農林水産大臣が指定する地域では、追加の措置があります。基準7は、この追加措置に平時から習熟しておくことを求めています。たとえば家きんの基準21は、指定地域の農場で周辺の野鳥の生息状況を把握し、野鳥の誘引を防ぐ対策を実施するとしています。
| 項目 | 牛・水牛・鹿・めん羊・山羊 | 豚・いのしし | 鶏などの家きん | 馬 |
|---|---|---|---|---|
| 野生いのししの侵入を防ぐ防護柵 | 該当項目なし | 項目23(野生いのししの生息地域の農場) | 該当項目なし | 該当項目なし |
| 野鳥等の侵入を防ぐ防鳥ネットなどの設置・点検・修繕 | 該当項目なし | 項目28(網目2センチメートル以下) | 項目25(網目2センチメートル以下) | 該当項目なし |
| 死体保管場所への野生動物の侵入防止 | 項目25 | 項目28に死体保管庫を含む | 項目25に死体保管庫を含む | 項目16 |
| 給餌・給水設備と飼料保管場所への排せつ物の混入防止 | 項目26 | 項目29 | 項目26 | 項目17 |
| ねずみ・はえ等の害虫の駆除 | 項目27 | 項目30 | 項目27 | 該当項目なし |
| 隠れ場所をなくす整理整頓・清掃・消毒 | 項目28 | 項目31 | 項目28 | 項目18 |
| 農場周辺の野鳥の状況把握(大臣指定地域) | 該当項目なし | 該当項目なし | 項目21 | 該当項目なし |
防鳥ネット・侵入防止柵の点検と破損時の修繕
防鳥ネットの項目は、設置だけでなく点検と修繕までを一つの義務としています。条文は、野鳥等の野生動物の侵入を防ぐ網目2センチメートル以下の防鳥ネットなどを設置し、設備と、それが設置された畜舎の屋根・壁面の破損状況を定期的に確認し、破損があれば遅滞なく修繕するとしています。農林水産省の遵守指導の手引き(鶏等の場合)は、設置されていない、侵入できるすき間がある、常時開放されている、破損したままになっているといった場合を不遵守と整理しています。
手引きは、網目の大きなネットを二重に重ねて同等の効果を得る方法を認め、野生動物には野鳥のほかにたぬきやいたち等を、その他の設備には侵入防止ができる換気扇、扉、シャッター等を想定しています。完熟堆肥のみで野生動物を誘引する状況がなければ、堆肥の保管に防鳥ネットは必要ないともしています。
野生いのししの防護柵(豚・いのしし)
豚の基準23は、野生いのししの生息地域の農場で、くぐり抜けを防ぐ防護柵などを設け、破損を定期的に確認して遅滞なく修繕するとしています。屋外で飼養する場合は、二重柵等の接触防止対策が必要です。豚の手引きは、防護柵等の周囲を原則5メートル幅以上で除草や舗装等することを示し、積雪地域では、雪で侵入が継続的に防げるなら柵を取りはずせる例外があるものの、農場の出入口など雪が除かれた箇所には柵を設け続ける必要があると説明しています。
写真資料にみる点検の勘所
農林水産省は、鳥インフルエンザや豚熱の発生農場の疫学調査でみられた不適切な例を、写真で公開しています。鶏舎では壁の穴、ドアや排水口のすき間、閉まらない換気扇の弁、防鳥ネットや金網の破損が、豚舎では低い柵、草に覆われた柵、障害物で途切れた柵、防鳥ネットの破損、敷料保管庫の野鳥の糞、外壁のねずみの出入り穴、飼槽内のねずみの糞が示されています。
| 点検する場所 | 見る点 | 記録に残すこと |
|---|---|---|
| 防鳥ネット(畜舎、飼料保管庫、堆肥舎、死体保管庫、水場) | 破れ、たるみ、固定の外れ、網目の大きさ、常時開放していないか | 点検日、場所、破損の写真、修繕日と担当者 |
| 屋根・壁面 | 穴、はがれ、すき間。設備があっても屋根や壁に破損があれば侵入口になる | 点検日、破損の場所、修繕日 |
| 換気扇・扉・シャッター・排水口 | 閉まらない部分、すき間、開放したままの時間帯 | 状態の写真、直した日 |
| 防護柵(豚・いのしし) | 低い部分、地面とのすき間、草に覆われた箇所、障害物で柵が途切れる箇所 | 点検日、修繕、柵の周囲の除草や舗装の日 |
| 飼料保管庫・敷料保管庫 | ふた、ネット、野鳥やねずみの糞の有無 | 糞の有無、清掃日 |
| 敷地全体 | 不要な資材、雑草、身を隠せる場所 | 片付けた日と場所 |
ねずみ対策|飼料の保管・すき間・駆除の記録
飼料と水を守る項目は、畜舎の給餌設備・給水設備と飼料の保管場所に、ねずみや野鳥などの野生動物の排せつ物が混ざらないよう必要な措置を講じることを求めています。手引き(鶏等の場合)は、貯蔵には蓋付きの容器やタンクを使うこと、飼槽を定期的に、汚れがあれば随時清掃することを例にしています。屋内に保管場所がある場合は、建物に野生動物が入るすき間がなければ蓋がなくても問題ないが、すき間の有無を的確に確認する必要があると説明しています。
ねずみ・害虫の駆除の項目は、殺そ剤や殺虫剤の散布、粘着シートの設置その他の必要な措置を求めています。手引きは、ねずみやはえ等が高病原性鳥インフルエンザなどに罹患した野鳥の排せつ物を口や体表に付けて家きん舎内に持ち込む可能性があるとし、完全な駆除は困難でも数を減らすことが重要だと説明しています。散布の頻度や範囲が不十分、粘着シートが汚れて粘着性が低下しているなど、効果が出ない状況は不遵守になりますが、ねずみ等が確認されたからといって直ちに不遵守になるものではありません。
隠れ場所をなくす項目は、不要な資材の処分、除草、資材と機材の整理整頓、施設の清掃を求めています。ねずみ等は身を隠せる場所を選んで行動するため、敷地や衛生管理区域の周辺の雑草も対象になると手引きは説明しています。条文は駆除の記録の様式までは定めていませんが、指導や定期報告で説明できるよう、設置した場所、日、点検結果を残しておきます。保管施設での考え方は倉庫のネズミ対策も参考になります。
点検で見るねずみのサイン
ねずみの通り道と餌場は、次の場所に出やすい点で見ます。穴をふさぐ材料や固定の考え方は防鼠金網の寸法と固定で整理しています。
- 外壁の穴、配管やケーブルが壁を貫通する部分のすき間
- 飼槽や飼料保管場所の糞、こぼれた飼料
- 破れた飼料袋、ふたのない容器、開けたままの保管庫
- 雑草や資材の山など、身を隠せる場所
薬剤を使うときの家畜・飼料への配慮と、野生鳥獣の捕獲の線引き
殺そ剤や殺虫剤は、製品の表示に従うことが基本です。畜舎で使える製品か、使える場所と対象、家畜や飼料に触れない置き方かは、製品の表示と、家畜保健衛生所や獣医師、販売店の説明で確認します。ここでは希釈や用量の目安は示しません。基準は給餌設備、給水設備、飼料保管場所に排せつ物を混入させない措置を求めており、薬剤の置き場所や散布が、同じ飼料と水の管理を損なわないように計画します。
東京都のねずみ防除指針も、毒餌は誤食を防ぐ工夫をし、ねずみがいなくなれば速やかに回収することが重要だとしています。畜舎では、設置位置に番号をつけ、設置日、回収日、製品名、点検結果を記録し、業者に頼む場合はその報告書を保管します。製品の比べ方は殺鼠剤と捕獲器の選び方にまとめています。
ネズミと野生鳥獣で法律の扱いが違う
ドブネズミ、クマネズミ、ハツカネズミの3種には、鳥獣保護管理法が適用されないと神奈川県が案内しています。一方、野鳥やいのしし、たぬきなどの野生鳥獣と卵は、原則として捕獲や殺傷が禁止されており、被害防止などの目的でも環境大臣または都道府県知事の許可が必要です(環境省)。多くの都道府県は、許可権限の一部を市町村長に移しています。畜舎の対策は、捕獲ではなく、ネット、柵、すき間の封鎖、餌と隠れ場所の管理を中心に組み立てます。
野鳥や野生動物への毒餌の使用や、卵やヒナのいる巣の自己判断での撤去は勧められません。アライグマなどの特定外来生物は、捕まえた個体を生きたまま運んだり、飼養したり、野外へ放したりすることが外来生物法で原則禁止されています。見かけたときは自分で捕獲せず、市町村や都道府県の窓口に相談します。
家畜保健衛生所・市町村への相談|何をどこへ伝えるか
飼養衛生管理基準の解釈や、自分の農場でどの措置が必要かは、都道府県の家畜保健衛生所が窓口になります。基準は、家畜保健衛生所から提供される情報を確認し、検査を受け、指導に従うことを所有者に求めています。農林水産省の手引きは、所有者が基準と、農場が所在する都道府県が定めた飼養衛生管理指導等計画を踏まえて衛生管理を行うとしており、地域によって重点項目が異なることがあります。
市町村は、家畜伝染病予防法で、国や都道府県の施策に協力して、発生の予防とまん延の防止に役立つ措置を講ずるよう努める立場とされています(第2条の3)。いのししや野鳥などの野生鳥獣の被害や捕獲の許可は、都道府県のほか、権限の移された市町村が窓口になる場合があります。窓口の考え方はイノシシ駆除を市役所に頼める範囲も参考になります。家畜に異状があるときは、防疫上の通報が別に必要になることがあるため、害獣の相談とは切り離して家畜保健衛生所へ連絡します。
相談前にそろえる情報
相談では、状況が具体的に伝わるほど、指導の中身も具体的になります。次の情報をそろえてから連絡します。
- 畜種と頭羽数、衛生管理区域の平面図
- 野生動物やねずみを確認した日時、場所、写真
- 防鳥ネットや柵の破損箇所と、修繕の予定
- 使っている薬剤の名称と、設置や散布の場所
- 外部の業者が出入りする予定の日
外部の防除業者に頼むときの確認|立入・消毒・報告書
ねずみ・害虫の駆除や網の補修を外部の業者に頼む場合、基準は、外部事業者にも農場のマニュアルを遵守させることを求めています(牛・豚・家きんの基準3)。業者が衛生管理区域に入ること自体が、病原体を持ち込むリスクになるためです。手引き(鶏等の場合)も、施工のために外部事業者が衛生管理区域に立ち入る場合は、出入りの際に消毒等を適切に行う必要があるとしています。
牛・豚・家きんの基準16は、当日に他の畜産関係施設に立ち入った人と、過去一週間以内に海外から入国した人を、衛生管理区域に立ち入らせないことを原則とし、獣医師や飼料運搬業者などの畜産関係者は除いています。防除業者がこの除外に当たるかは条文だけでは読み取れないため、家畜保健衛生所に確認し、業者には当日の他の畜産農場への立入の有無を事前に聞きます。やむを得ず立ち入る場合は、シャワーなどの洗浄や専用の衣服・靴への着替えといった措置が求められます。基準4は、立ち入った人の氏名や所属、立入の年月日、消毒の実施の有無などを記録し、少なくとも1年間保存することを求めています。
見積書と報告書で確認すること
見積書には、作業の範囲(駆除だけか、すき間の封鎖や網の補修も含むか)と、衛生管理区域内で作業する時間帯、立入の条件を書いてもらいます。報告書には、調査日、確認した痕跡、設置位置、使用した薬剤、次回の提案が入っているかを確認します。契約全体の比べ方は定期防除契約の項目の比べ方にまとめています。
| 確認すること | 業者への聞き方 | 農場側の記録 |
|---|---|---|
| 当日の他の畜産施設への立入 | 当日、他の畜産農場や畜産関係施設に入っていないか | 立入者の氏名・所属、立入の年月日、目的、消毒の実施の有無(1年間以上保存) |
| 消毒と更衣 | 手指の消毒、専用の衣服と靴、車両や機材の消毒をどう行うか | 消毒の実施の記録。車両を入れる場合はその消毒の有無 |
| 使う薬剤と設置位置 | 製品名、設置や散布の場所、飼料と水に触れない位置、回収の方法 | 設置位置の図、設置日と回収日 |
| 作業の範囲 | 駆除だけか、すき間の封鎖や網の補修も含むか | 作業内容、完了日、修繕箇所の写真 |
| 報告書 | 調査日、確認した痕跡、設置位置、使用薬剤、次回の提案が入るか | 報告書の保管。家畜保健衛生所の指導の際に示せる状態にする |
| 農場のマニュアル | 出入りのルールを読み、守る旨を確認したか | マニュアルの配布・周知の記録 |






