建築物衛生法でねずみ・害虫の防除が求められる特定建築物とは

建築物衛生法(正式名称は「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」、通称ビル管理法)は、多数の人が使う建物の衛生環境を保つための法律です。空気環境、給水・排水、清掃、ねずみ・昆虫等の防除を「建築物環境衛生管理基準」として定め、特定建築物の所有者や占有者など維持管理の権原を持つ人に、この基準に従う義務を課しています。

特定建築物かどうかは、用途と延べ面積で決まります。施行令第1条では、興行場、百貨店、集会場、図書館、博物館、美術館、遊技場、店舗、事務所、学校(研修所を含む)、旅館のいずれかに使う部分の延べ面積が3,000平方メートル以上の建築物です。専ら学校教育法第1条の学校などに使う建築物は8,000平方メートル以上です。

延べ面積の数え方で迷いやすい点

厚生労働省のQ&Aによると、面積は一つの建築物を単位に、専ら特定用途に使う部分、それに伴う廊下や階段などの共用部分、百貨店内の倉庫や事務所の駐車場のような附属部分を合計して判断します。専ら特定用途以外に使う部分(独立した診療所の専用部分など)は合計に入りません。個別の判断は保健所に問い合わせます。

  • 渡り廊下や地下通路でつながる2棟以上の建物も、判断は1棟ごとに行い、何棟と数えるかは原則として建築基準法の取扱いによる
  • 駅や地下街の通路・広場は建築物にあたらないが、内部の店舗や事務所の面積の合計が要件を満たせば該当することがある

該当したときに生じる手続き

特定建築物に当たると、所有者(建物全部の管理について権原を持つ人がいればその人)には、使い始めてから1か月以内の届出、建築物環境衛生管理技術者の選任、帳簿書類の備え付け、立入検査への対応が求められ、届出や選任、帳簿書類の不備には30万円以下の罰金の規定があります。

建築物衛生法でねずみ・害虫の防除が求められる特定建築物とは:確認項目
確認する点内容(2026年10月3日に確認した政令と厚生労働省の説明)
対象の用途興行場、百貨店、集会場、図書館、博物館、美術館、遊技場、店舗、事務所、学校(研修所を含む)、旅館
面積の要件上の用途に使う部分の延べ面積が3,000平方メートル以上。専ら学校教育法第1条の学校などに使う建築物は8,000平方メートル以上
面積に入れる部分専ら特定用途の部分、それに伴う共用部分、附属する倉庫や駐車場など。専ら特定用途以外の部分は入れない

参考:厚生労働省|特定建築物の定義に関するQ&A(2026年10月3日確認)

読者の疑問

建築物衛生法でねずみの調査は何か月ごとに必要ですか?

比較ガイド

特定建築物では、施行規則に基づき6か月以内ごとに1回、定期に統一的に調べ、結果に基づく措置を取ります。食料を扱う区域やごみ保管設備の周辺は、技術上の基準で2か月以内ごとの調査が示されています。

建築物環境衛生管理基準のねずみ等の防除|6か月以内ごとの調査と2か月ごとの点検

防除の対象は「ねずみ等」で、施行規則はねずみ、昆虫その他の人の健康を損なう事態を生じさせるおそれのある動物と定義しています。厚生労働省の維持管理マニュアルは、ネズミとゴキブリのほか、蚊、ハエ・コバエ類、吸血性のダニの調べ方と目標水準の例も載せています。

調査の頻度を定めているのは、施行規則第4条の5です。ねずみ等の発生場所、生息場所、侵入経路、被害の状況を6か月以内ごとに1回、定期に統一的に調査し、結果に基づいて発生を防ぐ措置を取ります。条文は「統一的」の中身まで定義していないので、建物全体を同じ手順で調べて前回と比べられる形にする、と考えると計画を立てやすくなります。

6か月と2か月、数字の使い分け

6か月以内ごとの調査は、施行規則に基づく基準です。別に、厚生労働省告示第119号の技術上の基準が、食料を取り扱う区域や、排水槽・阻集器・廃棄物の保管設備の周辺など特にねずみ等が発生しやすい箇所について、2か月以内ごとに1回の調査を定めています。施行規則はこの技術上の基準に従うよう努めることを求めており、厨房やごみ置き場のある建物では2か月の間隔で点検を計画するのが現実的です。ごみ置き場の見方は建物のごみ保管室の点検にまとめています。

自治体が上乗せする頻度

自治体が指導の目安をより細かくしている例もあります。東京都江東区の特定建築物向け案内(2025年7月7日更新)は、東京都の指導基準に合わせるとして、ねずみ等の生息状況の点検を原則月1回以上と示しています。建物の所在地の保健所が別の目安を出していないか、計画を立てる前に確認してください。

建築物環境衛生管理基準のねずみ等の防除|6か月以内ごとの調査と2か月ごとの点検:確認項目
定め内容位置づけ
施行規則 第4条の5 第2項発生場所・生息場所・侵入経路・被害の状況を6か月以内ごとに1回、定期に統一的に調査し、結果に基づく措置を取る特定建築物の基準として従う
厚生労働省告示第119号食料を取り扱う区域や、排水槽・阻集器・廃棄物の保管設備の周辺などを2か月以内ごとに1回調査。防そ防虫網の点検と補修施行規則が従うよう努めることを求める技術上の基準
自治体の指導基準(東京都・江東区の例)ねずみ等の生息状況の点検を原則月1回以上地域ごとの指導で、全国一律ではない

参考:e-Gov法令検索(デジタル庁)|建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行規則

IPM(総合的有害生物管理)の手順|調査・目標水準・措置・効果判定

厚生労働省の維持管理要領は、ねずみ等の防除をIPM(総合的有害生物管理)の考え方を取り入れた体系で行うよう求めています。有効で適切な技術を組み合わせ、人の健康へのリスクと環境への負荷を小さくしながら有害生物を制御し、そのレベルを保つ管理です。

マニュアルは、生息数をゼロにすることを目標にしない理由も書いています。わずかな見落としや外部からの侵入があるため、ゼロを目指すと負担が大きく、過度な薬剤の使用を招いた例もあるという考え方で、許容・警戒・措置の3段階の水準で管理します。トラップの配置や設置日数をそろえて数える方法は、害虫の捕獲数の読み方が参考になります。

IPMの進め方を6つの手順にする

マニュアルが示す手順を、建物側で動かしやすい順に並べると次のとおりです。区域ごとに責任者と担当者を決め、目標水準を設定し、調査の結果がどの水準かを判定して、水準に応じた措置を行い、効果を判定します。

  • 責任者と担当者を決め、区域ごとの役割を分ける
  • 区域ごとの目標水準を設定する(マニュアルの水準値が出発点)
  • 知識のある技術者がまず全体を目視し、問題がありそうな場所でトラップなどによる客観的な調査を行う
  • 結果を許容・警戒・措置の水準に当てはめ、措置を決める
  • 措置のあとに効果を判定し、水準を満たさなければ原因を調べて再度措置する
  • 経過のすべてを記録して保存する

ねずみ以外の例(ゴキブリなど)

ゴキブリでは、粘着トラップの捕獲指数が0.5未満、1個のトラップに2匹未満、生きた個体の目撃がない状態が許容水準で、捕獲指数が1以上などの場合は措置水準です。ハエ・コバエ類や吸血性のダニにも別の水準値があり、区域に合わせて関係者で協議して決めるとされています。

IPM(総合的有害生物管理)の手順|調査・目標水準・措置・効果判定:確認項目
水準ねずみの目安(維持管理マニュアルの例)基本の動き
許容水準生きた個体が確認されず、無毒餌が食べられず、天井の出入口に置いた黒紙に足跡やかじり跡が付かない良好な状態。定期調査を続ける
警戒水準生きた個体は確認されないが、無毒餌の喫食と黒紙の跡のどちらか一方が確認される整理整頓や清掃など環境整備を見直す
措置水準生きた個体の確認、食品や什器への咬害、無毒餌の喫食と黒紙の跡の両方、のいずれか環境面の対策と防除作業を併せて行う

参考:厚生労働省|建築物における維持管理マニュアル 第6章 ねずみ等の防除(PDF)

薬剤を使うときの条件|承認された製品と利用者への周知

施行規則は、防除に殺そ剤や殺虫剤を使う場合、医薬品医療機器等法の承認を受けた医薬品または医薬部外品を用いることを定めています。市販品でも業者の薬剤でも、製品の表示で区分を確認し、使い方と注意事項は表示に従うのが基本です。当サイトでは希釈や用量の目安は示しません。

維持管理要領は、薬剤を使うときに種類・薬量・処理法・処理区域を十分に検討し、日時や作業方法を利用者に周知するよう求めています。毒餌は誤食を防ぎ、作業が終わったら直ちに回収します。散布のあとは一定時間の入室を禁じて換気するなど、利用者の安全を確保します。

マニュアルには、薬剤を処理する少なくとも3日前までに事前通知書を提示し、実施の3日後まで入口に掲示する運用例が載っています。日常的に乳幼児がいる区域では、薬剤による処理を避けるとも書かれています。通知や掲示には、マニュアルの項目に問い合わせ先を足した次の内容を入れます。

  • 使用する薬剤の名称と、実施する場所・日時
  • においの程度と、利用者に注意してほしいこと(入室制限、換気の時間など)
  • 問い合わせ先(建物の管理者と施工業者の連絡窓口)

参考:厚生労働省|建築物における衛生的環境の維持管理について(健発第0125001号・建築物環境衛生維持管理要領)(PDF)

記録(帳簿書類)の進め方|何を、何年、どこに残すか

特定建築物所有者等は、施行規則第20条により、ねずみ等の防除を含む維持管理の状況(測定や検査の結果、設備の点検・整備の状況を含む)を記載した帳簿書類を備えます。建物の平面図・断面図や設備の配置を示す図面も備え、防除の状況を記した帳簿書類は5年間保存します。

防除の記録に何を書くかは、維持管理要領が挙げています。防除作業の日時、場所、実施者、調査の方法と結果、決めた基準(水準)、措置の手段、実施場所、使用した薬剤、評価の結果などです。江東区の案内は、帳簿書類の保存が書面に限らず電磁的記録でも可能になったと説明しています。

記録(帳簿書類)の進め方|何を、何年、どこに残すか:確認項目
残す項目中身の例根拠・出どころ
調査調査日、責任者、場所、方法(目視・トラップ・聞き取り)、結果、判定した水準維持管理要領・マニュアル
措置環境整備、侵入口の補修、トラップや薬剤の使用、使用した薬剤名維持管理要領
評価効果判定の結果、水準を満たさなかったときの原因と再措置維持管理要領・マニュアル

参考:厚生労働省|建築物における衛生的環境の維持管理について(健発第0125001号・建築物環境衛生維持管理要領)(PDF)

テナントとビル管理者の役割分担|維持管理権原者は誰か

法第4条の義務を負うのは、特定建築物の所有者、占有者その他の者で、維持管理について権原を持つ人です。厚生労働省の通知(2009年12月18日、技術的助言)は、所有権があるだけで自動的に義務者になるのではなく、実態として適切に維持管理できる権限があるかで考えると整理しています。複数の権原者がいる建物もあります。

テナント側の行動も、この枠組みの外にあるわけではありません。維持管理要領は、発生源対策のうち清掃や整理整頓などの環境整備を、維持管理権原者の責任のもとで日常的に実施するとしています。食品の保管、ごみの出し方、搬入荷物の扱いは区画を使う人の行動に左右されるため、賃貸借契約や入居者向けのルールで分担を決めておくと運用しやすくなります。

分担表に入れておきたい項目

区画を分けて使う建物では、調査や措置の日に迷わないよう、次の項目を分担表にしておくと便利です。契約への書き方は管理会社や保健所と確認してください。

  • 共用部分の調査と措置を行う担当者と、実施の時期
  • 専用区画の環境整備(食品・ごみ・搬入荷物)を行う人
  • 薬剤を使う日の周知方法と、区画への立ち入り・立ち会いの扱い
  • 目撃や痕跡の連絡窓口と、記録を保管する場所
テナントとビル管理者の役割分担|維持管理権原者は誰か:確認項目
建物の使われ方権原者の考え方(通知の整理)
契約で、所有者が維持管理する、または所有者の指示に従うと明示一般に所有者が権原者
占有者が共用部分を含む建物全体を占有し、契約で一切の権限を与えられている原則としてその占有者が権原者
複数の占有者がいて、建物全体の維持管理の権限が占有者の間で明確各占有者が権原者になることがある
清掃や防除などの業務を受託した業者義務の履行に必要な権限を持たない限り、一般に権原者にあたらない
区分所有の建物一般に区分所有者の各自。管理組合法人が必要な権限を持つ場合は、管理組合法人がなることがある

参考:厚生労働省|特定建築物の維持管理について権原を有する者の解釈等について(健発1218第2号)(PDF)

特定建築物以外の店舗・事務所・共同住宅の扱い

特定建築物に当たらない建物でも、多数の人が使用または利用する建築物であれば、法第4条第3項により、維持管理の権原を持つ人は建築物環境衛生管理基準に従って維持管理するよう努めることとされています。努力義務の位置づけで、小さな建物でも6か月以内ごとの調査と記録は参考にできます。

共同住宅は、厚生労働省が示す特定用途の一覧に入っていません。法律の本文には「共同住宅等」という例示がありますが、具体的な対象は施行令の用途一覧で決まります。1階に店舗が入る複合の建物でも、店舗など特定用途部分の合計が3,000平方メートル以上かで見ます。住戸の中の害虫やねずみは賃貸借契約や管理規約の問題として整理することになり、マンションの共用部で被害を見つけたときの伝え方が参考になります。民泊の見回りは民泊の害虫対策で扱っています。

特定建築物以外の店舗・事務所・共同住宅の扱い:確認項目
建物特定用途の一覧との関係特定建築物に当たらないときの見方
店舗・事務所ビル店舗と事務所は特定用途。その部分の延べ面積が3,000平方メートル以上で該当満たなければ努力義務の扱い。調査と記録は自主管理の物差しになる
病院・診療所・介護施設一覧に挙がっていない。事務所など特定用途にあたる部分があれば、その部分を別に判断する多数の人が使う建物としての考え方は参考になる
共同住宅一覧に入っていない。住戸部分は面積の対象外と読める賃貸借契約、管理規約、保健所への相談で整理する

参考:e-Gov法令検索(デジタル庁)|建築物における衛生的環境の確保に関する法律

防除業者に頼むときの仕様と報告書の確認|登録業者の位置づけ

業者に頼む場合は、仕様書や見積条件に何を入れるかが調査と記録の質を左右します。横浜市が公表している建築物ねずみ昆虫等防除業の登録基準には、業者が提出する作業実施方法に書くべき事項が並んでおり、仕様を考える参考になります。表は、その事項と法令・資料との対応です。

登録制度でわかること、わからないこと

ねずみ・昆虫等の防除を行う事業者には、建築物衛生法に基づく「建築物ねずみ昆虫等防除業」の登録制度があります。営業所ごとに都道府県知事の登録を受けることができ、有効期間は6年で、登録した営業所は「登録建築物ねずみ昆虫等防除業」と表示できます。埼玉県の案内は、登録を受けないことで業務が制限されるわけではないとしており、登録の有無は確認材料の一つとして、調査や報告の内容と合わせて見ます。

報告書で確認する項目

マニュアルは、調査のあとに作る記録書の項目として、調査日、調査責任者、調査場所、環境と被害の状況、ねずみの種類と推定される生息数、巣の場所、侵入経路、構造上と管理上の問題点、必要な防除計画を挙げています。写真や所見だけで終わらず、これらが分かる報告書かを確認します。契約の組み立ては害虫の定期防除契約の見方、年間の計画は建物の年間点検計画が参考になります。

防除業者に頼むときの仕様と報告書の確認|登録業者の位置づけ:確認項目
確認する項目依頼前に聞くこと・仕様に入れること参考にした資料
調査と作業計画調査の結果で作業計画を立てるか。調査の方法は何か施行規則、横浜市の登録基準
調査の頻度建物全体は6か月以内ごと、食料を扱う区域やごみ保管設備の周辺は2か月以内ごとを含む訪問計画か施行規則、告示第119号
薬剤薬剤の種類を作業前に示すか。承認を受けた医薬品・医薬部外品か。施錠できる保管庫に置くか施行規則、横浜市の登録基準
周知と作業後の処理事前通知・掲示・入室制限・換気の段取りと、毒餌やトラップの回収、清掃を含むか維持管理要領、横浜市の登録基準
効果判定判定の時期と方法、水準を満たさない場合の再作業の扱いマニュアル、横浜市の登録基準
報告書と保存調査・措置・使用薬剤・評価を含むか。依頼者への提出と控えの保存(横浜市の基準例は2部作成し1部を5年間保存)維持管理要領、横浜市の登録基準
苦情・緊急連絡目撃や苦情の連絡に迅速に対応できる体制と連絡先があるかマニュアル、横浜市の登録基準

参考:埼玉県|建築物衛生・建築物事業登録制度の概要