異物混入の苦情で虫はどれくらい多い?東京都の統計から

東京都保健医療局が公表する令和6年度の食品衛生関係苦情処理集計表では、異物混入の苦情は505件でした。このうち虫は126件で、内訳はゴキブリ41件、ハエ22件、虫卵・幼虫・蛹10件、その他の虫26件、種類が分からないもの27件です。異物の種類別では、合成樹脂類の82件、動物性異物の79件を上回り、虫が最も多くなっています。

飲食店営業に絞ると、異物混入303件のうち虫は93件で、約3割にあたります。ゴキブリが37件、ハエが17件でした。ただし、これは都内の保健所などが受け付けた苦情の集計です。全国の件数や、自分の店で起きる確率を示す数字ではなく、店に直接伝えられて保健所に届かなかった事例も含まれません。年による変動は、下の表から読み取れます。

表の数字は、令和4年度が東京都島しょ保健所の食品衛生FAX通信、令和5年度と6年度が苦情処理集計表に載っている件数です。令和5年度と6年度の割合は、件数から計算した概数です。他の自治体でも、神奈川県は保健福祉事務所に寄せられる食品の相談の約3割が異物混入だと説明し、広島県は令和3年度の苦情の約20%を異物混入が占めたと公表しています。

異物混入の苦情で虫はどれくらい多い?東京都の統計から:確認項目
年度(東京都)異物混入の苦情うち虫虫の割合
令和4年度565件185件32.7%
令和5年度546件162件約30%(件数から計算)
令和6年度505件126件約25%(件数から計算)

参考:東京都保健医療局|令和6年度 食品衛生関係苦情処理集計表 要因別苦情処理件数(異物混入の食品別・施設別分類、PDF)

読者の疑問

料理に虫が入っていたら、保健所へ報告しなければなりませんか?

比較ガイド

食品衛生法施行規則の別表第17は、異物の混入など健康被害につながるおそれが否定できない情報を得たときは、都道府県知事等へ提供するよう努めると定めています。努める、という書きぶりです。窓口や運用は自治体で異なるため、営業許可を受けた保健所に相談してください。体調不良の訴えがある場合は、早めに連絡します。

指摘を受けた直後にすること|現物の保管・写真・記録

東京都島しょ保健所は、消費者向けの案内で、異物が入っていたときは販売先や製造者に連絡して一緒に事実を確認し、原因を調査してもらうよう勧めています。そのうえで、異物や食品の残りは発見時の状態のまま保管し、購入時のレシートや包装も捨てないよう案内しています。お客様がこの案内どおりに動いて保健所へ相談することもあるため、店側も、見つかった状態を変えずに残す協力が欠かせません。

最初にすることは、虫と料理を捨てない、洗わない、つぶさない、薬剤をかけない、の4点です。お客様の了解を得て写真を撮り、日時・席・注文内容・調理と盛り付けの担当者・指摘の内容を、その場で書き留めます。お客様や同席者が体調不良を訴えている場合は、異物の調査より先に医療機関の受診を案内してください。保健所も、健康被害があるときは最初に受診するよう案内しています。

指摘を受けた直後にすること|現物の保管・写真・記録:確認項目
残す記録内容の例後で役立つ場面
発生の経緯提供日時、席、メニュー、調理・盛り付けの担当、お客様が見つけた状況調理や提供のどの段階かを、記録と照らして考える
異物そのもの状態を変えずに容器へ入れ、大きさが分かる写真を撮る保健所や防除業者が種類や状態を確認する
料理と同じ仕込みの食材残りの有無、保管場所、仕入れ日。廃棄してよいかは保健所に聞いてから決める原材料側の混入を切り分ける
店内の記録直近の防除・清掃・納品・トラップ点検の記録店内の発生状況との関係を説明する
お客様の情報連絡先は了解を得た範囲で聞き、体調の変化があれば記録する調査結果の連絡と、保健所への説明

参考:東京都島しょ保健所八丈出張所|食品に関する相談について(消費者の方へ、2025年11月19日更新、2026年10月3日確認)

保健所に相談・報告するときの窓口と伝える内容

食品衛生法施行規則の別表第17には、営業者が守る一般的な衛生管理の基準が定められています。その中に、製品について異物の混入など健康被害につながるおそれが否定できない情報を得たときは、その情報を都道府県知事等に提供するよう努める、という項目があります。「努める」と書かれた項目なので、自治体ごとの案内も合わせて確認し、迷うときは営業許可を受けた保健所に電話で相談してください。

神奈川県は、食品関連事業者からの相談を、主たる事務所の所在地を管轄する保健福祉事務所や保健所へ案内しています。相談を受けた保健所は、異物の検査や食品施設の調査を行い、原因を調べたうえで、営業者へ再発防止の指導や助言をするとされています。伝える内容を、下の表のように整理しておくと、電話での説明が短く済みます。

医師の診断を受けた健康被害や、法令に違反する情報についても、同じ別表に、都道府県知事等へ提供するよう努める項目があります。お客様が受診した、あるいは体調不良が続いていると分かった場合は、異物混入の連絡と合わせて、早めに保健所へ伝えるのが安全です。

保健所に相談・報告するときの窓口と伝える内容:確認項目
伝える項目具体例手元に置く資料
発生の経緯日時、提供した料理、指摘された内容、お客様の連絡先を聞けたか前節の記録メモ
異物の状態現物の有無、保管場所、写真、見つかった場所写真、現物
お客様の様子体調不良や受診の有無(分かる範囲)連絡の記録
店の対応状況現物の保管、お客様への連絡、調理や保管の見直しの有無対応のメモ
店の記録防除、清掃、納品、トラップ点検の記録点検表、防除の報告書

参考:e-Gov法令検索(デジタル庁)|食品衛生法施行規則(別表第17ほか)

虫の種類や状態から混入経路を考えるときの限界

虫の種類や成長段階は、混入経路を考える手がかりになります。ただし、公的な資料を読むと、そこから言えることには限りがあることも分かります。ここでは、種類や状態で分かること、分からないことを分けて確認します。

種類・成長段階から分かること

東京都健康安全研究センターは、保健所などから依頼された食品中の虫92検体(平成18〜20年度)を調べた結果を報告しています。ガの仲間は主に幼虫の姿で、ハエ・甲虫・ハチやアリの仲間は主に成虫の姿で食品に入っていました。食品の中や保管中に発生する虫だけでなく、偶然入り込んだ虫も約3割を占めたとされています。

最も多く見つかった種類はノシメマダラメイガで、タバコシバンムシとチャコウラナメクジが続きました。神奈川県の資料によると、ノシメマダラメイガの幼虫は乾麺、穀類、菓子類など雑食性が強く、ビニール袋や紙袋などの包装材を食い破って混入することもあります。東京都健康安全研究センターの報告では、虫の大きさは5mm以上10mm未満が最多でしたが、5mm未満は見過ごされている可能性が高いとも書かれています。保管食品の虫は食品棚の小さな蛾で、見分け方と発生源の探し方を確認できます。

それでも原因を断定できない理由

同じ研究では、虫に熱が加わっているかを調べる検査(カタラーゼ試験)を行った29検体のうち11検体が、加熱の後に混入したと判断されました。調理中や飲食中に入った可能性も無視できない、ということです。種類が分かっても、仕入れ前、保管中、調理中、提供後のどこで入ったかは決まりません。

広島県の資料は、事業者が原因調査をしても混入場所や経緯が分からないままになる場合が多く、それがお客様の不満につながって保健所への申し出が増えると考察しています。東京都の集計表にある、寿司へのゴキブリ混入の事例でも、店内を確認してもゴキブリは見つからず、過去3か月分の記録にも発生はなかったため、原因は「可能性が考えられた」と整理されています。

虫の種類や状態から混入経路を考えるときの限界:確認項目
見つかった虫の手がかり考えられる方向(公的資料の範囲)断定できないこと
ガの幼虫・さなぎ(ノシメマダラメイガなど)乾物や菓子類など、保管中の食品で育った可能性店の保管中か、仕入れ前か、お客様の手元か
ゴキブリ食品の外にすみ、食べ物を求めて訪れる虫の例とされる。東京都の事例では、厨房での目撃や食材の置き方から経路が推測されたいつ、どの工程で入ったか
ハエ・ハチ・アリなどの成虫成虫の姿で食品に入ることが多いと報告されている厨房内か、客席か、提供後か
野菜に付く虫(コナガなど)食材の選別や洗浄が不十分な場合が推測された例がある仕入先か、下処理か
加熱されたかどうか検査機関が、熱処理を受けたかを調べる方法がある店では判断できず、検査機関の結果を待つ

参考:東京都健康安全研究センター|食品に混入し苦情となった虫類の検査結果(平成18〜20年度、研究年報第60号、PDF)

防除業者に原因調査を頼むときに渡す情報

厚生労働省の解説資料は、ねずみ・昆虫の対策として、年2回以上の駆除作業とその記録の1年間保存を基本にしつつ、発生場所や侵入経路を定期的に調べて必要な措置をとる方法(総合的有害生物管理の考え方)も認めています。外部の事業者に委託するときは、建築物ねずみ昆虫等防除業の登録を受けた事業者など、必要な専門知識を持つ事業者を選ぶよう求めています。

日本ペストコントロール協会が公開している調査・防除の特記仕様書の例では、調査は聞き取り、目視、トラップなどによる調査、環境や施設の調査を、状況に応じて組み合わせます。ゴキブリでは、虫体や糞、卵鞘の有無を見て、粘着トラップの捕獲数から指標を出す方法が示されています。調査の入口は、店側から聞き取られる情報です。下の表の内容を一枚にまとめて渡すと、調査範囲を決めやすくなります。

調査のあとは、報告書に、どの場所で何を確認したか、見つかったものと見つからなかったものが書かれているかを確認します。定期防除の契約に切り替えるときは、害虫の定期防除契約で訪問回数や報告の内容を、捕獲数の読み方は害虫の捕獲数をどう読むかで確認できます。

防除業者に原因調査を頼むときに渡す情報:確認項目
渡す情報内容の例調査での使われ方
苦情の経緯指摘の日時、料理、虫の状態、お客様の訴え聞き取り調査の出発点になる
虫の写真大きさが分かる写真(定規を添える)種類を絞り、発生源の候補を考える
過去の防除・点検記録訪問報告書、トラップの捕獲数、使った薬剤の製品名と日付発生の傾向と、これまでの対策を確認する
厨房・保管場所の配置調理場、食材の置き場、ごみ置き場、排水、搬入口の位置調べる区画と順番を決める
納品・仕入れの記録仕入れ先、納品日、段ボールの開封場所持ち込みの可能性を切り分ける
営業時間と立入の条件調査できる時間帯、立ち入れない場所営業を止めない調査の段取りを組む

参考:厚生労働省|衛生管理の基準の解説(食品衛生法施行規則 別表第17の解説資料、PDF、2026年10月3日確認)

再発防止|工程・保管・清掃の見直しと記録

東京都の資料は、異物混入の対策を「持ち込まない・侵入させない・作らない・取り除く」の4方向で整理し、整理・整頓・清掃・修理・習慣の5Sで続けることを勧めています。虫については、侵入経路をふさぐ、繁殖させない、生息状況を確認して駆除する、の3つが基本です。

ゴキブリ・ハエ向けの点検

東京都の資料に載っている、ラーメンへのチャバネゴキブリ混入の事例では、定期的に駆除をしていても厨房でゴキブリを見かけることがあり、窓際に置いたもやしのバケツに入った個体がそのまま調理されたと推測されました。駆除をしていることと、混入を防げていることは、別の問題です。

  • 換気扇、裏口、壁のひび割れ、排水ホースなど、侵入経路になりやすい場所のすき間をふさぐ(東京都の資料の例)
  • 食材、生ごみ、段ボールを放置しない。床は水切りし、シンクはなるべく乾燥させる
  • 捕獲用トラップを置き、週1回以上は確認する。ベイト剤(毒餌)や害虫防除業者も活用する
  • ごみ置き場、食器洗浄機の内部、フライヤーの周り、冷蔵庫のモーター、食品倉庫や保管棚を、点検の定位置にする

乾物・粉類・保管食品の見直し

食品衛生法施行規則の別表第17は、原材料・製品・包装資材を容器に入れ、床や壁から離して保存すること、一度開封したものは蓋付きの容器に入れるなど汚染を防ぐ対策をして保存することを求めています。保管棚の乾物、粉類、菓子の在庫は、開封日と入庫日を書いて、古いものから使い切る順にそろえると、見落としを減らせます。

  • 見直した場所、日付、担当者を、点検表に書いて残す
  • 別表第17は、ねずみ・昆虫の駆除作業の実施記録を1年間保存するよう定めている(定期的な調査に基づく方法でもよい)

参考:東京都|異物混入対策について(事例とゴキブリ対策、PDF)

お客様への説明で気をつけること|断定せず、調査結果を待つ

広島県が令和4年11月から令和5年1月にかけて行った県民アンケート(有効回答386人)では、食品の異物混入を経験した人が25%で、そのうち店に伝える人は約59%でした。伝えたのに対応に納得できなかった経験がある人の理由で最も多かったのは、「原因がわからず説明が不十分」の37%です。小規模なアンケートなので傾向の目安ですが、お客様が求めているのは、結論よりも、調べた経緯の説明だと読み取れます。

広島県の別の資料でも、事業者の対応に納得できず行政に申し出られた苦情のうち、異物混入が最も多かったとされています。説明では、虫の種類や混入の原因を店の側で断定せず、確認できた事実、まだ分かっていないこと、次に連絡する時期を伝えます。「うちの厨房ではない」「お客様の持ち込みでは」といった推測は、根拠が示せないかぎり避けてください。保健所から連絡があった場合は、保健所への説明とお客様への説明が食い違わないようにします。

返金や補償をどうするかは、保健所の調査とは別の、契約や賠償に関わる判断です。この記事では扱いません。必要に応じて、弁護士や、加入している保険の窓口に確認してください。

お客様への説明で気をつけること|断定せず、調査結果を待つ:確認項目
場面伝えること避けること
指摘を受けた直後お詫びと、状況を確認すること、現物を残したいというお願い「ありえない」と否定する、虫の種類を店で言い切る
数日後の連絡調べた範囲(店内の確認、記録、防除業者の調査)と、まだ分からないこと根拠のない原因の説明
原因が特定できなかったとき特定できなかった理由と、今回取った再発防止の対策「問題ありません」と言い切る
保健所から連絡があったとき保健所の指示に従って、同じ内容を説明する店だけの独自の説明を続ける

参考:広島県|食品衛生に係る苦情等のアンケート調査の結果について(令和5年3月、資料7、PDF)